あれから……
「んっ」
窓から差し込む光によって目が覚める。
まだ覚醒しきらない頭を振りながらひとり呟く。
「また懐かしい夢を見たものだ……」
二度寝の誘惑を断ち切って、ベットから立ち上がりよろよろとした動きで窓を開ける。
開け放った窓からは爽やかな風が入り込み、窓の外の街並みからは朝の喧騒が心地よい気持ちを運んでくれる。
「……あれから15年か」
……はい、15年経ちました。
ん?幼少編はどうしたって?異世界転生モノなら幼少編がメインで、ピークだろって?
……いやいらんだろ、鑑定も魔法も持ってないのに。
あと、幼少編が長いと青年編にたどりつけない……いやこれはいいだろう。
正直に言えば幼少期にいろんなことを試した。だが語ることはない。語るほどの内容が、ない。
修行もした、知識チートも試した、だがどれもうまくいかなかった。
この世界にチートが無い……からじゃあない
……そうなのだ、あるのだ。この世界にはちゃんとある。
ステータスも、鑑定も、魔法も、スキルも。
……アイテムボックスはなかったがそれも自分の知ってる話でだ。あってもおかしくない。
それなら何故幼少期を語らないのか?
……そもそも異世界モノで幼少編が面白いのは、転生のアドバンテージを生かして異世界のシステムを理解し、その才能と知識で最大効率の努力を行うことによって他者より秀でた成長ができるところを見れるからだろう。
だがこの世界には無かった。転生のアドバンテージになる成長が。
故に幼少時代はちょっと大人びた子供でしかなかったわけだ。
……いや、相当老成してたか。なんせ変人として故郷を追われたくらいだからな。
まあ回想はこれぐらいにいておくか。
身支度を整えた俺は、2階にある自室を後にして1階の広間に降りる。そこは食堂となっていて、朝だというのに大勢の客でにぎわっていた。
「あら、今日は早いじゃないか」
カウンターに向かうと恰幅のいいおばちゃんが話しかけてきた。
ここの食堂の女将であり、俺の住んでる下宿の管理人でもある。
ちなみに旦那はカウンターの奥で料理を作っていてこちらを一瞥もしない。寡黙な仕事人だからな。……何ならここに住み始めてから一度も声を聴いたことがない。
「俺はいつだって早いだろ」
適当に返事しながら朝食を注文する。
これから仕事が始まるからな、食事はしっかり摂っておかないと。
……ん?職場はどこだって?
決まっているだろう。
――ギルドだよ