才能は非情
――スキル、それは異世界における定番設定であり元の世界における技術や技能とは意味が全く違う。
元の世界では訓練などによって獲得した技術をスキルと呼ぶが、異世界においてのスキルは……ぶっちゃけ超能力である。
そして、それは俺がいる異世界においても適用され、もちろん異世界転生者である俺もスキル持ちだ。
――それで何のスキルを持ってるのかって?
………………【剣2】ですが何か?
――最高2段階で2なのかって?
ちがいます、最高5段階中2番目です。
………………いや、おかしいだろ!異世界特典で5だろそこは!そして道行く人々に「あ、あいつは伝説の5スキル持ちッッ!!」とか言われるもんだろそこは!
……しかし現実は非情である。どれだけ祈っても、どれだけ訓練しても値が変化することはなかった。
なぜならこの世界におけるスキルは、生まれつき与えられるもので、後から成長したり、変化したり、追加されたりすることがないからだ。
……つまりどういうことかというと
――この世は才能が全てということだ
「――っていうと、にいちゃんはスキル持ちだっていうのか?」
「ああ、そうだ……二枚チェンジ」
狭い小屋の中、手札を捨てながら答える。
ここは商会の警備部屋。結局依頼を受けた俺は、常駐の警備員とカードゲームに興じていた。
「へぇ~、さすが本物のギルド職員っすね。俺、スキル持ちなんて初めて会ったっすよ……あ、一枚チェンジで」
若手の警備員が軽いノリで答える。スキル持ちがどういう存在かピンときてないのだろう。
まあそれも仕方ない、スキル持ちは希少だ。それこそ一生において一度も出会わないことだって普通にありえる。
「ちなみに俺のことはギルド職員ではなく、冒険者と呼べ」
「……冒険者ってなんすか?生き様っすか?」
生き様か……それも悪くない。
「ま、まあ、何にせよスキル持ちが警備についてくれるんなら安心だな」
ひげ面のおっちゃん警備員が安心した顔で言うが……正直こっちは心配だ。
さっきの若い警備員の態度もそうだが……こいつら、わかっちゃあいない
「……一応言っておくが、万が一強盗団が現れたら何も考えずに逃げろよ」
「え?でも、それじゃあ警備の仕事になんないじゃないっすか?」
「応援を呼ぶぐらいはしねえと……」
……はっきり言って認識が甘い、甘すぎる。なので強い口調で忠告する。
「いいか、まず逃げろ。そして逃げ切ってから応援を呼べ。お前らも聞いてると思うが、強盗団にはスキル持ちがいるらしい。そしてスキル持ちは、お前らが思っている以上に常識外れの存在だ」
「そんなにヤバいっすか?」
「……お前らスキル持ちに会ったことないだろ」
警備員の二人が顔を見合わせて返事をする。
「そうだが……どうしてそう思うんだ?」
「一度でもスキルを見たことがあれば、そんな反応にはならないさ。……いいか?忠告はしたからな」
警備小屋に緊張した空気が流れる。これくらい警戒心をもってれば十分だろう。
「……まあ、騎士団が奴らを捕まえるまでの辛抱だ。それに、数ある商会の中からピンポイントでここを襲うとは思えないしな」
「そ、そうだよな……取り敢えず他の連中にもいっとくぜ」
「それがいい……そして、カードオープン!二枚揃いだ!」
意識が逸れた今、その隙を突かせてもらう!悪いが勝負は非情……
「あ、俺三枚揃いっす」
「……俺もだ」
……なん……だと……
「……にいちゃんすっと負け続きじゃねえか。ギャンブルの才能はきっとねえぜ」
そんな馬鹿な……