来客
???
『いい加減くたばれ糞婆!』
『下品ですよオリビア』
『デカ物合わせい!』
『死ねい"神からの贈り物"!』
『マーザルにイワンもですか。いい加減諦めなさい【惑わせ 見失え 黒き雲よ 対処する】』
『オリビア!』
『"水鏡"よ!』
『違うぞ煙だ!どこへ!?』
『3人掛かりだったのです』 『それならば私も』 『3人で対処しましょう』
『ウソ!?糞婆が3人!?』
『幻術か!?』
『どれも気を感じるぞ!?』
『水鏡が3方向から対処できるか試してみましょう【【【礫よ 対処する】】】』
『そんな!?』
『伏せいオリビア!』
『ああ、やはり一方向だけなのですね。それでは、【【【永遠に 凍てつけ 動くな 生ある者は 皆止まれ この地に 氷結地獄が現れる 対し】】】この気配…。イライジャですか、面倒な』
『"神からの送り物"おおおおおおおお!』
『全く。ちゃんと名前で呼んで欲しいのですが』
◆
ユーゴ邸
(…はん?夢とは珍しいね)
昨夜はユーゴ邸に泊めて貰ったドロテアは、自分が夢を見ていたことに、驚きながら体を起こしていた。
古い古い、かつて起こった出来事を思い出しながら。
(さて、坊や風に言うなら、面倒な予感がする。だね)
ドロテアが見ていた夢は、100年や200年どころでないほど昔の出来事だ。そんな夢を今さら見るなどとなると、何か面倒なことが起こっているに違いないと、彼女は今までの経験から察していた。
「…あれ?おばあちゃん?」
「ああ起こしちまったかい。まだ明け方だからもう少し寝てな」
「うん。…すうすう」
(体が足りないね)
体を起こしたドロテアに気が付いたのだろう。隣で寝ていたソフィアが起きてしまったが、ドロテアは彼女の目の上にしわくちゃの手を被せる。
そしてソフィアの寝息を聞きながら、港の国への行き来と、ソフィアの教育とで忙しい中、新たな面倒事が起こる予感に、内心でため息を吐くのであった。
◆
「悪ガキどもが負けた上に大怪我?」
「はいご主人様。近所の奥様会議で話題になってました」
「そ、そう」
ルーが近所の奥様達としていた会話をユーゴにも話していたが、この奥様会議、ユーゴ邸が裕福な者達が多く住まうエリアなため、必然そこの奥様が持っている情報もバカに出来なく、普通の市民よりもずっと情報が回るのが早かった。
まあユーゴが言葉に詰まったのは、そんな裕福な奥様達の間に、この可愛らしいルーがガッチリと食い込んでいた事だが。
「しかし悪ガキどもが負けるかあ。奥様方は何とやり合ったか知ってた?」
「いいえそこまでは。でも、砂の国の地下神殿で、何かがあったとは言ってました」
「ふーむ。竜でもいたかな?」
悪ガキ、エドガーとカークの強さを知っているユーゴからすれば、彼等が敗れるとなると、高位の竜か長、または堕ちた神ぐらいしか想像でなかったが、それなら自分が気づくはずだと首を傾げていた。
「勇吾様、その悪ガキとは?」
「わしも気になっておった」
「ああ、そういえば凜たちは会ってなかったね。特級冒険者のエドガーとカークの事だよ。たまに遊びに来ててね」
「おお!特級最強の2人か!」
「そのような者が。どのような御仁なのです?」
甘えたいのか、コレットとクリスに抱き付かれている凜とセラが、聞き覚えの無い悪ガキという呼称に興味を示すが、特級最強と大陸に響いているエドガーとカークの名に、セラは成程と頷く。
しかし、東方生まれの凛は、彼等の名に馴染みが無く、夫に彼等の事を聞いていた。
「そうだなあ。エドガーの方は6つ唱えられる魔法使いで、カークの方は大陸随一の剣士じゃないかなあ」
「何とそれほどの!」
6つも唱えられる者など本当に一握りの存在で、その上、自分の夫が大陸でも随一の剣士と評するなど、その2人は偉大な武人なんだろうと思っていた凜であったが、現実はそんなものではなかった。
「でもあなた」
「うん。エドガーの方は俺、じゃなかった自分、に平気で6つ唱えたのを当ててくるし、カークの方は隙あらば切り掛かって来る辻切りだね」
「それは…」
エドガー達と、初めて会った時の事を思い出したジネットが、ユーゴにそれだけではないでしょう?と言うと、ユーゴも、彼等が強いだけではない問題児だと認め、それを聞いた凜は引き攣った顔をしてしまう。
(エドガーと次会うときは、外での飲みだな)
その問題児達の中で、特にエドガーをユーゴは問題視していた。
それはなぜか。答えは単純。
(子供達にあいつの口調が移ったら立ち直れん)
そう。所かまわずクソクソ言いまくるエドガーの口調が、自分の子供達に移る事をユーゴは非常に懸念していたのだ。
今だって自分の一人称に俺を使わない様に苦心しているのに、エドガーが子供達の前に現れれば、そんな苦労なぞ木っ端微塵である。
(子供達にくそ親父なんて言われた日には…。うっ動悸が。ん?誰か来たな。いや、覚えがある様な…)
その6つの魔法を当てられてもぴんぴんしている体が、単なる仮定の想像でダメージを受けていた時である。ユーゴはリガの街に入って来た2人の気配に、どこかで会ったはずだと記憶をたどっていた。
しかし、覚えのある気配はその2人だけではなかった。
(はん?確かエルフの長老の…)
転移で現れたのか、ドロテアの店がある方向に現れた強い気配にも覚えがあった。こちらの気配は強かったためよく覚えており、海の国で面識を得た、エルフの長老であるとすぐに気が付いた。
「婆さん」
「ああ、ビムだね。全く、連絡も無しにいきなり転移とは、余程慌ててるね」
「こっちにいる事は知ってるのか?」
「言ってはいるけど場所が分からんだろう。うちの子が店番してるけど、さて、年寄りに道を覚えきれるかね」
(あんたに年寄り言われたくないだろう)
「私はまだまだ若いさね」
「俺が迎えに行くよ。覚えのある気配も2人いるし」
「頼んだよ」
どうせ覚えのある気配を確認しようと、外へ向かうつもりだったユーゴは、ついでにエルフの長老をここに連れて来ようと席を立った。
しかし。
(嫌な予感がする。具体的にはまた家を空けないといけない予感が…)
ここ最近慣れ親しんだ感覚を感じてしまい、早くもげんなりとしているユーゴであった。




