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怪物の死に目

「それでどうすんだ?」


「あいつらがいつ来るか分からない以上、待つしかないね」


「ああ…。ごめんよクリス、コレット…。ダメなパパで本当にごめん…」


「情けない声出すんじゃないよ…。私だってソフィアの事があるんだ」


エルフの長老ビムの案内によって、客室に腰を下ろしたユーゴとドロテアであったが、世界樹防衛の為に"はじまり"の襲撃を待つ以上、どうしても待機する時間が長くなるため、自分と離れ離れになりたくないと泣いていた子供達に、彼は心の底から謝罪していた。


「仕方ない。その"はじまり"の面子と能力は?」


「そうさね。ドワーフが圧縮、巨人が怪力、魚人族が物理的衝撃と魔法を跳ね返す鏡、まあいった通り、この3人はどうとでもなる。特にドワーフと巨人は、坊やの超劣化した程度でしかないし、魚人族の女の鏡も、一方向でしか出せない」


「となるとやっぱり、言ってた人種の男と、よく分からん隠し玉か」


「ああ。まあ、イライジャの方も…関係ないか。イライジャも、坊やからしたらなんてことはない」


「なんだ、じゃあ5人目だけか。婆さんは座ってなよ。いきなりヨボヨボになられても困るからさ」


「それなんだがね…」


"はじまり"の面々の能力を知ったユーゴは、それならドロテアは待機して、自分が相手取ってくると提案したが、彼女は少し言いにくそうにしていた。


「どしたの?」


「イライジャの相手だけど、私がするよ」


「はん?婆さんが一番苦手な相手だよね?」


「まあそうなんだけど、少し因縁があってね」


「さよけ。じゃあ他4人は俺が相手するよ」


「頼めるかい?」


「何を水臭い。普段散々世話になってるんだから、どうってことないさ」


「ありがとよ」


自分をただの老婆に出来る相手をすると言ったドロテアに、まあ何か方法があるんだろうと、ある意味彼女を信頼して、ユーゴは他の4人の相手をすることを決める。


「じゃ私は準備しに行くよ」


「どこへ?」


「世界樹さ」


夜 エルフの森郊外


「うーん困りましたねえ」


「困りました」


「そうじゃのう」


「ふん」


「そこまで頭が回らなかったわね…」


エルフの森の郊外にて、"はじまり"の面々は立ち尽くしていた。それはなぜか?


「我々の記憶より、ずっと森が広がってますね」


「ここら辺、普通に荒野じゃったのにの」


「どうすんのよ!」


「勢い込んで来て、迷子になったでは物笑いの種だ」


「いっそ吹き飛ばしますか?」


それは、自分達の記憶よりも遥かに広がっている森のせいで、土地勘が全く当てにならなくなっていただめだ。


「吹き飛ばすのも手ではあるんですが、我々が眠る前からすでに、森はとんでもなく広大でしたからねえ。それがさらに広がっているとなると…」


「やる前から徒労感を覚えるんじゃが…」


「ですよねえ」


妖精族の少女、ミリイの提案に、イライジャも否定はしなかったが、国が3つか4つはすっぽり収まるほどの広大な森を相手をするとなると、その徒労感にうんざりするのは目に見えていた。


しかもこの森は、古代のエルフや神々によって施された守りにより、森の中の魔力を感知する事が出来ず、世界樹も付近に近づかなくては現れないため、何か目印になる様な物も無かった。


「うーん…。仕方ありません、そう」


「こんばんは皆さん」


しかし、他に妙案は浮かばず、仕方なくそうしようかと、イライジャが口を開いたときであった。


確かに先程までは誰もいなかったはずの自分たちの目の前に、森を背に1人の男が立ち、話しかけてきたのだ。


「…どなたです?」


「いつの間に…」


「…おいデカ物」


「…俺が気が付かんとは」


「ちょっと誰よ…」


話しかけられるまで、誰も目の前の男に気が付かなかった"はじまり"は、一気に警戒度を上げて身構える。


「故あって世界樹を守ろうとしていましてね。ですが、争いたいわけではないのです。少しお話をしませんか?」


「これはこれはご丁寧に。では死んでください」


正しかったことが1つ。間違っていたことが1つ。


正しかったことは、ミリイを除く全員が彼女の視界から下がり、正体不明の男を初手で殺せと意思表示し、ミリイもそれを理解して、自分の瞼を持ち上げた事ことである。


大陸最強の権能の一つ、"死に目"が男の姿をはっきりと捉えた。

その御力に例外はない。

生あるもの全てがその死因を叩きつけられる。


(心停止。老衰ですかね?)


男の心臓が止まるのをはっきりと感じたミリイは、そう呟こうとしたが。


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間違っていたことは一つ。


怪物は殺せないと知らなかったこと。


7つの首を切られた蛇や、100の蛇の頭を雷霆で焼かれたまがい物達とは違う。


打倒された、殺されたものなど、怪物と呼ぶに値しないのだ。


「ミ!?」


「な!?」


「う!?」


ドワーフ、巨人、魚人が話せたのは一言だけ。

怪物が仲間の死に対する感傷を許すはずもない。

ただ殺すのみ。


「な!?な!?バカな!?なぜ死んでいない!?」


イライジャが喚くが、何を甘っちょろい事を言っているのだろうか。

いや、もっと未来の話、怪物の死因は心停止によるものである。それは間違いない。

心臓も確かに止まっていた。


少し付け足すのであれば、子に孫、ひ孫たちに囲まれながら、自分のすべき役割を全うしたと確信した怪物が、子供達を親不孝にさせないため、ゆっくりと眠った事である。


高々心臓を止めたくらいでこの怪物が止まるはずが無い。


「いやはや、心臓を止めるとは、とんでもない能力だったな。まあ、普通にまた動かせるが」


だから

決して怪物は殺せないのだ。



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― 新着の感想 ―
[一言] 心臓を止めた程度で死ぬと思ったか?
[一言] (*`・ω・)ゞ一気読みしたのぜ☆
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