派遣会社ギルド
――ギルド、それは俺TUEEE系異世界転生者の8割が所属することになるといわれる組織である
あらゆる国に存在しながらも国家に属さず独立した組織であり
自由の象徴である【冒険者】を擁立し
時に魔物の軍団との戦いを指揮し
時に古代遺跡の調査を指導し
時にダンジョンに向かう冒険者の支えとなる
軍隊よりも強力な力を持ち、如何なる権力にも屈しない組織
それがギルド!!
「そんな組織あるわけないだろ……」
ギルドに顔を出して受付嬢(美人)に絡んでいた俺に、異世界の夢を壊すべく声がかかる。
長身、釣り目、腰までかかる長い髪。マフィアの女幹部にいそうな風貌をもった目の前の人物は、
「ギルマスか」
「そんな呼び方してるのあんただけだよ、ラウル」
――ちなみに、ラウルは俺の名前だ
「国以上の軍事力を持っていないのか?」
「持ってたら国家転覆できちまうわな」
「古代遺跡の調査は?」
「金になるのかそれ」
「如何なる権力にも屈しない……」
「うちはお上とズブズブだよ」
そんな話、聞きたくなかった……
「そもそも冒険者ってなんだよ」
「俺らのことだろ?」
「……冒険してるのか?」
「いや……してない……な」
冒険……?冒険ってなんだ?
「じゃあ、俺の肩書は一体何なんだ?」
「派遣社員じゃないか」
…………派遣……社員……ですか……
――先の会話からわかるだろうが、この世界のギルドは絶大な権力を有していない。
そもそも冒険者を相互補助するための機関ですらない。
では何をする組織かというと、ギルドマスターも言っていたが【何でも屋の派遣社員】だろう。
町の人や国などからの依頼を受けて、登録されている職員を派遣し対価をもらう。そんな組織。
ただ、普通の何でも屋と違うところは荒事を含めた仕事ができるとことが前提とされている点だ。
故に、金に困った奴や腕自慢だが騎士団や傭兵などに入りたくない人などが集まり、ちゃんと組織として成立している。
ちなみに俺もその一人である。
「そもそも今日は何しに来たんだ?」
「何しにって……仕事をもらいに来たに決まってるだろ」
「お前には少なくない給料を払ってるつもりだったんだが」
「生活には余裕をもっておきたいからな」
「浪費が過ぎるんだよ」
ギルマスは受付嬢に何やら指示して書類を持ってこさせる
「簡単なものを頼む」
「贅沢言うんじゃない……これなんてどうだ?」
そう言って一枚の紙を差し出す。
そこには
「商店の警備依頼……?」
「ああ、仕事内容も報酬も手頃だろう?」
警備依頼はギルドの仕事の中ではスタンダードなものだ。俺も何度もお世話になっているからそれ自体は問題ないのだが……気になる点が一つ。
「商店の警備なら、常駐の警備員がいるんじゃないのか?」
「一時的にも警備を増やしたいという奴がここの所多くてな」
「何か理由でもあるのか?」
「ああ……」
そう答えながらギルマスは目の前で煙草に火を点ける
「最近、強盗団が暴れまわっている話は聞いてるか?」
「そういえば、新聞に載ってたな」
「そいつらが、いわゆる武闘派の強盗団でな。金を持ってるやつらが焦って依頼を出してきたという寸法さ」
……なるほどな、しかしそれなら
「騎士団はどうしてるんだ?強盗を捕まえるなら、あいつらの仕事だろ?」
「ちゃんと動いてるよ。なんなら逮捕まで秒読み寸前らしいぞ」
「それで期間が短いんだな」
強盗団が捕まるか、この町から逃げるまでの繋ぎってことだ
「わかった、これでいいや。この依頼受けるよ」
俺は深く考えず決断する。それほど大変な仕事でもないだろう。
するとギルマスはニヤリと笑い、書類を受付嬢に渡す。受け取った受付嬢は慣れた手つきで契約書を作成していく。
「それはよかった。お前なら引き受けてくれると思っていたよ」
まあこれくらいの依頼ならな。
「しかし気をつけろよ、あの騎士団が手こずってるくらいなんだからな」
……?
「秒読み寸前なんだろ?」
「それは捕縛のための手筈が整ったという意味だ……それは逆に言えば、一筋縄ではいかなかったということだよ」
「一体何に手こずってるんだ?」
「ああ……どうやら、この強盗団のリーダーは――」
「――スキル持ちらしい」
…………先に言えよ