神様はどうかしてる
俺が故郷を飛び出したのは七歳の時であり、それ以来剣の腕だけで何とかやってきた。
……七歳である、常識的に考えればありえないだろう。
想像してほしい。体長一mに満たない子供が、荒くれ者と、山賊と、怪物と渡り合う姿を。
物語ならいざ知らず、現実では体格的に無理が来る。
剣を振るうには筋力が足りず、相手に致命傷を与えるには体重が足らない。
痛い目に合うのが普通である。
――だがここは異世界、常識など通用しない。
俺は今日まで戦闘において遅れを取ったことはない。
何故なら【剣2】を持っていたから――
強盗団の団長らしき男が驚愕を浮かべている。
それもそうだろう、渾身の一撃がいとも容易く防がれたのだから。
しかも相手は、剣を持って突っ立ってただけであるから余計だ。
「くっ、こんなっ!こんなの何かの間違いだ!」
悪夢を振り振り払うかのように二の撃を放つ。
団長は明らかに動揺していたが、その斧の冴えは些かも衰えない。
重力も慣性も無視した一撃。
しかしそれも剣を合わせるだけで防がれる。
「なんだ!これは、何なんだ!!」
三の撃、四の撃……竜巻のような連撃が繰り出されるが、結果は変わらない。
かすり傷どころか、手がしびれることすらない。
――これがスキルである
俺は初めて自分のスキルが【剣2】だとわかったとき、嘆き悲しんだ。
だが、それは間違いだった。
……この世界のスキルはマジでヤバイ。
スキルを持っている奴が対応した武器を持つと様々なスキル効果を得られる。
具体的に言うとスキルを持っていたらその武器の達人になるし、武器の重さも無視して振り回すことができる。
筋力・体重に関わらず高威力を出すことができ、何なら斬撃を飛ばすことだってできる。
しかもこのスキル、熟練度というものがない。
赤子だろうが、老人だろうが一定の効果が得られてしまうのだ。
目の前の強盗団の団長も、恐らく戦闘の心得などなかっただろう。しかし、斧スキルを持っていただけで、訓練も必要なく誰も敵わない存在になってしまった。
……そう、一番の問題はそこだ。勝てないのである。
一般的にスキル無しの人がスキル持ちに勝つことはできないといわれている。
そしてそれはそのままスキルレベルにも適応される。
つまり【1】のスキルは【2】のスキルに勝てないし、【2】のスキルは【3】のスキルに勝てない。
それは、死ぬほど努力したとか、幸運にも一撃が入ったとか、そういうレベルでは覆されないほどの絶対である。
これは、この世界の長い歴史が証明している。
……こんなものを生まれつき付与するとか、神様はどうかしてる。
さて――
「満足したか?」
相手の斧の間隙を縫って、剣をふるう。
その一撃で――
「なっ!」
――斧が粉々に砕けた。
……相手のスキルは【斧1】、俺の【剣2】とはこれだけの差がある。
そして、スキルは対応武器を持っていない限り発動しない。
斧を砕いた時点でもう反撃もできないだろう。
「終わりだ」
武器を失い呆けている相手の両手両足に素早く剣をふるう。
「ぐわああぁぁぁ!!」
ずしん、と音をたてて地面に倒れこむ。
腱を切ったからもう立ち上がることはできないだろう。
「馬鹿な……そんな馬鹿な……選ばれた俺が……」
選ばれた……か、
「まあ、お前が選ばれたというのは認めるよ」
だが――
「だからといって、お前が特別に許されるなんてことはないけどな」
その言葉を聞くと、団長は震えだした。
これからその身に起こることを想像したのかもしれない。
「さてと……」
まだ仕事は終わっていない。後片付けをしなければ。
遠くからこちらをうかがっている奴らがいる。強盗団の一味だろう。
「う……嘘だろ、団長がやられた……」
「早く逃げねえと!」
どうやら逃げるらしいな、だが――
「一人も逃がさねえよ」