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8.黒豹警備隊、学園に現る

「ねぇ、聞いた? 今から黒豹警備隊がいらっしゃるらしいわよ」

「あの事件を調査しにくるのかしら? あの方たちに会えるなんて、もっといい宝石を身に着けてくれば良かったわ」

「しかも、あのギル様が自らいらっしゃるのよ! ああ、もう胸が躍るわ」

「ギル隊長がいらっしゃるなんてよっぽどのことがないとないわよね。……あの女装男の殺人事件は何かもっと大きな事件に関連しているってことかしら」

「物騒な世の中ね……。朝の五人組殺人事件もあったし……。今日だけで六人も殺害されているものね」

「けど悪い人間が殺されているわ」

「極悪人殲滅隊か何かかしら」

「そうよね。六人も一人で殺せるわけないものね」

「一番気になるのはその殲滅隊の皆様が」

「「「美形なのかしら~~」」」

 殺人事件よりも美男子に興味があるなんて呑気なものね……。 

 私は木の上で枝にもたれかかりながら彼女達の話を聞いていた。私の腕の中でさっき学園内で見つけた黒猫がぐっすりと気持ちよさそうに眠っている。この黒猫は何故か私にずっとついてきたのだ。

 ……そういえば、今黒豹警備隊って言っていたっけ? 確か、この世界の警察のような役割をしている人達だったはず。その中のギル隊長だっけ? 彼が一番人気だったはず……、王子よりもね。二十歳で隊長になったと言われている最年少のイケメン隊長様。

 私より四つ年上か~。う~ん、年上の男は好きだけど彼は却下。とても賢いし、身体能力は頭一つどころじゃなくて二つ三つ分ぐらいずば抜けている。彼なんかに見つかったら大変だわ。

 そして勿論、彼もヒロインの攻略対象の内の一人だ。正直彼が一番攻略しにくかった。まぁ、最終的には落としてやったけど。

「早くお見えにならないかしら~」

「ギル様はいつもお忙しいから、こんな機会滅多にないものね」

「隊長になってから全く舞踏会にも現れなくなったもの」

「ああ、待ち遠しいわ!」

 シヴのいる木の下で話し合っている貴族の令嬢達は顔を緩ませながら明るい声で会話し続けている。「まぁ頑張れ、乙女達よ」と心の中で雑に彼女達を応援した。恋する女は綺麗になれるのだ。

 シヴは彼女達の会話を流し聞きしながらゆっくりと眠りに落ちた。


「いらっしゃったわよ!!!!」

 一人の甲高い声が私の耳の中で爆発音のように響いた。体が少しだけびくっと反応する。

 ……うるさっ。

 シヴは不機嫌そうにゆっくりと瞼を上げた。彼女の膝の上ではまだ猫が居心地よさそうに寝ている。そんな猫の様子を羨ましがりながら、彼女は下の様子を窺う。

 バタバタと音を立ててさっきまでいた令嬢たちは黄色い声を上げながら門の方へと向かっていった。

「元気だな~」

 私はそんな彼女達の様子を見ながら黒豹警備隊のことを考えた。

 そもそも学園長に呼び出されていたのは朝の事件に関して私を少しばかり追及するためだろう。……黒豹警備隊も一緒に私を追及するようなことになればかなり面倒くさい。

 隠し通せる自信はあるけど、彼らは嘘に敏感だし、よく鋭い勘が働く。気を引き締めておかないと。

 ギル達の周りには沢山の女が高い声を上げて叫んでいる。まるで国民的アイドルのご登場のシーンだ。

 勿論、女だけじゃなく男もいる。彼らは男からの憧憬の対象なのだ。シヴは彼らの小さな動きまでじっくりと観察する。

「遠目から見てこんなに綺麗な顔立ちをしているって分かるのは彼らぐらいじゃないかしら……。エリカは天然で優しいから、あんなお堅そうな人間たちを懐柔させるなんてなかなかの技よね。……そう考えれば、どの乙女ゲームのヒロインも立派な小悪魔よね。……というか、あの人達、なんて眩しいのかしら。あの雲の上だと思わせるようなオーラを出せるなんてもはや人間じゃないのかもしれないわ」

 シヴは軽く目を細めて彼らをまじまじと見ながら、ぼそぼそと独り言を呟く。

 黒豹警備隊を囲う女や男達は彼らに近づきすぎることは出来ない。ある一定距離をとりながら女は黄色い声を上げ、男はキラキラとした目で彼らを見つめている。貴族たるもの品性を失うことなく、常識があるのだろう。

 ギル達はシヴのいる木の方へ歩いて行く。学園全体の雰囲気を感じるために足の赴くままに歩いているのだ。シヴは息を潜めて、存在感を完全に消した。元殺し屋の彼女は空気になるぐらい簡単なことだ。

 このまま通り過ぎてよね……。

「お待ちしておりました!」

 どこからか張りのある声が聞こえた。学園長といつも一緒にいる補佐が遠くから走って来る。

 なんてタイミングの悪い。この木の下で喋らないでよね。と願った私の思いも儚く散り、黒豹警備隊は私のいる木の元で足を止めた。

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