お客様は神様ですから
少し長くなっちゃったけど是非、読んでみてください。
お客様は神様ですから
木々の生える山奥に最近、小綺麗なレストランができた。
そのレストランに訪れた者は皆、清々しい顔でレストランを後にするとのこと。
その噂を聞きつけたF氏は、興味本意でそこを訪れることにした。
「皆が笑顔で出ていくレストランだ。そうとう料理が美味しいのか。もしくはウェイトレスの対応が素晴らしいものなのだろう。その両方ってのも十分にありうる」
F氏は山を自慢の車で駆け上がりながら、胸の中で期待を膨らませる。
しばらく登ると、山道の途中で道路が切れていた。脇には『この先、山内レストラン』という新しい看板が刺さっていた。
ここからは歩いて行けと言うことか。
少々親切さに欠けるが、歩かせて腹を空かせることで、より下を喜ばせる工夫だろう。
期待を胸に、山道を歩いていくと、ついにレストランが見えてきた。
「ここが噂のレストランか。大きくも豪華でもないが、一体どんな美味しいものが食べられるのだろうか」
F氏が1人でブツブツ言っていると、中から1人の男性が出てきた。タキシードを羽織った、高身長のウェイトレスだ。
「お待ちしておりました。さぁ中へお入り下さい」
(そう言えば、予約は取っていなかったが、私を待っていたと言っていた。どういうことだ?)
少し奇妙に思い首を傾げたF氏だったが、気にしない事にして、ウェイトレスに導かれるままに店内に入っていった。
建物の中には安く買えそうな机と椅子がひとつずつ。その上にオレンジ色に光る電球が吊るしてあり、机を照らしていた。それ以外は何もなかった。
ウェイトレスはF氏の上着と荷物を預かった。ありがとう、とF氏が言うと。
「いえいえ、お客様は神様ですから」とウェイトレスは笑顔で言う。変わった響きだったが、特に悪い気はしなかった。
ウェイトレスはF氏を席につかせると、
「少々お待ちください」
と言って立ち去った。
(今のところ、環境はあまり良いとは言えないが、客人が清々しく、幸せに思えるレストランだ。きっとここからなのだろう。料理が楽しみだ。)
しばらく待っていると、大分時間が経ってから1つ目の料理が運ばれてきた。
どれだけ美味しいのかと期待をしていたものの、その料理はお世辞にも美味しいとは言えないものだった。
見た目は乱雑で、量はこれでもかと言うくらいに少ないし、しかも薄味だ。素材の味すらしない。
F氏は立ち上がって声をあげた。
「帰りたいんだが!会計はどうすればいいんだ?」
我慢が限界に達しようとしていた。
ウェイトレスが奥から歩いて来て、机の上に、そっと会計書を置いた。
「こちらになります」
その内容を見てF氏は目を丸める。
そこには、今食べた料理の代金だけではなく、お迎え代、洋服預かり代、荷物預かり代など、事細かに記載されていた。
しかも、そのどれもが、F氏の思った以上には割高で請求された。
さて、F氏はとうとう痺れを切らし、怒り狂った。
「こんなのおかしい!ぼったくりだ!ちょっと身長が高いくらいで、何やってもいいと思うなよ!」
それでもウェイトレスは笑顔を崩さなかった。
「あの噂はなんだったんだ!期待して来てみたら、とんでもないところだった!もう帰らしてくれ!」
F氏はウェイトレスから、持っていた自分の服と荷物をぶんどって、遺憾な足取りで出口に向かって行った。
「クソっ!何かがお客様は神様です、だ!」
ウェイトレスは最後にF氏を出口まで見送って言った。
「お客様は神様ですから、その寛大なお心で、私たちを許してくれるのです」
F氏は、はっとした。少し怒りすぎたと後悔する。
そして何かを悟ったように、清々しい心持ちでレストランをあとにした。
高級レストランって料理1つの料理が少ないイメージしかない。