泣き言は言うな
「ここだな」
強盗団が商店のある町の一角にたどり着く。
団員の調査により、今夜のターゲットとしてここを選んだのだ。
この商店は最近景気がよく、金品も溜め込んでるだろうという見立てによる選定であった。
「退いてろおまえら」
それゆえ、警備もしっかりしてるだろうがそれは考慮には入れてない。
なぜなら――
「オラァァァ!!!」
――スキル持ちにそんな心配など無用だからだ。
裂帛の気合いと共に放たれた斧の一撃が、分厚い商店の壁を軽々とぶち抜く。
……たった一撃で大人二~三人が通れる穴を開けたのだ。
「よし、てめえら金品を根こそぎ奪ってこい!もたついてる奴は斧の餌食にしてやるからな!」
団員が号令を掛けると、部下達は必死の形相で店内に散っていた。
「さてと、俺も――ん?」
部下達の後を追い、中に入ろうとした団長がその足を止める。
こちらに駆け寄ってくる足音に気がついたからだ。
「こっちだ!こっちから物音が……うっ!」
二人の警備員が物音を聞き付け駆け付ける。
しかし駆け付けた警備員は、団長を見るなり後悔した。
――大きな体躯に鉄塊のような斧、一目でその男が噂のスキル持ちだと理解したからだ。
「や、やばっ……逃げましょう!」
「ここは俺が抑えるから、すぐに応援を呼んでこい!」
「そんな場合じゃないですから!あいつは――」
――その言葉の先が放たれることはなかった。
何故なら、最後まで言い切る前に胴と首が離れたからだ。
「……え?……は?……何が?」
数メートル先にいた相手が目の前にいる。
振られただろう斧は視認すら出来ない。
最早、常識を外れた身体能力に警備員の頭が追い付くことはなかった。
「ツレねえじゃねえか!もっと遊んでけよ!」
ガハハと団長が嗤う。
「ヒッ!」
警備員も手にした警棒で抵抗を試みるが――
「……フンッ!」
次の瞬間には、胴を両断されていた。
「……けっ、あっけねえ。退屈しのぎにもなりゃしねえ」
そうボヤき、金品物色に参加しようと振り返り――
――その足を止めた
「…………?」
路地の向こう、視線の先に男が立っていたからだ。
(……なんだあいつは?何時からいた?)
団長が困惑するのも無理はない。何故なら先に来た警備員の接近には、姿を現す前に気が付くことができたのに、目の前の男に関しては視認するまで気が付かなかったからだ。
「…………」
その男の容貌は、取り立てて特記するところはなく中庸。身体は鍛えてあるようだが、特段恵まれてる訳でもない。歳は十五~六位。相当若い……が、仕事をするに若過ぎる年齢でもない。
しかし、団長はこの男がさっきまでの相手とは違うと判断した。
何故なら、装備が物々しい。
左腰には片手剣携え、右腰には――
(……ボウガン?)
――射撃武器を携えている。
(……少なくとも、警備員じゃねえな)
男は団長を見るなり凄く嫌そうな顔をしたが、警備員の死体を見つけると――
「…………」
――表情を消した
「……一応聞いておくけど、あんたが強盗団……ってことでいいんだよな?」
「あぁ?見りゃわかんだろ?」
「そうだろうけどさ、確認だよ。勘違いで対立したら悪いからさ」
「……そういうお前はなんだ?」
「俺か?俺は……冒険者だ」
「冒険者?深夜の商店でも冒険しようってのかよ?」
「いや……まあ、商店の護衛を頼まれてな」
「へぇ……」
男の言葉に、団長が薄く笑う。
「そいつはまた運が悪いな」
「そうでもないさ、大した相手でもなさそうだしな」
ピクリ……と、団長のこめかみに青筋が浮き出る。
「……お前、この斧が目に入らないのか?」
「ふーん、そいつはまた立派な斧じゃん」
男は適当に驚き――
「……いっそ木こりにでも転職したほうがお似合いじゃないか?」
――侮辱した
その言葉に、団長の我慢が限界を迎え、雄叫びをあげて突進する。
それに対して、男はゆっくりと剣を構え――
(木こりだと――)
剣を構え――
(――選ばれた俺が木こりだと!)
――ただ剣を構えた
男との距離を一瞬で詰めた団長は、感情のまま斧を振り下ろす。
「てめえはミンチにしてやる!」
鉄塊のごとき斧は、構えられた剣ごと男を砕くべく振り下ろされ――
「…………は?」
ただ構えただけの剣に止められていた
「……泣き言は言うなよ」