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お家騒動4

ユーゴ邸


「えー次はー、キッチン。キッチンでございまーす。がしゃこん」


「キッチン!」


「きーい!」


「きーいん!」


リビングから、ソフィア、クリス、コレットを乗せてキッチンへと向かうユーゴ。これだけなら普段通りの光景であったが、少し違う点もあった。


「おお!おじさんすげえ!」


「あはは!」


それは、ユーゴの足の甲に乗り、ズボンを掴んでいるグレンとジェナの存在であった。


「あの子達があんなに楽しそうに…」


「よかったですねダンさん」


リビングのソファに座り、ユーゴの足に乗って出て行く双子を見送ったダンが、嬉しそうにぽつりとつぶやいた。


「ありがとうございます聖女様。これもユーゴ様と皆様のお陰です」


「いえそんな」


本心からの感謝をリリアーナに伝えるダン。


「大道芸の一団に潜んでいたせいで、あまり子供らしいことをさせてあげられませんでした。それが今は、あんなに笑顔で…」

(しかし、不思議な家だ。聖女様のみならず、ダークエルフや吸血鬼、シルキーまで)


ダンにとっては、リリアーナがいるだけでも驚きなのに、その上、他種族を見下しているダークエルフや、夜の国から滅多に出ない吸血鬼、さらには、小国の湖の国には、王城に1人しかいないシルキーまでいるこの屋敷は、驚きの連続であった。


「ですが、皆様にご迷惑を…」


「うふふ、お気になさらず。頼りになる旦那様がいますから」


「はあ…」


そういって、夫が出て行った方を優しいまなざしで見ているリリアーナ。


家の住人が驚きなら、その家の主であるユーゴはもっと不思議な存在であった。先に思い出していた女性達全員の夫と知り、更に、世にも珍しい、ハーフダークエルフの父と言うのだ。ダンが、この屋敷は一体…、と思うのも無理はなかった。


「暗殺者達の事が片付いたら、皆さんでサーカスを見に行きましょう。夫もあの子達が外出できないのは退屈だろうと、出来るだけ早く片付けたいと言っていましたから」


「はあ…」


そう簡単に片付いたら、とは聖女に言えず、何とも言えない返事をするダンであった。



「くそっ!いったいどこへ行きやがった!?」


リガの街の外にある、多くのテントの一つ、その中では、暗殺組織"満月"の次期党首、ルーカスが声を荒げていた。


「確かに街にはついていたんだな!?」


「は、はい。大道芸の情報提供者からは、ターゲットとみられる双子の兄妹と、その世話をする老人は、つい先日までいたと」


「くそ!ウィルソンに先を越されては!?」


「いえ。どうやら向こうも見失っているようです」


「そうか…」


ターゲットを先に競争相手に取られていないと知って、彼は多少の落ち着きを取り戻した。


「年寄りとガキ共なんだ。街道を通るしかないし、通ったら目につく。なら、まだ近くか、街の中のはずだ。いいか!?必ずウィルソンの野郎よりも早く見つけ出せ!いいな!?」


「はっ」



「まさかここにきて行方が分からないとは…」

(くそ!)


「はっ」


一方、ルーカス程表には出していなかったが、ウィルソンも内心では煮えたぎった思いを抱いていた。


「聞き込みに有力なものは?」


「それが、この人だかりですから、子供2人と老人の組み合わせと言っても…」


「そうですね…」


リガの街に大道芸の一団が来ていると知った、周辺の小さな町や比較的余裕のある農村の者達は、一目見ようと集結しているため、該当する人物がかなりの数に上り、聞き込みの情報はかなり当てにならなかった。


これがもし、双子が同じ性別であった場合は、顔が一緒という事で記憶に残っていただろうが、男女では一つ違いの兄妹程度の認識にしかならず、市民の記憶にも特別、グレンとジェナの事は残っていなかった。


「仕方ありません。悪目立ちしますが、リスクを取りましょう。聞き込みの人員を増やすように」


「はっ。ルーカス派への監視員はどうします?」


「さて…。いえ、そちらはそのままにしておきましょう。ターゲットを見つけても、妨害されて横取りされたら目も当てられません」


「はっ」


ウィルソンは、街の警備やルーカス派に目を付けられるリスクを承知して、さらなる聞き込みの強化を指示する。


しかし、ルーカス派への監視はそのまま続けさせる。この次期党首争いは、公平なゲームではないのだ。当然妨害はあるし、必要ならば、勝者の証を奪うことくらい平然と行われるだろう。厳禁されているのは、組織内での殺し合いなのだから。

その厳禁されているルールも、必要とあらば彼等は破るであろうが…。


「それでは指示をお願いします」


「はっ」


彼等の欲する勝者の証は二つ。グレンとジェナの首を求めて、闇の者達が、更なる魔の手を街へと解き放つのであった。



「すいませんそこの奥さん」


「はい?」


夕方時の商店街で、一人の男が主婦とみられる女性に声を掛けていた。


「実は、私の子供達を連れた父とはぐれてしまって…。男の子と女の子を連れた老人を見かけませんでしたか?」


「いえ。見てませんね」


「そうですか…。ありがとうございます」


最初は見ず知らずの男を警戒していた女性であるが、人が増えたここ数日のリガの街ではよくある話であり、気の毒に思いながらも去っていく男を見送った。


(見つけた)


獲物が見つからないから手を広げるのが当然であるなら、広げた分、見つかりやすくなるのもまた当然であった。


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