表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/273

寝た子を起こすな

リガの街 夜


夜も更け、一般の家庭ではそそろ夕食も終わった頃の時間帯であった。

そんな夜に、とある一軒屋の前で男が覚悟を決めていた。

体格がよく、筋骨隆々で首が太く、服の下には幾つもの傷跡のある、まさに戦う男といった風貌であったが、その顔は緊張に強張り、額には汗をかいていた。

王宮から"青の歌劇"殲滅のため派遣された者たちの長であり、その中で、唯一この一軒家の主の事を知っている者でもあった。

彼にとって、本来であれば、絶対にこの場には来たくなかったが、懐には宰相がしたためた手紙があり、逃げ出すわけにもいかなかった。

意を決して扉を叩こうとしたその時であった。


「夜分遅くにご苦労様です」


全く気配を感じる事がない方向から声を掛けられ、長は悲鳴を上げそうになる。

街灯で辺りはそこそこ明るいはずなのに、長の視界からはまるで闇から湧き出たように黒髪黒目の男が佇んでいた。もはや彼にとってここは、暗黒の真っただ中だった。

この男の意識が自分1人に向けられている事実に、歯が震えそうになるのを必死に我慢しながら言葉を発する。


「お、王宮から派遣されたローワンと申します。宰相閣下より手紙を預かっております。こちらでございます」


「宰相閣下から?」


幾分不思議そうな男の声を聞きながら、詳しいことは手紙に書いてあるから、自分を見ないでほしいと願っていた。


「ふーむ。ちと面倒ですな」


「はっ」


全く本心からの同意だった。面倒すぎて、下手人を必ずこの手で殺してやると誓うほどには。


「まあ、来たら来たでこちらで始末しますが…」


「宰相閣下からはお手を煩わす前に始末しろと」


心当たりがあるのか苦笑する男であったが、彼が仕出かした事を考えると、宰相の言う通りだと思うローワンであった。


「分かりました。では直接仕掛けでもしてこない限り、そちらにお任せします」


「ありがとうございます」


最も懸念していた案件が片付き安堵していたが。


「それで申しわけありませんが、彼女を嗅ぎまわっていた者を5人捕まえましてね。大した情報を持っていなかったのですが、引き取ってもらえませんかね?」


「は?」


その言葉と共に、どこからともなく縄で縛られた男5人が現れ、地面に落ちる。

全く意識が無いようで、呻き声も上げない。


「か、畏まりました」


既に"怪物"が起き上がっていることに、ローワンは恐怖した。


◆   ◆   ◆

テイラー伯爵邸


その後、部下を連れて捕まっている者たちを回収したローワンは、テイラー伯爵の前にいた。


「何たることだ、聖女リリアーナを誘拐しようとは、まさに神をも恐れぬ所業だ。ともすれば、直接神々による"天罰"すらあり得るというのに」


「はっ。仰る通りです」


ローワンが持ってきた、宰相からの手紙を読みテイラー伯爵は嘆息する。

元聖女が、自分の治める街に居を構えてくれるなど、とてつもない名誉なことだと思っているため、彼女の誘拐など許せるはずがない。


「単刀直入に聞くが、どれほど人員と支援を期待できる?」


「はっ。事は聖女誘拐です。出来る限りの人員を連れてきております。宮殿からの支援も最大限かと」


「そうか、安心した。礼を言う」


事情を知らない伯爵を、心底羨ましいと思いながらローワンは伯爵と打ち合わせをしていた。


「街の警備は増やして厳重に出来る。しかし、聖女が居られるのがただの一軒家では…。例えば聖女をこの館に数日招待して警護をするとして、その間に消せるか?」


「現時点では何とも…」


テイラー伯爵の提案と質問であったが、ローワンには2つの難題があった。

まず1つ目は、誘拐専門に近いとはいえ、"闇組織"に対する、殲滅の期間の見通しが現時点では立たなかったこと。

そしてもう1つは、"化け物"にそちらは危険ですので、伯爵邸に来てくださいと言わねばならないことであった。だが、ちゃんと警護の陣が敷かれた場所ならば、当の本人が出張ることは無いだろう。


「やはりそうか…勝手なことを言ったな。不便をかける事になるが、聖女とご家族にお越し頂いて、滞在中にお守りしながら、少しずつ"青の歌劇"に対処していくか」


伯爵の提案は尤もな事であり、それに対する言葉をローワンは持たなかったため、お招きの使者を朝一番に送ることになった。

裏の警護の責任者として、毎日会う可能性を考えると、それだけで憂鬱になりながら。


◆  ◆  ◆

 ■   ■   ■

「私を誘拐…ですか」


「うん」


どうしよう。ひょっとして旦那様の迷惑に…。


「あ、今迷惑になってるとか考えたでしょ」


「きゃっ」


あ!?抱っこ!??


「で、でもだんなさま」


「うーん。癒される」


おなかにおかおが


「ほら、リリアーナがいなきゃダメみたいでしょ?」


「でもぉ…」


おむねにも


「ええい、最終手段」


ああ…


「だんなさまぁ…もっときすぅ」


「勝った」


すきすきすき


「じゃあ今夜はずっと引っ付いていよう。それならリリアーナも不安にならないでしょ?」


「あぃ」


やったぁ


「ルーもです!」


「あなた!?」


「じゃあみんな一緒だ」


えへへ しあわせぇ


副題 現場責任者の悲哀


面白いと思って下さったら、下の☆で評価して頂けると、作者が物陰にビビりながら喜びます。どうかよろしくお願いします!!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ