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4.黒豹警備隊

 騎士とはまた別に犯罪を取り締まる役職がある、それを俗に黒豹警備隊と言う。

 いつも彼らは黒い服を着ており、豹の如く素早く動きまわり獰猛であるということからこんな呼び名となった。彼らに見つかれば必ず牢獄送りになる。

 そして、彼らは町の英雄的存在であり、老若男女問わず絶大な人気を誇っている。メンバーは全員男と決まっている。最年少で隊長となったギルバート、通称ギルが率いるこの隊は過去最高に強い隊だと言われている。誰もが羨む艶のある美しい金髪に、透き通ったガラス玉のような翡翠色の瞳。そして、その左目は真っ黒い眼帯で覆われている。その左目には色々な諸説があるが、とにかく何らかの形で怪我を負ったらしい。


「大変です隊長!!」

 会議中に扉を勢いよく開けて、息を切らしながら俺の部屋に入ってくるのは隊の中でも一番下っ端のマリウス。マリウス・ドイリ、栗色のぼさぼさの髪の毛にそばかすが特徴の十九歳のガキ。まぁ、俺も二十歳だから彼をガキというのは変かもしれないが。

「朝から騒がしいな」

 副隊長の黒髪ロン毛眼鏡頑固が眉間に皺を寄せながらそう言った。こいつはハインツ・ディルト。主に俺の補佐を担っている。聡明で仕事は早いが、割と面倒くさい性格の男だ。周囲の奴曰く、俺のことを盲目的に慕っているらしい。

「あの! 学園までの道で殺人事件が起こりました」

 マリウスの言葉でその場にいる全員が彼の話に耳を傾ける。

「強盗殺人罪で指名手配になっていた暴力団五人組が殺されていました」

「「「「何!?」」」」 

 数名の驚きの声が重なる。俺は特に驚くこともなく、手元の書類を眺めた。

「朝から殺されたのか?」

 無駄にガタイの良いガデスが興味津々の様子でそう聞いた。

 ガデス・リストン、短髪の赤髪に筋肉だけが取り柄な体を持った隊員の内の一人。こいつは力馬鹿で、なんだかんだ役に立つ。

「はい! そのようです! 五人のうち、四人が頭を銃弾で一発づつ打たれ、一人は心臓に短剣を突き刺されて死んでおります」

 一発で頭に銃弾を入れた? それに一発で心臓を刺して殺しただと? 

 マリウスの言葉には、さすがに耳を疑った。

「名のある暴力団を一人で殺すなんて只者じゃないわね~」

 愉快な声で楽しそうに俺の斜め前に座っていたミーナが声を発した。

 毒々しい濃いピンクのやや長い髪に、オネエ口調で長身の男。こいつはどこの家出身か分からなかったが、とりあえず、使えそうだから拾って部下にした。気色悪いが頭が良いし動きも鋭く、実際に使える。女みたいな名前で本当の名前かどうかは分からないが、彼がそう名乗ったから俺達はそう呼んでいる。

「どうして一人と分かるのですか?」

「殺し方が単独犯じゃな~い。犯人の痕跡はあるの?」

「それが……、髪の毛一本もなく、何も見つけられませんした。唯一分かったのが、車輪の幅です」

「結果は?」

 脅し口調でハインツが聞く。それにマリウスはおどおどとした調子で答える。

「えっと、車輪の幅から貴族のものだと思われるのですが……」

「貴族って言っても、何十もの家から絞り込むのは無理ね~」

「どうしますか、隊長?」

 痕跡もなし、目撃者もなし、手掛かりもほぼない。殺した相手は極悪人。新たなヒーロー誕生か?

「父上に相談なさってはどうですか~」

「おい、ミーナ、軽率だ」

 ハインツがミーナを鋭い目で睨む。

 まぁ、そう言われるのは仕方がない。俺は第一王子だった。黒豹警備隊に入る際、王位継承権を放棄したのだ。王子なんかよりも直接的に民を救える立場になりたかった。黒豹警備隊に入ることには勿論、両親から反対された。だが、俺の人生だ。自分の人生くらいは自分で決めたい。勿論、自覚がないとかなんとか批判は沢山あったが、国民と絡んでいくにつれて理解してもらえるようになった。

「王子だからと言って優遇を受けずに隊長になったんて素敵よね~」

 ミーナが俺の方を見ながら笑みを浮かべる。普通の人が見たら、この薄気味悪い笑みに背筋にぞわっと悪寒が走るだろう。ミーナが性的な目で俺を見つめる。

「少し黙れ」

 ハインツが目の圧でミーナを制する。眼鏡頑固だが役に立つ。

「どうしますか?」

「短時間であいつら五人を一人で殺した奴を野放しにするのは危険だな」

 マリウスの言葉にガデスが即答した。ガデスは力馬鹿だが、頭も悪くない。

「学園までの道のりということは、犯人は生徒さんかしら~」

「男で絞ります?」

「マリウス坊や、早とちりしないで。拳銃と刃物なら女でも十分倒せるわよ」

「あのナイフ一発で心臓に突き刺すには相当な力とコントロールが必要ですよ」

「確かにそれもそうだわ。今までそんな事件でなかったものね~、困ったわ~。どうするぅ? 眼帯王子様」

 全員の視線がギルの方へ集まる。

 ……今回の事件は前代未聞だ。絞れて貴族。男か女か、年齢、外見、何も分からない。会ったら分かるか? いや、相手は相当なやり手だろう。気配を消すことなど容易い。

「シャラ、学園に忍び込め」

 その言葉と同時に俺の隣に黒い布を口元に巻いた黒豹警備隊の忍びが現れた。体型は小柄で細身、髪色は白髪に向日葵の花びらのような綺麗な黄色の瞳。外見は割と目立つが、気配を消すことに関しては黒豹警備隊では頭一つ抜けている。

「はっ」

 俺の言葉にシャラは覇気のある返事をした。シャラは俺の目だ。こいつがいるから俺の元に機密情報が集まると言っても過言ではない。

「我々は何を致しますか」

 ハインツは眼鏡を光らせながら俺にそう聞いた。

「現場へ向かうぞ」

 俺の言葉に一同は「承知」と声を揃えて言う。

 さぁ、新ヒーローの手口を見に行くか。

 俺は椅子から腰を上げ、壁に掛けてある黒いロングコートを取り、バサッと羽織った。

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