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幕間 東の果てより

宇宙人「幸薄系退魔大和撫子少女を出せ」


作者「ちょっと待って、漢字で目が痛い」


ポチ


「あああああああああ!?」

東の国 水草家


ここ、退魔の名門である水草家で一人の女の命が尽きようとしていた。


「母上…」


「ごめんなさい凜。あなたの事をずっと守ってあげたかったけど…」


床に伏した女である雅と、縋りつく娘の名は凜であった。

彼女は今にも事切れそうであったが、娘の行く末を案じていた。


「母上…弱気なことをおっしゃらず」


「これだけは覚えていてね。母も父もあなたの事を愛しているわ」


「はい…」


長い絹のような黒い髪を後ろで結んだ、名前通りに凛とした類の美しさを持つ美少女であったが、同時に傾国とも評されるような妖しさが時折顔を出す。


「たとえ父がこの家で嫌われている鬼であったとしても、貴女が生まれたことを誰よりも喜んでいたの」


水草家宗家の母で、人種であるが人間種ではない鬼の男と愛し合い凜を産んだが、男の方は凜が物心つく前に妖魔に殺され、母も人間種ではない子を産んだものとして水草家から忌避されるも、しかし愛情深く凜を育て上げた。しかし生来体の方が丈夫ではなく、凜が一人前の退魔士として成長するのを見届けると伏せがちになってしまっていた。


「いいですか、もし水草家や私の兄の事で、どうしても我慢が出来なければこの家を出て行きなさい」


「しかし…私のようなものが1人で…」


雅の兄である当摩は、鬼との子である凜の事を忌避しており、陰から様々な嫌がらせをしていた。

それゆえ母である雅は、娘の行先を案じていたのだ。


「あなたも一人前の退魔士なのです。1人でも大丈夫。それに、外へ出た方がいいかもしれません。幸せというものはどこに転がっているか分かりませんからね。ひょっとしたら向こうから来るかもしれませんよ?」


「母上…」


「いいですね…」


雅が亡くなったのはこの日からすぐの事であった。



「あれが忌子」 「忌々しい」 「なんだ美しいではないか」 「関わるのはよせ、御当主様の顰蹙を買うぞ」


雅が宗家の女であったため葬式もそれなりの式であり、亡くなったのが母であったため珍しく表に出る事を許された凜であったが、参列したものは凜に対して嫌悪や好奇の視線を浴びせていた。


そして、廊下で現当主当摩に呼びかけられたのはその葬式の後であった。


「ああ、貴様に伝え忘れていた。貴様の父を殺した妖魔を討って参れ。それまで帰参は許さん。なに、船の手配くらいはしてやる」


「はっ。承りました」


(よかった。仇を私の手で討てる)


なんでもないかのように伝えられた言葉であるが、凜の父を殺した妖魔は未だ健在で、その凶悪さから度々討伐隊が編成されるも全て返り討ちにするような強力な個体で、目立っているのを自覚したのか人間種に化けて海の向こうである大陸行きの船まで乗っていることまでは分かっていた。

つまり当摩の宣告は事実上の追放、または死刑宣告であった。

しかし、凜の内心は母の悲しみの元凶である、父を殺した妖魔の後を追えるとむしろ喜んでいた。


「それでは支度をしてまいります」


「うむ。船の手配は済んでおるのでな、早くせい」


流石に外聞が悪いので殺すのは拙いと思っていた当摩であるが、あの時殺しておくべきだったと後悔したのは、凜が夫どころか子供まで連れてきた時であった。



「大きい。これが大陸行きの船…」


水草家を出た凜はまず大陸に向かうための港へと来ていたが、そこで初めて見る海と、大陸へと渡る船に圧倒されていた。


「おう嬢ちゃん!若いのに大陸行きとは珍しいな!」


「は、はあ…。そうだ、大陸に行ったこの男を探しているのですが、見覚えはありませんか?」


「なんだ人探しか?大変だねえ。どれどれ…。いや、覚えはねえな」


「ありがとうございました」


奇跡的に特殊な魔具で写せた、人に化けた妖魔の写真を声を掛けてきた船員に見せた凜であった。妖魔は人に化けられるが姿形を自由に操れないため、行方を見逃すことはまずないであろうが、やはりそう上手くはいかなかった。

しかし鬼の血が混じると、普通の人間種よりもずっと寿命が長いため、凜はまだまだこれからだと考えていた。

いずれ見つけ出し仇を討つとも。


「そういや嬢ちゃん船は慣れているか?遠いから慣れてないと酷いことになるぜ?」


「それはどういう?」


「ああ…。船酔いも知らねえかい?悪いことは言わねえ、港の薬屋で売ってるから買った方がいい」


「はあ…」


産まれてこの方、海すら見たことがない凜は何のことかわからなかったが、海の男がそう言うのだ。高価な物でないなら買っておこうと考えたのがよかった。まさに酷い事になってしまったのだ。


◆ ◆ ◆


(ああ…大地だ…。母上、私は地面と結婚します…)


訓練された退魔士である自分なら大抵のことはどうにでもなると高を括っていた凜であったが、全く経験も耐性もない船酔いにやられてしまい、薬を勧めてくれた港の男へ本心から感謝していた。

そんな凜が長期間船に揺られてやっとの思いで踏みしめられた大地なのだ。座り込んで動けなくなってしまった。周りを見ると凜だけでなく数人似たような状態で、その中には大の字になって倒れている者すらいた。流石にはしたないからそんな事はしないが、その人物に大いに共感してしまう凜であった。


(いつまでもこうしてはいられない。幸い黒髪黒目の同郷は多いようだ)


ようやく立ち上がった凜は、文化も全く違う大陸でも、同郷の者が多い事に胸を撫で下ろしながら聞き込みを開始する。


「すみません。実は人を探していまして、この男に見覚えはありませんか?」


「んん?ひょっとして人探しに海を越えてきたのかい?すごいな、俺っちはもう海を渡りたくないからこっちで骨を埋めようと思ってるくらいなのに」


「うっ」


「おっとごめん。んー、いや見たことないね。東の国から来た人はほぼこの港の国から出ないから、聞き回ってたらそのうち行きつくと思うよ」


「そうですか、ありがとうございます」


もしまた故郷に帰るならば、再び海を渡る必要があることに気が付かされ呻いてしまう。


(いいことを聞けたぞ。辿り着くのは容易かもしれん)


だがそれ以上に有益な事を聞けた凜は港中を聞きまわることとした。


「見かけないねえ」 「ごめんねお嬢ちゃん」 「今夜どう?」 「多分いないんじゃないかな」


(港の国にはいないのか?)


しかし数日掛けた聞き込みの成果は全くなく、広大な大陸を当てもなく探しに行く可能性が出てきたことに凜は失意を覚える。


「うーむ。儂は長い事ここに住んでいるが、見かけたことはないのう」


(やはり居ないか…)


「じゃが…」


「何でもいいのです!」


一縷の望みがあればと写真を渡した老人に続きを促す。


「うむ。かなり前じゃが、ここから離れた剣の国のリガという街に同郷がいると聞いた事がある。珍しいと思ったもんじゃ。今でも余所で見かけるなんて話は聞かんからの」


「そ、それはいつ頃から!?」


「そうじゃのう10年くらい前と思うが…」


(時期も合う!)


追い求める妖魔が大陸を渡ったのも10年ほど前の事であり、凜は段々と興奮を覚えていた。


「ご老人!ありがとうございました!早速当たってみます!」


「いやいや、お嬢ちゃん!これこれ!忘れ物!」


「し、失礼しました!」


凜が忘れかけた写真に写っていたのは、当然というか黒髪黒目の男であった。



◆ ◆ ◆


(なんとかリガの街に着いたが路銀が…。ここで見つけられなかったら拙いぞ)


広大な大陸を徒歩で行くことは現実的でなかったため馬車を利用したが、元よりあまり費用は渡されていなかったため、金銭的な不安を凜は抱えていた。


(いや、弱気になってどうする!まずは行動だ!)


「すみません。人を探しておりまして、この人物なんですが」


「おや?その髪、ユーゴさんの知り合いかい?彼なら少し中央にある大きな屋敷に住んでるけどどれどれ?」


(やはりここに!ユーゴと名乗っているのか!)


ここでも黒髪黒目が珍しいのだろう。凜は目当ての人物がここにいる事を確信する。旅の途中でも、この街に黒髪黒目がいる事を聞けど、他は聞かなかったのだ。


「ああ、ごめん。ユーゴさんじゃないね。彼はこんな鋭い顔じゃなくて、こう、なんというか垢抜けない顔してるから」


「え…」


「ごめんね」


「いえ…ありがとうございました…」


(そ、そんな…どうしたら…ここまで来て人違いだなんて…母上…)


人違いであったショックと、大陸に来てからも孤独であった凜は、思わず母を思い出しながら涙を浮かべそうになってしまう。

その途方に暮れているときであった。


「あの!今ちょっといいですか?なんだかお困りだと思って声を掛けさせてもらいました!」


「え、ええ…あの、貴女は?」


「はい!名前はーーーーーーーー!」


声が掛けられた。















みつけた




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― 新着の感想 ―
[一言] そういや里帰り(というか両親の墓参りかな)の時って、 空でも飛んだのか誰かさんが海の上でも走ったのかどっちだろう(至極どうでも良い疑問)
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