1.名に懸けて
……とんでもない記憶を思い出してしまった。そして、今の世界がどういう世界なのかということも把握ししている。
私の前世は殺し屋だ。殺しのプロだったのに、今やこんな陰湿で最低な卑怯女に成り下がってしまった。
ああ、伝説とまで言われたあの時の私に言ってやりたい。「調子に乗るな」と。
私はあらゆる女になることが出来た。引きこもりオタク、淫乱な娼婦、お馬鹿な女子高生、品のある貴婦人、天然なバニーガール、男を魅了する踊り子、スナックのママ、……とにかくどんな小さな隙も決して見逃さず、狙った獲物は必ず仕留めた。
そして、コードネームは伝説の天才、レジェンドジニアスの頭文字をとってLGという誰もが引くようなダサい名前を付けられたほどだ。もはやあれは嫌がらせだったのかと思う。
語学に堪能、身体能力抜群、洞察力は人並みでなく、教養も完璧、……だった殺し屋の私がどうしてこんなところにいるのだろうか。
ここは乙女ゲーム『私がprincess!?』の世界。
……私みたいな殺し屋がこんなことを知っているのは、あるターゲットに接近する為に必要だったから。その為に、膨大な量の乙女ゲームをした。そのうちの一つがこの『私がprincess!?』という、何故か腹が立つ名前の乙女ゲーム。一応全ての物語の内容は把握している。
そして、今回私が転生したのは乙女ゲーム『私がprincess!?』の悪役令嬢だ。
どういう意図で私は彼女に転生されたんだろう。意図なんてなくて適当に転生しただけかもしれない。
まぁ、とりあえず、プロの殺し屋が悪役令嬢に転生って……ヒロインを殺せということかいな。
恋路を邪魔しちゃうぞ★ みたいなレベルを超える。もはや邪魔な奴は抹殺。つまり、ヒロインを殺せば私が逆ハーレム状態になる。いいね〜、悪くない。
思わずニヤリと笑みがこぼれてしまう。
この世界の内容は大まかにいえば、七つの公国とそれを治める一つの王国から出来ている。ヒロインは純粋無垢な仏のような女の子だ。その子と王子が恋に落ちるのが気に入らない私は彼らの間を邪魔しまくる。
それはそれは馬鹿丸出しの方法で邪魔をしまくるのだ。もっといい方法があると小学生でも分かるようなレベルの馬鹿さだ。例えば、ヒロインのロッカーに虫の死骸を詰めたりだとか……。
馬鹿じゃねえの? それなら、ダイナマイト詰めた方が確実に殺れる。ヒロインがロッカーを開けた瞬間に爆破なんて朝飯前。
まぁ、ゲーム内の悪役令嬢は馬鹿なことをやり過ぎて、国外追放ではなく……死刑となってしまう。
私はもう一度死ぬなんて御免だ。現世は素晴らしい人生を送りたい。とっととヒロインを始末してしまおう。元LGの名に懸けて。……なんてダサい台詞なんだろう。
そして、前世の私よ。もう一度言いたい、「調子に乗るな」。
私の死んだ理由が殺しでミスをしたのならまだ格好良かったかもしれない。今までの功績がずば抜けているから死んだ後に称えられる可能性はあった。誰よりも卓越していたあの逸材が死んだぞ、みたいな形で葬式なんかしてくれたかもしれない……が、死に方があれじゃあ誰もしてくれないだろう。
……急性アルコール中毒。これが原因で私は一度この世を去ったのだ。
大物ターゲットを殺し終えた後に浮れまくり、飲み過ぎた結果……死んだのだ。ああ、なんてダサくて悲しいことだろう。
皆、酒には気を付けよう。