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9.隊長とご対面

「ようこそお越しくださいました」

 学園長の補佐はへこへこと頭を下げている。

 ……彼は本当の学園長の補佐じゃないかもしれない。もっと知的で落ち着いているはずだもの。人前用かしら? 公に出る時はあのへこへこおじさんを使い、有能な本当の補佐は隠しているのかもしれないわね。

 それにしても間近で見ると凄い迫力ね。ギルバート・アリックス、なんて目立つ存在なのかしら。真っ黒な眼帯が印象的だけど、彼のエメラルドグリーンの瞳に誰もが吸い付けられる。そして誰もが羨むような透明感と艶のある金髪、神の創造物かと思うような顔立ち……。

 隊長になっていなかったら、その美しさで世界を揺るがせるような王子になれたわね。

「バシルス家令嬢シヴ様はどこにいるんだ?」

 女子に受けそうな黒髪で眼鏡の男が低い声でそう聞いた。

 彼は確か、ハインツ副隊長。ギルの右腕と呼ばれているのよね。

 それにしても……、どうして黒豹警備隊のみんながみんなこうも容姿端麗なのよ。黒豹警備隊じゃなくて容姿端麗隊に改名したら?

「シヴ・バシルスは朝から姿を見ていなくて……」

 おどおどしながら人前用学園長の補佐が答える。

 ……ん? そう言えば、さっきハインツ、私の名前出さなかった? もう探されているのかよ、私。

「とりあえず、彼女の御者に聞いたらいいんじゃな~い」

「確かにそれが一番手っ取り早いな」

 オネエ口調のミーナ、図体の大きいガデスが口を挟む。

 彼ら四人がこの学園に来るなんてレア中のレアなはず。絶対に巻き込まれたくない。今は存在を隠してとにかく見つからないようにしないと。

 御者よ、私は体調が悪くなって家に帰ったということにしておいてくれ。そう心の中で願った。

「そう言えば、さっきここでバート・ジウンが殺されたそうだな」

「はい」

「朝殺された五人、今回殺された男も極悪人だ」

「はい」

「正直に答えろ。シヴ・バシルスは正義感の強い人間か?」

「……えっと、その」

 ハインツの圧が凄いわ。彼は何もしていないのに……。というか、人前用の補佐だったら何にも重要なことは教えてもらっていないはず。

「なんだか、彼が可哀そうになってきたわ~」

「もっとシヴ・バシルスと直接関わりのある人間に聞いた方がいいな」

 ギルがようやく口を開けた。

 ……わぁ、澄んだいい声。もし、彼らから逃げないでいい運命だったら口説いていたかもしれないわ。

「あの……、わたくしが彼女と関わりのある生徒や先生から話を伺ったところ、彼女に人は殺せるはずないと言っておりました。……割と自分勝手で我儘なお嬢様だと」

 あら、私、今目の前で悪口言われかけている? 致し方ない。陰湿な虐めはした覚えないけれど、王子の婚約者になりたくて必死だったものね。それに悪役令嬢は、ヒロインと王子の恋路を邪魔するのが仕事だし……。

「う~ん、じゃあ、シヴ様を助けたヒーローについて事情聴取だけして、彼女を今回の事件から省いても良いんじゃない?」

 うん、そういして欲しいな♡ 私はミーナの言葉に期待を抱いた。

「そのヒーローを見たのがシヴ・バシルスだけだということにまず信憑性がない。今回の要注意人物は間違いなく彼女だろう」

 ハインツの言葉に一瞬でその期待は消え去った。

 眼鏡の馬鹿野郎。確かに調子に乗ってポンポン人を殺したのはちょっとまずかったかなって反省している。けど……、目の前にライフルよ? 使わなくてどうするのよ。それにヒロインを殺せる素晴らしい好機だったんだもの。まぁ、殺す相手を間違えちゃったけどね。

「ミャ~~」

 嘘でしょ。なんてタイミングで起きるのよ、猫ちゃん。

 その瞬間、思い切りギルが木を蹴った。彼の蹴りでシヴはバランスを崩し、そのまま猫と供に木の上から落ちる。

 信じられない。まさか蹴るなんて……。それにしてもなんて馬鹿力なのよ。私はそのまま受け止めてもらうつもりで落ちた。落ちても受け身をとれる。というか、殺し屋なんて高い所から落ちることには慣れている。けど、流石に今の状況で受け身をとるのはまずい。彼に受け止めてもらおう。

 落ちる速度がスローモーションのように感じる。ゆっくりと時間が進んでいく。

 私は逆さ状態でままギルと目が合う。翡翠色の瞳に吸い込まれそうになる。

 ……私を受け止めるつもりがないの!? 嘘でしょ! それでも隊長かよ。か弱い女の子一人と猫ぐらい助けなさいよ。

 彼が私達を助けないのを感じ取り、猫を空中で抱きかかえてそのまま木の幹を蹴り、宙返りして地面に着地した。我ながら見事な着地だと思う。

 周りが息を飲むのが分かった。私はゆっくりとギル達の方へと顔を上げた。

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