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目の前の真っ白は3秒ほどで立ち消えた。
その後、私が目をしばしばと瞬きさせていると、やがて小さなちゃぶ台を挟んだ向こう側に赤い人影が見えた。
それは女の子だった。
「うわ、だ、誰?」
私が驚いていると、女の子はちゃぶ台の上を黙って指差した。
すると、なんということだろうか。”一味唐辛子三連峰” は綺麗さっぱり無くなっていて、元あった納豆、豆腐、ハンバーグがその姿を現していた。
「あれ、私の一味唐辛子が消えてる!?」
私が更なる驚きの出来事に対し”開いた口が塞がらなく”なっているところで、女の子が口を開いた。
「なんか、くれ」
女の子は私に手を差し伸べている。
まだ出会って10秒足らずだが、目の前の少女は恐ろしいものではない気がした。
「な、なんかっていうのは……このハンバーグでもいいの?」
「それ、好きか?」
「うーん、結構好きかな。美味しいし」
「じゃあ、それでいい」
少女にハンバーグとお箸を手渡すと、少女はその場に座り、ハンバーグをパクリと一口で食べた。
そして、モグモグと頬張っている口元は、ソースでべったりになってしまった。
(お腹空いてたのかな……というか、その前に誰なんだろう、この子)
女の子はハンバーグをゴクリと嚥下すると、二つ目のハンバーグも一口に食べた。
その際、彼女が着ている赤いワンピースにソースがぽとりと落ちた。
「あ、こぼしちゃった。大変」
私はキッチンに走ると、ハンドタオルを濡らして、リビングに帰ってきた。
「あちゃー……シミになっちゃったらどうしよう。結構高そうなワンピースなのに……」
私が少女のワンピースの汚れた部分をハンドタオルで拭き取ると、不思議なことに綺麗に拭き取ることが出来た。
「おー、すごい!全然シミになってない……素材がいいのかな?」
「……」
少女は黙ってモグモグと口を動かしていた。容姿は抜群に可愛くて、お人形さんみたいだ。髪の毛もサラサラで、とても柔らかそう。
私は少女の口元をハンドタオルで拭いて綺麗にしてあげた。
やがて、少女はごくりと音を立ててハンバーグを食べ終えると、私の方に視線を向け、小さな声で私に尋ねた。
「……何かしてほしいことある?」
「してほしいこと……?」
私が素直に聞き返すと、少女はコクリと小さく頷いた。
「そうだな……とりあえず名前を教えてもらってもいい?」
「わたしは……”イチミ”……」
イチミ……?
変わった名前だなぁ。
そのときはその程度にしか思っていなかった。