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チキュウシキブツリホウソク


 ……?チキュウシキ?チキュウシキブツリホウソク……といったのか?

 何だそれは。


 俺は双剣を構えて、戦闘態勢に移行する。

 どうやら、あのギルド職員。やるつもりらしい。

 この状況をひっくり返す方法なんて俺には思いつかないが。

 戦う以上は相手に勝算があるとみて臨むべきだ。


「お兄さん、私も……」

 3スキルの少女のその言葉に、全員に緊張が走る。

 しかし、ギルド職員がそれを制する。

「大丈夫だ、下がってろ。それに――


――引けないだろ?弓」


「えっ?」


 その言葉を受けて、3スキルの少女は弓を何やらガチャガチャしている。

「えっ……どうして。……引けない……引けないよぅ……」

 ……?何をやってるんだ?


 その間にも、ギルド職員は無造作にこちらに歩いてくる。

 右手には片手剣。左手には……装填済みのボウガンを携えている。

 ……こいつもダブルスキルか?いやしかし、ボウガンじゃ……

 とりあえず警戒はしとくべきだな。


 ギルド職員が距離を詰める。

 あと数歩で間合いに入るところで――


 樹上のジジイが動いた。

 対応の難しい空中からの攻撃。

 仮に防いでも、姿の見せていないテリーヌが弓でその間隙を突く。

 必殺の連携。

 それに対してギルド職員は、その場をステップして回避する。

 ――そんなもの意味がない。何故ならジジイは空中で軌道を変えられる。

 終わった――そう思ったその時、


 ジジイが――


 ――そのまま(・・・・)地面に激突した(・・・・・・・)


「がひゅ」

 ぐしゃり、という音を出して墜落したジジイはそのままピクリとも動かない。


「…………は?」


 すると時を遅くして、矢が俺の足元に突き刺さる。

 ……これは、テリーヌの矢?なぜこんなところに。


 ギルド職員は素早くジジイに剣を突き刺すと、流れるような動作でボウガンを構えた。

 片膝をつき標準をつける。かなり訓練された動作だ。

 狙いはジェナ。

 だがそれは、スキルが無い奴の動作だ。

 スキルがあるならば、もっと適当に構える。それでも当たるからだ。

 放たれた矢も、何の変哲もない一撃。

 ジェナなら造作もなく撃ち落とす。それが――


「…………!」

 深々と胸に突き刺さっていた。


「な、何やってんだよジェナ!」

 馬鹿な!あの程度の一撃、ジェナに迎撃出来ないはずがない。

 受ける方が難しいくらいだ!

 それに……それにジェナは迎撃に動いていた。

 迎撃行動を取り……失敗した?


 再びテリーヌの矢が戦場に飛来する。

 ……しかしそれも、見当違いの方向に飛んで行った。


 何が……何が起こっている……


「テメエふざけんなよコラァ!!」

 ギルド職員からほど近い位置にいたヌーボが雄たけびを上げて攻撃を放つ。

 うかつにも、ハンマーの間合いに入っていたのだ。

 ヌーボが渾身の力を込めて柄を振り上げる。

 俺も攻撃に参加しようと力を込めた足が……止まった。

 何故なら――


 ボキリ!

「……はあああぁぁ!?」


 ヌーボのハンマーの柄が折れたからだ。

 ヌーボは目を白黒させていたがギルド職員は一切の動揺を見せなかった。

 冷静な動きでヌーボの喉に剣を突き刺した。


「ぐぼぉ」

 ……ヌーボが血を吐いて倒れる。


 間違いない。こいつ、ヌーボのハンマーが壊れることがわかってやがった。

 ヌーボの間合いに入ったのもわざとだ。そうでなきゃ、あんな待ち構えたかのように剣を突き刺すことなんて出来ない。


「旦那!何かわからねえが、こいつはやべえぞ!同時にやるべきだ!」

 俺は隣で直立不動で動かない旦那に話しかける。

「旦那!」

 すると旦那は、ゆっくりと――


 ――地面に倒れ伏した。


「だ、旦那?」

 旦那はズシンと音を立ててうつ伏せに倒れこむ。

 だが、意識はあるらしい。地面に倒れながらも中身は動いている。

「旦那!攻撃を受けたのか!一体……一体どこから!」

 だが地面に縫い付けになった旦那の言葉で。俺の混乱は最高潮に達する。


「動かないんだ――」

「は?」


「――鎧が重くて動かないんだあぁぁぁ!!!!」


「はああああああああぁぁぁ????」







 双剣使いが混乱の声を上げている。

 その間に俺はボウガンの次弾を装填する。

 残り三人。混乱が収まる前に仕留めなければならない。


 この――【地球式物理法則】が効いているうちに。



 御存じの通りだが、この世界の物理法則は出鱈目だ。

 重力は無視できる。質量も無視できる。慣性も無視できる。筋力も無視できる。

 斬撃は飛ばせる。矢は好きなところに当てられる。明らかに攻撃が当たってないところまで衝撃が届く。

 俺はそれをスキルやレベルの力で物理法則を捻じ曲げていると思っていた。

 だが違った。どうやらこの世界は、物理法則(・・・・)自体が違った(・・・・・・)のだ。

 実のところその二つに差はない。しかし、俺にとっては重要なことだったらしい。

 何故ならそれに気が付いたと同時に、俺に隠しスキル【地球式物理法則】があることに気が付いたからだ。


 【地球式物理法則】の効果は文字の通りである。

 この世界の物理法則を、地球の物に置き換える……それだけだ。


 だが効果は絶大。

 スキル持ちやレベルの高い人間は特に影響を受ける。


 具体的には――

 子供の筋力で弓を容易に引くことなどできない

 空中で移動などできない

 放たれた矢は途中で軌道変更しない

 飛来する矢を咄嗟に弾いたり出来ない

 無理がある形状の武器は壊れる

 筋力以外の力で鎧を動かすことは出来ない


 後は――


 ――三メートルを超す大型犬が高速で動いたら自重に耐えきれず前足を折る……とか。


 どれも俺の住んでいた地球では当たり前のことだ。

 だがこの世界の住人にとっては異常事態である。

 これにすぐに対応できる奴はいないだろう。


 しかしこれは完全無敵の能力というわけではない。

 注意しなければならない点も多々ある。

 一つ目は、自分自身も対象になること。

 二つ目は、このスキルは能力無効化ではないことだ。

 つまり、スキルも魔法もちゃんと発動する。

 発動した上で、地球の物理法則の縛りを受けるのだ。


 以上の条件を鑑みて今回の敵で脅威になりそうなのは、槍使いと双剣使いだった。

 何故なら、地球の物理法則にあてはめても影響が少ない。

 その上、身体能力向上はなくなるがスキルは発動するため、剣、槍の技術は残る。

 つまり、こいつらは剣の達人、槍の達人なのだ。


 故にボウガンを使って始末した。

 ボウガンはこの能力にとても相性のいい武器だ。

 これは地球でも異世界でも同じような効果が出るため、前もっての準備や訓練がしやすい。

 そして現実に(・・・)ボウガンを至近距離から撃たれて対応できる奴なんて皆無だろう。


 サクッ!!


「……!」

 俺の足元に飛来した矢が刺さる。


 ……まずいな、上手くなってきてる。

 弓スキル持ちはスキルの能力のみで弓を扱っている奴ばかりなので、【地球式物理法則】を発動した際、感覚の変化からまともに弓を撃つことが出来なくなる。

 だが、弓の達人であることは間違いない。すぐに撃てるようになってしまうだろう。

 早く始末しないと。

 ……そのためには、まずこの双剣使いを倒す。


 俺はボウガンを構えたまま双剣使いに突撃する。

「くそっ!きやがれ!」

 双剣使いは迎え撃つつもりだ。

 俺は双剣使いの手前でボウガンを放つ。

「――ぐっ!」

 至近距離で撃ったにもかかわらず、双剣使いはそれを弾いた。

 ……しかし完全には撃ち落とすことは出来ず、軌道を逸らされただけの矢は肩に突き刺さった。

 ボウガンを投げ捨てた俺は、その隙を逃さず双剣使いを袈裟斬りにする。

「ぐばぁぁ!!」

 肩口から、剣が深々と突き刺さった。……致命傷だ。

「……ち、くしょ……う……」

 双剣使いは、恨み言を口にしながら崩れ伏した。


 ……これで、この場で動けるものはいなくなった。

 後は弓使いを始末する。

 鎧の男は動けないから後回しだ。

 弓使いの位置は掴んである。

 必ず……必ず始末する。



 最後にもう一つ。

 この能力は弱点が明白だ。

 対策を施された場合、俺は造作もなく殺されるだろう。

 故にこの能力を使う時、絶対の条件が課される。

 ――この能力を見たものは必ず始末しなければならない。



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