5.ヒロイン登場
学校に着いたら、皆が朝に五人組が殺された事件の話題で盛り上がっていた。
……皆の情報入手力半端じゃないわね。
私は、人気のない所に馬車を止めて、御者をたたき起こして、誰かが来て助けてくれたなんて嘘をついてたら学校に着いたのが割と遅くなってしまった。
「聞いた? あの指名手配の五人組誰かに殺されたんだって!!」
「知ってる!! 凄いわよね! 一体誰がやったんだろう……」
「殺人鬼だろ」
「ちょっとやめてよ。やっと安心したのに、怖がらせないでよ」
「だってそうだろう。あの五人組って強盗だけじゃなくて人殺しでも名を馳せていたじゃねえか」
は!? 人も殺してたの? それは知らなかった。というか、あの腕で人殺しって……。まぁ、まず人を殺しているなんて世間にばれている所で一人前じゃないわよね。
「シヴ、おはよう!」
誰かに明るい口調で名前を呼ばれた。シヴ・バシルス、それが私の名前。
私の名前を呼ぶような物好きは一人しか想像できない。
「エリカ」
私は彼女の名前を呼びながらゆっくり振り向いた。
ヒロインのエリカ・マーガレット。公爵家の内の一つマーガレット家の令嬢、鮮やかなオレンジ色のふわふわとした髪に、知性が感じられる深緑色の瞳の美少女。そして、私の殺したいランキング堂々の一位の人物! 割と早く会えたわね。
エリカの隣にいる焦げ茶色の髪に澄んだ青い色の瞳が特徴の女が、カルロッタ・グレゴリー。彼女もまた公爵家の令嬢。つまり、今ここに公爵家の中の令嬢全員が揃っているわけだ。
「そんな睨まないでよ、カルロッタ」
「……エリカに何するか分からないもの」
「安心して」
今度からは虐めるとか罵るとかしないで、殺しに行くから♡
エリカは私とカルロッタの様子に少し戸惑うような表情を浮かべる。平和主義の彼女にとって私は疫病神だろう。
「安心できないわよ」
「まぁ、油断せずに頑張って」
私は口角を少し上げてながら、肩をポンとたたいてその場を去った。
エリカとカルロッタは普段と違うシヴの様子に驚き、目を見開いたまましばらく彼女の背中を眺めた。
カルロッタから、ストロベリーティーの匂いがした。それと、微かなチーズ、ブルベリー、甘い匂い……、朝からレアチーズケーキでも食べてきたの? まぁ、甘党なのは間違いなさそう。
紅茶に毒でも盛るか、ケーキに毒を盛るか……。正直、カルロッタはどうでもいいんだけど、男を独り占めするためにはやっぱり一人でも女がいなくなった方がいい。
カルロッタを先に殺してあげる方がいいよね。エリカ死んだら、カルロッタは絶対に病むと思う。人を殺すのは得意だけど、私の趣味に精神的苦痛を与えようとかそんな気は全くない。……まぁ、どっちを殺すかはタイミングの問題かな。
あ、この息遣いとこの足音は……、男性、やや肥満型、私の方に近づいてきているってことは御者か。
「お嬢様~」
私は後ろを振り向く。少し遠めの所から御者が走ってくるのが見えた。
あったり~。外れることもあるけど、誰が来るのか予想することは大事だ。それにしてもあんなに急いでどうしたのだろう。もう、散々説明したから朝の件は通りすがりのヒーローさんが助けてくれたことになっている。
「お嬢様、放課後に学園長室に行って下さいとのことです」
「どうして?」
「……それがきっと、朝の件でございます」
おどおどとした調子で御者は話す。情報を伝えるのなら簡潔にかつ相手に伝わるように教えて欲しい。情報屋の基本だ。通りすがりに情報を伝える時など数秒間に全ての情報を伝えなければならない。
「どうして朝の件で呼び出されるの?」
「それが……、私が話してしまったのです」
「誰に?」
「近くの守衛にです」
自分が被害を受けて事件に少しでも巻き込まれたのなら誰かに話したくなるのはしょうがない。それに今話題の五人組の件だし……。だけど、今回はちょっとまずいよ。彼らを殺したの私だもん。学園長ぐらいは騙せそうな気がするけど。あの警備隊が相手なら少々厳しいかもしれない。
前世で乙女ゲームをしていた時に一番厄介だったのがあの黒豹警備隊だ。頭の回る連中を相手にするのは大変だ。しかも身体能力も高い。……乗り切れるかな。
「お嬢様?」
「何?」
声が少々荒くなってしまった。私の視線にますます御者は怖気づく。
「た、大変申し訳ございませんでした!」
「別にいいわよ。それよりもあんまり夜中に馬車を使うのやめた方が良いわよ」
「え……、どうしてそれを」
御者は彼女に自分の行動を言い当てられたことに驚き瞠目する。
「手綱を少し握っただけじゃ、手にそんなマメは出来ないわ」
となると、馬車の運転の練習か、他で使っているか。けど、ベテランの御者が運転の練習なんてするはずない。考えられるのは、後者のみ。つまり、私達家族が就寝した後に動いている。
一応馬車は私の家のものとなっているから私用で使うことは許されない。まぁ、誰も気づいていないみたいだから別にいいけど。
だが、ここ最近、この御者は太ってきている。多分、原因はお酒。夜中に馬車で町へ出て飲みまくっているのだろう。もう彼も年だし気を付けた方が良い。お酒は怖い。酒が原因で死んだ私は重々それを理解している。
従者が怯えた目を私に向ける。私が父に告げ口すると思っているのかしら。
「大丈夫よ、誰にも言わないから」
夜中に馬車を使わない方が良いっていうのはお酒を控えろって意味で言ったんだけどな。……伝わらないか。
私はそんなことを心の中で思いながらその場を離れた。
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