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紛争 あるいはかつての生存競争

本日投稿2話目です。ご注意ください。

それが山から這いずり出たところを見た者はいなかった。誰も彼もが目の前の事で精一杯だったのだ。なにせ勝っているにしても、負けているにしても命が懸かっていたからだ。

不幸があるとすれば、お互い先制攻撃を受けたと思っていたため、降伏をする、勧告するという発想が生まれなかかったため、混乱したままその事態を迎えてしまった事だろうか?いや…。いかに立ち止まってもどうにもならなかっただろう。


「は?蛇?」


最初にそれを発見したのは、勝ち戦で若干余裕があった魔法の国の兵士であった。動くものに気が付いてふと視線を横に向けてみると、蛇がこちらに向かってきていた。


「なあおい、あれ蛇だよな?」


「ああ?…なんだあれ?」


鱗のある体、長い胴体に尻尾。手足が無いため蛇行しながら這いよる姿。

だが何かがおかしい。


「なんであんなにデカいんだ?」


「は?どうなってんだ?」


「なんだあれ?」 「おいどうした?」 「蛇?」


大きい。離れているはずなのに、頭部がはっきりと分かるのだ。訝しく思った周りもそれに気が付き、足を止め始める。


「おい、一応司令部へ連絡上げたほうがいいだろ」


「そ、そうだな」


地響きの震動を感じ始めた時、ようやく両軍がその存在に気が付き始めた。


「勇者殿!あれは!?」


「蛇!?」


逃走を図っていた騎士の国も


「ヴァン殿!」


「なんじゃあれは」


追っていた魔法の国も


2ヶ国とも共通点があった。

神々の協力を得られた祈りの国に接していたため、比較的安定した大陸の内陸中央に存在していることである。

そのため彼らは、他の国が経験してきた強力な魔物と人種の生存競争を殆ど経験したことがなかった。そして、今日彼らが遭遇したのはそんな魔物の中でとびっきりの存在であった…。


人間種同士の争いという平和ボケした両国は、この日を忌むべき日として永遠に記憶することとなった。


「おい!どうすんだ!?」 「近づいてくるぞ!」 「逃げろ!!」 「何だあれは!?」


近づいてきたため、彼らは更に知ることになった。自分達の国の王城や、巨大さで知られる魔法学院よりも明らかに大きい蛇であると。


「ぎゃあああ!?」 「ぎゅっ」 「あああああああ!?」 「逃げろおおお!!」!! 「ぷぷぐ」


そんな存在が咆哮を上げるでもなく、舌を鳴らすでもなく、顔を横にしながら大口を開けて淡々と突き進んでいく。出来るだけ人の多い所へ、一度に多く口に入れられる所へ。


「攻撃しろ!!魔法だ!」


正体不明の怪物の出現に、魔法の国の司令官が攻撃指示を出す。


【炎よ 我が敵を 討て】!!

【雷よ 我が敵を 撃て】!!


命が下され我に返った魔法使いが蛇に攻撃を仕掛けるも、頭部は既に人間達のいる場所から去っており、長い長い胴体と尾があるだけで、そこに着弾した魔法もまるで意に介されていなかった。


「部隊を纏め上げろ!蛇に集中する!」


「はっ!」


「蛇の頭がこちらを向きました!」


「ヴァン殿!遺物は!?」


「無理やり使って使い潰す」


蛇に専念することを決めた司令官であったが、こちらに狙いを付けていることが分かると、遺物の状態を尋ねるが、遺物の再使用にはまだ間があったため、ヴァンは無理やり起動する決心をした。


「お願いします!目だ!目を狙え!それか開けてる口だ!」


弱点となりそうな箇所を指示するが、目も口も魔法が着弾しても、なんの痛痒も感じているように見えなかった。

そのまま無機質な目で魔法の国の人間達を見ながら、蛇がやってくる。


「使うぞ!【全て燃えよ(増幅 6相当)】!!!」


遺物である杖は粉々になるも魔法は発動し、蛇の口の中で爆発する。

蛇の赤い口の中で咲く紅い魔力。

しかし、蛇が口を閉じると、また何事も無かったように大口を開けて突き進んでくる!


「馬鹿な!?」


「ちいっ!?【我が身よ 共と 飛べ】!すまんが一緒に生き恥を晒してくれ!」


「ヴァン殿なにを!?」


遺物による攻撃が効かず、止める事が出来ないと判断したヴァンは司令官と共に空へ舞う。この状況下で指揮系統を崩壊させるわけにはいかなかったのだ。しかし、それは同時にしたにいる者達を見捨てるという事でもあった。


「ああ!?皆が!?」


「しっかりせい司令官!退却の指示を出すのじゃ!」


「あっあっ!?『ぜ、全軍退却!逃げろ!早く逃げろ!逃げるんだ!!』


ついさっきまで自分の周りにいた者達が呑み込まれるのを見下ろし、呆然自失する司令官をヴァンが叱咤する。ヴァンの声では恐らく軍は反応しない。


「うわあああ!!?」 「逃げろおお!!」 「足がああああ!」 「助けてくれ!!!」


口の中へ消えていった者達だけではない。くねる胴や尾に巻き込まれて吹き飛ばされる者や、圧死してしまう者達もいた。


「勇者殿あれは!?」


「分かりません。しかし、どちらにしても我々は退却するのみ」


混乱するのは騎士の国も同じであったが、元々退却するのだから予定に変更はなかった。

が。


「蛇がこちらを向きました!」


一番大きな集団を通った蛇は、進路を騎士の国の逃げ遅れた者達の方へ向ける。混乱で逃げ遅れたグループが次に大きな集団だったのだ。


「逃げよ!必ず本国へこの事を伝えるんだ!」


「勇者殿は!?」


「殿は変わっていない!さあ行け!」


「ご、御武運を!」


(やはり早い!止めねば)

【我が身よ 飛べ】


その言葉には返さずに、蛇のもとへ駆け出し空へと飛ぶ。


【大いなる 光よ 我が剣に宿り 敵を 討て】!!

(目しかない!刺されよ!)


ガッ!!


(切っ先すら無理か!)


空へと飛んだトマは蛇の頭に降り立ち、その目を狙うも刺さることはなかった。動きも全く止まっていなかった。


(ならば!)


【光に我が身を捧げ敵を討つ】!!!!


トマは魔力と生命力を燃焼し、命を捧げる事で自らを光の剣そのものと化して蛇の目に突っ込んだ。


ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアaaaaaaaaaaああああああ!!!!????


(一矢報いたか…逃げろよ)


初めて大声を上げ、のたうち回る蛇の姿を確認したトマは、光の粒になりながらその生を終えた。


aaaaaaaaaaaaaaaアアアアアアアアアアア!!!!?


頭部に無視できない激痛を感じた蛇はとぐろを巻くように固まり、体全体がまるで岩のようになりながら動かなくなった。


「今だ逃げろおお!!!」




「戦場はどうなった!?」


騎士の国、魔法の国、やっとの思いで付近の街までたどり着いた双方の援軍が見たのは、どちらも敗残兵そのものの友軍の姿であった。






ー大陸の人間種も含めた人種全体が思い始めていた。かつて我々を脅かしていた魔物達に今や有利に立ち、これからは人種の時代だと。

そして次は人種同士で覇権を懸けて争う時代だと王や賢者は考え、決して表に出ることのない者達や強者は今こそと思っていた。

何も分かっていなかった。全く、これっぽっちも、王も、賢者も、闇の者達も、知られざる強者も、分かっていなかった。知らなかった。本当の事を、眠る恐るべき者達と…それを塵芥と扱う者をー

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