最初にちょっと衝突しちゃうもんだよね
さっきの森からかなりの距離を歩いてこれも
またよくあるRPGの荒野みたいなところにでた。
「はぁ。はぁ。僕らは一体どこに向かって
るのですか~。」
ニートであった僕にとって長い距離を歩くのは
苦行でしかない。
「なっさけないですね~。それでも勇者ですか?
このくらいで音をあげてたら、これから先
死んじゃいますよ~。」
このアンジュという女は息ひとつ切らして
なかった。僕が運動不足というのもあるだろうが。
「はぁ。それより!はぁ。どこに、はぁ
行くんですか?」
「疲れすぎですよ~。それにわかってるのでは?
まずはRPGのど定番王宮があるところですよ~。」
とにこやかに言った。
「いや、予想通りじゃないところもあるんで
勇者をたおせとか・・・」
と話していると、いきなり犬が襲ってきた。
よく見ると目が三つあって目付きも悪かった。
「うわぁぁぁぁ!!!」
間一髪その犬のようなやつの攻撃をかわした
ものの勢いでこけたしまった。そこそこいたい。
「あ~そいつは"デスペル"っていう低級な
モンスターですよ~。頑張って下さ~い。」
と完全に他人事なにこやかな顔で言った。
「いや!どーやって戦うんですかー!」
デスペルはこちらを睨み付けて今にもとびかか
ろうとしている。
「あ~言ってませんでしたっけ?とりあえず
剣を抜いて念じてみて下さい。そーすれば
倒せまーす。ファイト!」
あまりにも雑で他人事だが、今はそんなこと
気にしている場合ではなかった。言われた通りに
剣を抜いて念じてみた。念じた瞬間、剣が水色
に輝いた。その時デスペルが襲いかかってきた。
一瞬自分の体がさっきまでの疲労が嘘のように
なくなり、むしろ自分の体の体重が消えたと
錯覚するくらい軽くなった。そしたデスペルの
攻撃をかわしデスペルの後ろから首をはねた。
三つ目の犬の顔が宙を舞っておちた。RPGとかで
戦うのとは違い戦いのグロさがモロに伝わってきた。
「モンスター初倒しおめでとうございます~!
あっそのモンスターや牙と爪とっておいて下さい
ね~♪そこそこの値段で売れるんで。」
アンジュはにこやかに拍手をしていた。モンスターを倒した当の僕はなんとも言えなかった。
いくらモンスターとはいえ、初めて能動的に
殺してしまった罪悪感が多少残っていた。
アンジュはそんな僕にはおかまいなしに
「あれ~?初めてモンスターを倒したんですよ
~もっと喜ばなきゃ!これからさらに出てくる
んですから倒す喜びを知ってもらわないと・・・・」
「うるさいっ!!!!おめてとうだと?
ざっけんなっ!!!!!!」
にこやかで饒舌なアンジュの顔が無性に腹が
たった。僕の気持ちとはおかまいなしに聞こえてくる図々しい声に苛立ち遮りたくなった。
アンジュはだまった。しばらくするとついてきなと言わんばかりに先に進み始めた。
沈黙のまま2~3時間歩き続けた。疲れも気にならないくらい気まずかった。
「さっきはすみませんでした。」
とりあえず謝った。はやくこの沈黙からぬけだしかった。ニートであったため女としばらく
話してないため女とずっと沈黙はきつかった。
「いえ、私の方も配慮が足りませんでした。
すみません。それと私の方からひとつ。」
なんだ?罵倒されるか?なにか面倒くさい
頼み事でもされるか?と思考を巡らせていると
「お名前を伺っておりませんでした。
教えてもらってもいいですか?」
意外すぎて拍子抜けした。そのせいでちょっと
笑ってしまった。ニート生活から今日まで
笑ったのは初めてかもしれない。
「三日月春香」
「あら、女の子見たいでかわいいですね。」
「やめてください、気にしてるんで。」
小中高とどれだけそれでからかわれたことか。
「いいじゃないですか春の香り好きですよ。
それに名前に意味があるなんて素敵じゃない
ですか。RPGの名前にはないよさですよ。」
初めて赤の他人から名前を誉められた
気がした。
そして荒野にはないはずの春特有の香りが
した。
気がした。