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情勢

魔法の国 最高魔導士執務室


「いかんのう。やはり心配した通りになった」


「はい…」


相変わらず遺物やよく分からないもので溢れかえった執務室にて、最高魔導士エベレッドとその秘書が、なにやら深刻そうに会話していた。


「魔の国が軍備増強に加えて、国全体に転移阻害の魔法を使う準備を確認…か。どう考えてもやる気じゃよな」


「はい…」


魔法の国の仮想敵国家は、まず第一に東に位置する騎士の国。ついで西に存在する、多数の種族からなる魔の国であった。そのため、騎士の国に対するほどではなかったが、それなりの諜報を仕掛けていた。

その諜報部から上がってきた情報は、明らかに戦争をするための準備が魔の国で整いつつあるというものであったため、エベレッドと秘書はため息をつきながら話し合う。


「やはりこの国にでしょうか」


「うむ。まあ騎士の国が本命じゃろうが、道が無いからのう」


人間種が主な騎士の国と、単眼族や鳥人族などの様々な人種で構成されている魔の国は元々決して仲がいいとは言えなかった。しかし、両国の間に魔法の国があり、かつ騎士の国が魔の国以上に魔法の国を敵視していたため、表向きは問題にはならなかった。


「騎士の国はまだいかんか?」


「はい。各地の統制に綻びがあります。それに、少し前の暗殺騒ぎで貴族同士の連携も怪しいかと」


騎士の国は記憶に新しい、"大蛇"バジリスクの被害があった後に、各地の有力貴族が数名不審死を遂げており、王家に被害の責任を被せられたのではないかと、疑心暗鬼が広がっていた。


「鬱陶しい存在じゃったが、弱いは弱いで問題を引き起こすか…」


「はい」


外への野心溢れる国王に率いられた隣国は、魔法の国にとって最大の問題であったが、その騎士の国が弱体化すると今度は、騎士の国を敵視していた魔の国が動き出したのだ。間にある魔法の国にとって迷惑この上なかった。


「同盟という話も持ち上がっているようですが…」


「信じられるかのう?」


「ですね…」


魔の国の動きが若干訝しいという時期から、魔の国と同盟して騎士の国を叩いてはどうかという意見もあるにはあったが、各地からの留学生が多いとはいえ魔法の国も人間種がかなり多い。そのため裏切られるのではないかと思われており、少数の意見に留まっていた。


「奴等からしてみれば、好機以外の何物でもないからの。今、魔法の国を攻めても、騎士の国が漁夫の利を得る可能性は低い。その後騎士の国を平らげようと思っておるんじゃろう。欲と理性が混ざっておるんじゃ、我慢できまい。来ると思うぞ。備えねば」


「はい」


広い土地と人口を持つ騎士の国が、着々と成長しているのを危機感を持ちながら見ていたのだ。エベレッドは魔の国がこの機を逃すはずないと判断していた。

そして、今まで感じていた危機感と、またとない好機が混ざり合って爆発したせいで、余程の事が無いと止まることは無いだろうとも思っていた。


「何か引っ掻き回せる情報は上がっておらんかの?。特に王族か上位の将軍で」


時間を稼ぐ必要を感じたエベレッドは秘書に問う。流石にトップに何かあれば軍の動きも鈍るはずである。


「その事でお伝えしたことがありました。魔の国の王アレルですが、どうやらダークエルフをかなり目障りに感じているようです」


「ほほう。まあ、基本ダークエルフは他種族を下に見てるしの。気に障ったのじゃろう」


余程伝えたかったのか、勢いよく秘書が報告する。


「それだけではありません。ダークエルフの1人に、神から直接名付けられた者がいるようですが、その者を中心に、自分が追い落とされるのではないかとも思っているようです」


「それは使えそうじゃの」


「はい」


秘書が勢いよく言うだけある情報であった。

魔の国で支配階級に属するダークエルフと、その国の王が仲が悪いとなれば使わない手は無いとエベレッドは判断した。


「そのダークエルフはどうしておるのじゃ?大人しくしておるのかの?」


「報告によれば魔の国を離れた上に、人間種と偽装結婚して、魔の国の国王に敵意を持っていないとアピールしているようです」


「それはちょっと手強いの」


「はい。しかし上手く使えば…」


「うむ。戦争が近いとなればそのダークエルフと接触する外交的配慮は要らん、リスクは少なくリターンは大きいの」


プライドが高いダークエルフが、魔の国を出た上でさらに人間種と結婚しているのだ。そんな者を引っ張り出して焚きつけるのは中々骨が折れるとは思ったが、元手は掛からずに魔の国が混乱するなら万々歳と彼等は思っていた。


「もう少し詳しく話してくれ。何処で何をしておる?」


やる価値はあると詳しく尋ねるエベレッドであったが…。


「はい。ジネットという名のダークエルフの女性で」


「ふむふむ」

(女であったか)


てっきり男であると思っており…


「どうやら妊娠中で」


「むう」

(妊娠までするとはよっぽどじゃぞ。無理かもしれんの)


女のダークエルフが妊娠までして害は無いとアピールしているのだ。計画は無理かも知れないと思いながら…


「現在リガの街に居を構えているようです」


「なぬ!?」

(リガぁ!?)


エベレッドは生涯行くまいと誓っていた街の名を聞き、轟音を鳴らす自分の心臓を無視して、恐る恐る尋ねる…


「そのダークエルフの夫じゃが、まさか東方の男とか言わんよね?」


「?よくお分かりになりましたね。名前は報告に上がっていませんが、確かに東方の男のようです」


「中止いいいいいいい!!!!この計画は無し!!はい決定!!」


「エ、エベレッド様!?」


普段は少しお茶目だが、やるときはやる最高魔導士エベレッドが急に椅子から立ち上がり、まるで怖い母親に悪戯がバレた小僧のように取り乱している姿に秘書は驚愕する。よく見ると顔面は蒼白で、顔中脂汗だらけだ。しかも目に至っては今にも零れ落ちそうだ。


「あぶねえええ!危うく死ぬとこじゃった!」


心臓は痛いし視界は暗く染まっていたが、そんな事に構わず安堵の声を出すエベレッド。彼にとっては、危うく自分の死刑執行書に自分でサインするという間抜けをやらかす寸前だったのだ。


「エ、エベレッド様?」


「お願い何も聞かないで。とにかくさっきの話は無し!触っちゃダメな男が関わってるの!」


「は、はあ」


不審がる秘書に、まるで哀願するような声を出すエベレッド。

エベレッドの脳内では、跡形もなく消し飛ぶ自分の姿が映っていた。


「で、ですが放置しておくと、魔の国が後顧の憂いを無くそうと、そのダークエルフを始末する可能性が」


「それならそれでいいから!というか万々歳じゃから!」


もし魔の国が、エベレッドの脳内にいる男へちょっかいを掛けたら、お礼参りに行った男のおかげで、魔の国は軍事行動どころでは無くなるだろう。むしろ望むところであった。


「歳を食うと、とんでもない可能性で死ぬ事になるんじゃな。気を付けよう」


「はあ」


「ともかく、触らない関わらないじゃ」


自分が間一髪のところで死を避けた事に、またしても安堵するエベレッドであるが、後年にその人物の子供達が、魔法の国の魔法学園に入学することになり泡を吹くことになる。



ー君!地雷探知上手いねえ!でも向こうからやって来たよ?-

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― 新着の感想 ―
[一言] 危機管理能力高く地雷を踏み抜かないから長生きできるんだなぁ… まぁ、あれだ。 そのお子様たちは生徒として丁重にキッチリと指導して身のある学生生活をおくらせてあげたら、触ったらいけない人もき…
[一言] このじじいどっかの危機管理じじいににてる気がするのじゃ
[一言] こういう危険察知能力が高いから長生きできるんだなぁ(しみじみ) でも危険の方から寄ってきたら全力で対応するしかないよね
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