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怪物の道

リガの街 ユーゴ邸


「ふうむ…」


「どうしましたドロテア様?」


リビングの、ユーゴお気に入りのソファで、目を瞑りながらため息をつくドロテアに、リリアーナが質問する。


「どうも思ったより、小大陸の魔物が多いらしい。たまに坊やの力の波動が届いて来る」


「それは…」


「ああ。大穴がいくつか出来上がってるかもね。それか、山の一つか二つが無くなってるかだ」


「まあ」


夫がひょっとして苦戦しているのではないかと、心配になってしまったリリアーナであったが、ドロテアからの返事は、斜め上なものであった。


「フェッフェッ。まあ誰も文句は言わんだろう。元は失った土地だ。それに、若い頃ならともかく、今の坊やなら必要以上に壊す事はないさ」


自分の力の制御の甘かった、若い頃のユーゴならともかく、今の完成したと言っていい彼なら、大穴が出来ていても必要だったのだろうと思うドロテア。


「あらあら。お若い頃の旦那様はどういった方でしたの?」


愛している夫の若い頃と聞いて、つい食いついてしまうリリアーナ。


「フェッフェッ。会ったばかりの頃は、かなりびくついてたね。どうも見知らぬ土地で、一人でいるのが不安だったらしい。ま、そのせいで、力の抑制自体は出来てたから、あんなとんでもない坊やだったとは思わなかったけどね。一見すれば、育ちがいい子が、急に街に出た様な気弱そうな子だったよ」


「まあまあ。そんな事が」


頼もしい夫の意外な昔話を聞きながら、今度甘やかしてあげようと決心するリリアーナ。


「まあ力の抑えが出来てたのはよかった。じゃないと人里に近づいただけで、えらい事になってた」


「うふふ。そうですね」


そうでないと、若い頃の彼はどこにも行けなかっただろう。当時の彼が人里に出れば、その力に当てられて、泡を吹いて倒れる者が続出する事になっていた。


「くりすくんだめだよ。おねえちゃんのかみをたべちゃ」


「ぱー?」


「ぱーぱ」


「ああそうさ。お前さん達の親父さ」


ソファの足元でソフィアと遊んでいたコレットとクリスは、首を傾げながらドロテアを見つめる。


「1人寂しくいた時間が多いせいか、その分家族に対する愛着が大きい。そのせいで、ダメ親父一直線だから、必要とあれば尻を蹴飛ばしてあげな」


「うふふ」


子供達を抱き上げて、笑み崩れている夫の姿を思い出して、思わず笑ってしまうリリアーナであった。



小大陸


(いくら何でも多すぎる。昔、魔物を生み続けてた、女王蟻みたいな奴と会ったが、こいつらは比じゃないぞ)


一旦気絶したマイクを海の国に戻したユーゴは、再び小大陸に赴き魔物の間引きを行っていたが、減らしても減らしても、尽きる事が無いのではと思わせるほどに、魔物達は現れていた。


小大陸を陥落せしめた魔物の群れたちは、まさに天地を埋め尽くしていたのだ。


が。


ユーゴから一定の距離を詰められない。

ある程度接近すると、まるでいなかったの様に消失していた。


(港町から奥へ行くほど多くなるな。このまま真っ直ぐ行ったら原因に会えないかな…)


見えざる怪物の腕が、魔物達を木っ端微塵に吹き飛ばし、ほんの僅かな塵のみが先程まで魔物達がいた証となる。


しかし、それでも魔物達は止まらない。ある次元のレミングという生物は、自分達の数が増えると崖から飛び降り、集団自殺を行うと誤解されていたが、まさに彼等は集団自殺の様に歩みを止めない。ただひたすら前進するのみである。


(帰ったら子供達用に知育ブロック作ろう。きっと気に入ってくれるはずだ。子供達…。コレットオオオオ!クリスウウウウ!パパは頑張ってるからねえええ!)


だがそんな物は、この怪物に何の脅威でもなかった。腕を振れば消え去る塵に、誰が危険を感じるというのだ。

怪物の単なる一歩を、地響きを立てながら突進する魔物達が止められない。

もし空から小大陸を見ている者がいれば、蠢く黒が少しづつ減っていき、元の大地の色が戻っていることに気がつくだろう。


前へ、前へ、前へ、前へ。

消失消失消失消失消失消失消失消失


(いい加減にしろ!一体どんだけいるんだよ!)


明らかに消え去る方が早かったが、それでもユーゴは慎重に、この小大陸に大きな傷跡を残さないようにしていた。


まさに、()()()()()が襲い掛かって来ている事態にも関わらずである。

彼らを単に絶滅させるだけなら、そう難しい事では無い。少しだけユーゴが力を込めて、小大陸中を移動するだけで終わる。しかし、それをすれば、魔物達だけではない。ちっぽけな虫や草木がそれに耐えられる筈がないのだ。

本当の意味で小大陸の()()()()()()()()()全ての命が失われるだろう。


この騒動後、小大陸に人が戻るなら、それは避けなければならない。

そのため、ベルトルド辺りなら自分の耳を疑うだろうが、ユーゴは慎重に事を進めていた。

例え、大穴が出来ようが、山が消し飛ぼうがである。


(はあ…。今週中には終わらせたい…。最悪でも半月以内…)


見る者が見れば、震えあがりながら誰が通ったか分かる、一目瞭然の痕跡を残しながら、怪物は進撃する。


後年、敬意と畏怖と、恐ろしさと感謝、良き意味と悪き意味を込めて呼ばれるようになる、"偉大なる道"を作り上げながら。


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