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パーティー8

「パーシル国王陛下のご入来!」


 騒めいていた戴冠式に参加できなかった下級の貴族や商人達が、先触れの大声にピタリとその口を閉じ、彼等だけでなく会場にいた全ての人間が腰を屈めて頭を下げる。


 それは他国の枢機卿や長老ではあると言え、王でないドナートとビム長老も例外でなく、ユーゴの一行、ドロテアや、事前に言われていた3人衆も含め礼儀として行われていた。


 そして入城して来るグレン、本名パーシルは、今まで湖の国でこれほどの幼さで王位に着いた者が居なかったため、宰相が少ない予算で何とか遣り繰りして製作された服を身に纏い歩を進めていく。


(コー、にーにがきたよ!)


(みっけみっけ。ねーねは?)


(んーわかんない。ダンのおじいちゃんはいるけど)


 例外は、一応頭をぺこりと下げたもののすぐさまテーブルの陰に隠れて、入場して来るパーシルと、彼に付き従うダン老人を見ているクリスとコレットだろう。だが流石にこの二人も、会場の雰囲気に合わせて小声で話していた。


(へっへっへ。偉いぞコレット、クリス)


 そんな子供達を、頭を下げているにも関わらずユーゴは完璧に捉えており、ドロテア以外に気が付かれず、こっそりと二人が目立たない様にフォローしていた。


「皆今日はよく集まってくれた。戴冠式も終わった事だし、気楽なものとしよう」


 そんな親馬鹿を余所に、会場の一番奥へ到着したパーシル国王は、グラスを掲げてパーティーの開始を宣言し、会場の一同もグラスを掲げてそれに応える。


(ちーん! パーシル様……ご立派になられて……)


 ダンは今日感動しっぱなしで鼻をかんでいた。前国王に赤子の時から命を狙われ、サーカス団に身を潜めて大陸各地を転々としていたパーシルが、今や立派に国王として振る舞っているからだ。


(ちーん! 立派になって……)


 一方ユーゴの方もグラスを掲げながら、もう片方の手で鼻をかむという高等技術を披露して感動していた。こちらは、コレットとクリスと一緒に足の甲に乗せて移動しながら遊んだこともあるあの子がと、親馬鹿と言うかおじさん馬鹿というか、何とも言い様のない状態であった。


 しかし当のパーシルとは言うと……


(やっべ、挨拶の内容忘れちまった。ま、まあ気楽にやったらいいよな!)


 どうやら挨拶の内容をすっかり忘れてしまっていたようだ。だが仕方ないだろう。先ほど人生の一大イベントであった戴冠式を終わらせたばかりなのだ。極端に言うと、もう今日は完全に終わったつもりですらあった。


(ってそういやジェナの奴どこ行った? さっきまで一緒にいたのに)


 そんなすっかり気が抜けていたパーシルであったが、自分の片割れと言ってもいいジェナがいないことに気が付いた。


 ちなみにだが、パーシル、本名グレンとその双子のもう一人、ジェナ、本名マナは、お互い偽名であったグレンとジェナの呼び方に慣れきってしまっており、未だにお互い呼び方は変わっていなかった。なお彼らのダン老人に対する呼び方だが、いくらダン老人が止めても公の場以外では爺ちゃんのままであり、彼は嬉しいやら止めてほしいやらで複雑な気持ちを抱いていた。


 そしてそのジェナはというと。


「うーん。ねーねがいないよコー」


「ここはひっさつパパタワーをつかそこっ!」


「うわ、ばれちゃった」


 探しても見つからないジェナを、ユーゴの肩によじ登って見つけようとコレットが提案したが、実行に移す前にコレットは勢いよく後ろを振り返って指を差した。その指先にいた人物こそ。


「久しぶり!」


「ジェナねーね!」


「ジェーねー」


「お姉ちゃん!」


「おーよしよし。クリスくんにコレットちゃん、ソフィアちゃんも大きくなったねー!」


 探していた人物であり、会場中の視線がパーシルに集まっていることを利用して、こっそり近づいていたジェナお姉ちゃんことマナであった。コレットとクリス、ソフィアは久しぶりに会えたお姉ちゃんに群がり再会を喜び合う。


(ジェナちゃんちょっと早いいいいいい!)


 尤も、当然ユーゴは気づいていたのだが、こっそり近づいて来ているのなら、態々その行動を邪魔することはないと黙っていた。まあ、このままいけば子供達が自分の肩によじ登ってくるとも考えていたようだが……。


「おっす」

「よ」

「こんにちは」


「3人衆のお兄ちゃんたちも久しぶり!」


 一方でジェナの兄貴分と言える3人衆は、最初に会ったときは一応取り繕っておこうと考えていたが、クリスたちに対するジェナの態度が昔と変わらなかったこともあり、それなら普段通りの方がいいだろうと、かつてと同じように声をかけた。


 いや、ひょっとしたらジェナが望んでいることを何となく察したのかもしれない。


「俺らの名前完全に忘れてただろ」

「3人衆は名前じゃねえからな」

「おっさんがそう呼んでるだけだから」


「い、いやあ、あはは」


 言葉では困っている風だったが、ジェナの顔は笑顔であった。湖の国に来てから次期国王の妹として、誰も彼もが自分に一歩引いて接してくるため、6人衆の昔と変わらぬ態度が嬉しくて堪らなかったのだ。


 しかし大人はそうはいかない。何といってもジェナは一国の王の妹なのだ。


 が


「ジェナちゃん久しぶりだね!」


「うん! ユーゴおじさんも久しぶり!」


 ユーゴは必死に覚えたマナーを無視して、昔と全く同じ、かつて我が家にいたジェナへそうしたように、笑顔で再会を喜び合うのだった。


(なんであいつ、一人で皆に会いに行ってんだよ!)


 なお、それを羨ましがっている王がいたとかいないとか……。

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