ファミレスに来た
「おーー、すごい」
近所のファミレスにやってきた。
私には見慣れた光景だったが、イチミは目を輝かせていた。
夜中だというのに、照明がピカピカしてるし、今日は学生達が沢山いて、深夜一時を過ぎているのに賑やかな店内だった。
私たちは笑顔が素敵な、おさげ髪の店員さんに案内されてテーブル席に着いた。
メニューは二つあったので、一つをイチミの目の前に広げた。
「イチミ、あなたも好きなものがあったら頼んでいいよ」
「わかった」
イチミは”おー”とか”うおー”とか声を漏らす。
メニュー1つでこれだけ感動できるなら、人生はさぞ楽しかろう。
「私はもう決まったかな。イチミはもう大丈夫?」
「もうすこし」
「そっか。じゃあもう少し待とう」
「うん、もうすこしまとう」
私はイチミがメニューを見ている間、辺りを見渡すことにした。
通路を挟んで隣にカップルが楽しそうにお話をしている。
私は気分が悪くなったので、すぐに視線を外した。
三つ前のソファー席に老夫婦が座っている。
こんな深夜にどうして居るんだろう。
彼らは一言も話さず、ホットドリンクを啜っていた。
でも、深刻そうな表情はしておらず、にこやかな雰囲気を漂わせている。
通路側に顔を出して後ろを覗くと、正面にスーツ姿の会社員と小さな女の子が座っている。
楽し気に話し合っていた。というよりは、女の子が一方的に男に話しかけていた。
女の子はイチミより少しばかり大人びて見える。
カップル……にしては年が離れすぎてるようだ。
少し犯罪の匂いがする。
「きまった」
イチミがパチンと勢いよくメニューを閉じる音で、私は体をテーブルに戻した。
「もういいの?」
「うん」
私はテーブルの脇に置いてあるベルを押した。
ピンポーンと安っぽい音がした後、数秒して先ほどのおさげ髪の店員さんが現れた。
「ご注文をお伺いいたします」
そう言って朗らかに笑う店員さん。
「イチミ、先に注文していいよ」
「うん」
イチミはメニューを指差して、店員さんに見せた。
「この、”とうがらしとぱぷりかのがーりっくそーす”をください」
「はい、”唐辛子とパプリカのガーリックソース”ですね!」
おー、なんかそれっぽいのを頼んだぞ。さすがは唐辛子の妖精だ。