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7. 情報入手

「これは相当なやり手ね~」

 ミーナがまじまじと死体を眺めながら感心する。

 全員一発、そして一刺しで急所を突いている。かなりの経験がなければこんなことは出来ない。となると、学生ではない可能性が高くなる。

 貴族でこんなことが出来るやつなんていたか……? 俺は物覚えは良い方だ。顔と名前は一度覚えれば絶対に忘れない。その人の人格もだ。今まで会ってきた中でこんなことを出来る技を持った奴はいなかった。まぁ、もしいてもそいつは人殺しの技なんて公には明かさないだろう。

「こんな事は初めてですね」

 クイッと人差し指で眼鏡を軽く押しながらハインツは低い声でそう言った。

 犯人がいたという痕跡が本当に一つも残っていない。手掛かりは車輪の幅だけ……。この道はすぐに閉鎖されて一つの馬車しか通っていない。だが、これだけでは何も絞り込めない。

「隊長!」

 突然、シャラの高い声が耳に響いた。額にやや汗を浮かべている。

 こいつがこんなに焦っているなんて珍しい。もしかしたら犯人の手掛かりを手に入れたのかもしれない。

「何か分かったのか?」

 ハインツが落ち着いた声でシャラの方を見ながら聞いた。

「……いえ、あの、一応情報は入手したのですが……」

 かなり急いできたのか息を切らしながら彼は話す。こいつをそこまで驚かせる事態は何だ。今日は五人組殺害よりも驚くことなんてもうないだろう。

「実は……、幼女を襲い殺していたという我々が追跡していた変態貴族ロバート・ジウンが殺されました」

「……は?」

 一瞬シャラの言葉を理解することが出来なかった。

 ギル同様シャラ以外の人間全員、時間が止まったかのように固まった。そしてしばらくして、ミーナが大きな声を上げた。

「はああああああああ!? 何言ってんの? 殺された? 誰に? こんな一日に極悪人がポンポン死ぬわけないでしょ。ふざけんなよ」

 ミーナは驚いた時だけやたら喋り方が雑になり、声が酒場で叫んでいるおっさんのような低い声になる。

 今の言葉は皆の気持ちを代弁してくれている。その場にいる皆がそう思ったであろう。

 シャラは息を整えて続きを離し始めた。彼は周りが焦れば自然と冷静になっていくタイプの人間である。

「ロバート・ジウンは女装して学園に入り込み、そこで殺されました。ショットガンの弾を後頭部に一発ぶち込まれて死んでいます。射程距離約八百メートルから八百五十メートルの言語教室にそのショットガンが収納されています。ですが、言語教室を使用する先生の話によると何一つ配置が変わっていないそうです。一ミリも何もずれていないと言い切っています。ショットガンもこの事件がなければ弾が一つ減っているなんて気付かなかっただろう、と仰っていました」

 淡々と話すシャラの言葉に一同は置いていかれる。頭に入ってくる情報量が多すぎる。理解が追い付かない。

「射程距離が八百メートルから八百五十メートルって……本物のスナイパーじゃない。というか、まず、どうしてショットガンみたいなスナイパーライフルがどうして学校にあるのよ」

「護身用に一応備えていたそうです」

 さらっとシャラは答える。シャラも自分で説明しながらようやく事態を把握出来てきたみたいだ。随分と落ち着いてきている。

「ショットガンを外に持ち出した可能性は?」

「目撃者はゼロなので、言語教室から撃った可能性が高いと思われます」

「もしそうなら腕はエス級ランクのプロスナイパーだな」

 ハインツは軽く微笑しながらそう言った。

 基本的に無表情でお堅いハインツも今回ばかりは顔が引きつっている。この事件を飲み込むのにかなりの時間を要するだろうな。あっさり理解できるような出来事じゃない。

「他に情報はあるか?」

 俺の言葉に素早く反応し、目を真っ直ぐ見ながらシャラは口を開いた。

「この馬車の痕はバシルス家のものだそうです。実際御者に会って話を聞きました。バシルス家の令嬢シヴ様が襲われそうになったそうなのですが、御者は五人組の一人に気絶させられたそうです」

「じゃあ、シヴ様が彼らを殺したっていうの?」

「……いえ、それがシヴ様曰く、通りすがりのヒーローに助けてもらったそうです」

「そのヒーロー様の特徴は聞いたの?」

「いえ、俺も直接シヴ様とお話したわけじゃないので……。シヴ様の様子を観察しようと探したのですが、授業にも出ておらず、どこにも見当たりませんでした」

「どこかで休まれていたんじゃない? だって、貴族のお嬢様が殺人事件を目の当たりにしたら気分も悪くなるでしょう。トラウマよ~」

「御者の話では、シヴ様はとても元気で事件に対してもあっさりしていたそうです」

「胡散臭いな」

 ミーナとシャラの会話にハインツが割り込む。

 確かに胡散臭い。あの令嬢がそんなにあっさりしているとは思えない。舞踏会などで何度か会ったことはあるが『甘やかされて育ったプライドの高いお嬢様』というイメージだ。それにマーガレット家のエリカを虐めていたという噂も耳にしたことがある。

「一度会って確かめてみるか」

 ギルの言葉に全員が力強く頷く。

 自分の目と耳で情報を得るのが一番信用できる。シヴ・バシルス、俺が見定めてやろう。

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