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ヴァナルガンド  作者: 東条のカレーライス
6/6

2-1

子供達は隠れていると思っているようだ。その心意義に免じて騙されてフリをするのも温情だろうか?幸い彼等に敵意と言った物がないだろうから。

「……」

面白いのでそうする事にした。そうと決まれば全裸になろう。服を脱いで素っ裸になると子供の一人が悲鳴を押し殺し尻尾の毛を逆立てた。耳を済ませばその性質は女の子だった。それを知った私はそのまま興奮した様子で雪に頭を突っ込む。何故か盛り上がった雪を見るとそうしたくなるのだ。

「わおん!あおん!!!!」

当然女の子に尻を見せつけるように。年頃の女子にこの光景は毒だろう。何しろ私の鍛え抜かれた筋肉と尻の美しさを見せつけられるのだから。……おや?女の子が気絶したぞ?今分かった事だが彼女は猫人(ワーキャット)だった。

「みーちゃん!?」

隠れていたであろう雄も猫人(ワーキャット)だった。呆気に取られていると男の子がみーちゃんなる女の子を抱き抱えて逃げ出そうとしていた。なので自分はターザンっぽく先回りした。男の子に筋肉の背中を見せつけて振り返ると我が陰部が衆目(一人)に晒される。

「こんな所に子供二人で来るなんて……何かやましい事があるのかな?」

その言葉に男の子は抱き抱える女の子を木に預けて興奮した様子で猫人(ワーキャット)の本性を曝け出した。そして靴を脱ぐと接近した。

「お前に言われたくねえよ変質者!」

猫の脚力による接近は早く瞬きをする間もなく私の懐に入った。そして鋭利な手で首を掻こうとしたが寸での所で私が手首を抑えた事で事無きを得る。

「フン!」

掴んだまま大振りに振り回し木に投擲した。男の子は脚の裏でその衝撃を殺そうとするが私が接近した事に気付いた為それを止め身を捻り猫の爪を木に突き出しそのまま半回りし身を投げた。その為私が放つ右ストレートは木だけを貫く事になった。けたたましい音が響く。態勢を整えた男の子は地面に手を置いて緑色の魔法陣を展開した。すると木を貫いたままの自分の足元にも同じ魔法陣が展開された。その様子を見た自分は木を折りつつ賞賛の言葉を送る。

「凄いね(ロンド)無しに扱えるとは」

そう呟くと魔法陣は輝きを増した。

「荊の蔓!」

男の子が魔法名を詠唱した瞬間、足元の魔法陣から鋭利な杭が飛び出してきた為迫る棘を木の上に跳躍し逃れた。それを見た男の子は苦悶の表情を浮かべて地面を足でふみ鳴らす。すると先端に杭を備える蔓が男の子の足元から飛び出して私に迫ってきた。

「ハァ!」

私は跳躍した。すると蔓は空中まで私を追い掛ける。それらの攻撃を私は壁歩きの要領で躱した。そして落ちつつも男の子の真上に接近した私は足で踏みつけようとする。

「ーーっ」

だが男の子は背中を逸らす事で躱した。対象を失った足は地面を踏んだ。

「シャー!!」

男の子はバク転したかと思うと鋭利の足の爪を私の顔面を裂こうとしていた。

「……小癪な」

私は口でそれを止めた。少し口の中を裂かれたがどうって事ない。足を噛まれた事でバク転に失敗した男の子は後頭部を地面に打ちつけた。だが直ぐさまもう片方の足で私の背中を捕えると両手で勢いをつけ上半身を眼前まで起こした。そしてその牙で私の顔を食べようとしたが目一杯おでこでおでこをゴッツンコした事でそれは失敗に終わる。男の子はそのまま倒れた。

「ぺっ!」

口の中が気持ち悪かった為吐き捨てる。血が純白の大地を染め上げる。……そのまま離れて気絶している女の子に視線を向ける。

「……」

眠っていた。

「冗談が過ぎたね……」

治癒の為にヴァーを取り出そうとする。当たり前だがヴァーは居ない。

「……冗談だからね?」

忘れてたなんて言えない。気を取り直して脱ぎ捨てた服を拾い懐に仕舞っているであろうヴァーを取り出そうとするもそこにもヴァーは居なかった。

「え?嘘でしょ?ヴァー??」

探せども探せども見つからない。

「家出なんてお父さん許しませんよ?」

そんな自我を持っていたら凄く怖いがそう言わないと混乱している頭が収まりつかない。……すると背後に気配があった。急いで振り向くと男の子が起き上がっていた。

「ニャアアアアアアアアア!??」

そして攻撃しようとしたので避けた。どうやら魔法が使えない程に自我を失っているらしい。しかし不味いな。あのみーちゃんを見つけたら不味い事になるんじゃないか?

「んぅ?」

私はみーちゃんが起きた事に気付かない。

「……猫人(ヒューマンキャット)の弱点は尻尾か」

それを引っ張れば少しの間方向感覚を失う。その間に気絶させる事が出来れば……。そう考えていると接近する構えを取った。だから私は最高速度で男の子に迫っていく。そして男の子も跳ねた。すれ違い様に避けて尻尾を引っ張れば勝ちだ。そう思ったが。

「止めてぇ!」

何故かせっちゃんが間に入ってきた。左手を男の子に右手を私に突き出し恐怖を抑え込むように目を瞑っていた。しかも目の端に涙を浮かべている。

「……!」

咄嗟に人狼(ヴェアウルフ)の本性を現す。刹那、時間が静止した。腕を目一杯地面に叩く事で前転跳躍した。上手い具合にみーちゃんを飛び越しつつ男の子に当たらないように犬の尻尾を大振りに振ってみーちゃんの背中を押す。そして飛び越え一回転し男の子の頭ではなく尻尾を思い切り踏んづけた。足は尻尾ごと地面にめり込む。急に止まれない為そのまま引っ張られる形になる。

「ギニャアアアアアアア!???」




「キャ!」

みーちゃんは倒れ込んだ。だが急いで振り向いた。

「せっちゃん!」

あの男の子の名前はせっちゃんと言うらしい。そんなせっちゃんの元にみーちゃんは駆け寄り抱き抱える。せっちゃんは尻を抑えていた。

「尻がぁ……いてぇ」

そして意識を失った。私は自分の裸体を見てみる。……うん。大事な所は毛で隠されているな。しかし何でまあ格闘となると裸になる癖があるんだろう?暑くて窮屈だからか?そんな事を思っているとみーちゃんは泣く。

「せっちゃん!!いやぁ!!せっちゃん!!せっちゃあああん!!!!!」

みーちゃんが余りにも悲痛な声をあげるので流石に私は罪悪感を覚える。どうするべきか考えていると不意にせっちゃんはこちらに向いた。

「返してよ!!」

「え?」

そんな間抜けな声を出すとみーちゃんは立ち上がって私に近づいて来た。みーちゃんは怒りに顔を滲ませながら涙を流している。そして眼前に立つと私の腹を叩いた。

「返してよぉ!!私の初恋の人ぉ!!!!」

「初恋!?しかも人!?」

そんな突っ込みを入れていると叩き疲れたのか地面に倒れ込んだ。そして蹲って泣き始めた。更に胸を痛めているとポツリと呟いた。

「大きくなったら結婚するって決めてたのに」

そんな言葉に私は懐かしい気持ちになる。不意に記憶が呼び起こされ銀髪の少女を幻視した。

「……っ」

吊り目だった。いつの間にか居たが当時の私は気にしなかった。……そんなある日指切りなるものをした。彼女曰くそれは契りと呼ばれる儀式で仮に約束を破ったら『千本の針』を呑まなくてはいけないらしい。そしていつの日か彼女は居なくなっていた。多分あの時だけかも知れない。恋と言う経験をしたのは……。

「ヒック……ヒック……」

もう長く生き過ぎている為にそんな境界線は曖昧になっていた。酷い事をしたのだから謝らなくてはいけない。

「すまなかった」

まず膝を屈めて謝る。みーちゃんは泣くのを止めて私の顔を見る。

「長く旅をしている身だった為に襲撃者だと勘違いをした」

「じゃあ何であんな真似を?」

「……そうだった」

その前にみーちゃんに見せつけるように卑猥な踊りをしていたんだった。咄嗟についた後半の嘘を誤魔化そうとするが嘘で塗り固めるだけだった。

「……私は朝になったらあんな事をしてしまう変態なんだよ」

「ヒィ……」

ある意味で本当の事と誤解されてしまった。

「……」

仕方ない。正直に話そうか……?

「私はキミを困らせる為にあんな変態行為をしちゃったんだよ。つまりキミがいけないんだよ?余りにも可愛いんだからさぁ(ニチャァ)」

何処からともなく覆面(意味深)を被った屈強な人狼(ヴェアウルフ)が三体現れた。皆裸体が逞しい。彼等は少女を護るように陣を取った。一番目は両足を広げ左腕を地面に着けて右腕で制する形。二番目は肉体美を見せつける形。三番目は身を捩り背中と腕の筋肉を見せる形になっていた。

「犬のお巡りさんだ!お縄につけ!!」

そして連れて行かれるのは何処かの掘っ建て小屋。朝まで誰も出てこないのであった。……うん。正直に話しても同じ……いやそれ以下の反応を示されていただろう。

「ウ……ウゥ……」

めっちゃ泣いてる。私も泣きたい。今にして思えば何故あんな事をやったのか。過去の自分をぶん殴りたい。

「……何処に行ったんだい?ヴァー」

今は無き相棒の名前を呼ぶが相棒は戻ってこなかった。そして泣き止ますのに苦労をした。その頃ヴァーは前日赴いた遺跡を這っていた。しかし有ったはずの歪な動像(ゴーレム)人狼(ヴェアウルフ)達は既に消え失せている。今に分かるが動像(ゴーレム)は人型ではなく馬型だった。……そして奥深くの壁画の前に来るとヴァーは奇妙な板のような物に変幻し壁に窪みに当てた。すると壁画の壁が開き階下に繋がる階段が現れた。ヴァーは階下を這って降りて行った。

「ハァハァ」

そして着替えを済ませた私はせっちゃんを背負って彼等の住む村に赴いている。先程の発言が効いたのかみーちゃんはかなり前に歩いている。悲しい。

「んん?」

せっちゃんが起きた。微睡んだ表情で辺りを見渡している。そう言えば二人の名前を聞いていなかった。

「ちなみに君達の名前は何だい?」

「ひぐぅ!」

えぇ……。流石に傷つくよ私は。

「……俺がセツナ。あっちがミライ」

背負われているせっちゃんがぶっきらぼうに答えた。

「……儚く、そして勇気づけられる名前だね」

そんな私の言葉に驚いたのかせっちゃんは声を失った。

「……何かやっちゃいました?」

「嫌……?あんな事をやったんだから嫌味の一つでも言うのかと。それに変態なのに表現が詩人(サーガ)っぽくてな」

「……こう見えても良い処の出なんだよ?私は」

するとシュババババ(走り寄ってくる音)とみーちゃんがやって来た。凄く目を輝かせていた。

「それって王子様!?」

「お、おう……」

先程まで小型化兎(ミニマム・ラビット)のように縮こまっていたみーちゃんがモンスターになった。

八足馬(スレイプニル)に乗ったりしてたの!?」

「私は村長の一人息子だっただけだよ」

「……それにそんな高い馬は王都の王族にしか乗れない」

せっちゃんが助け舟を出してくれた。その言葉にシュンとするみーちゃん。何気に失礼な娘だな。

「でも、狩りは得意だったよ。昨夜だって小型化兎(ミニマム・ラビット)を食べたし」

「じゃあ、【泡】は見れたの?」

【泡】……それは生物が死に魂が抜ける時の独特の風景を何処かの偉い学者が名付けた事に始まる。それは夜だけに見られる光景だが見る為には獲物を刈らなくてはいけない。因みに時間が時間な為直に見るとなると難易度は跳ね上がる。それを子供の内に成し遂げたとあればその子供は狩りの名人……もっと言えばギルド所属の狩人(ハンター)になる事を期待されるだろう。

「……もしさっきあんたをヤってたらあんたからは泡が出ていたのかな?」

しかも魂を空に還す事が出来るのは【知恵のない生物】に限る。私達のような亜人に始まる知恵ある生物はその現象が見られない。どうしてだろうか。……そんな現象がある為に『ユグドラシル』そのものが何かの大樹であり昇る魂は空に実る巨大な葉に吸われているのでは?なんて事を言う物好きな学者様も居る始末。学者曰く一枚の葉は谷より高く山より厚いらしい。壮大過ぎる世界観で頭痛が痛い。

「……それは遠回しに私を知恵のない生物と言いたいのかな?」

人狼化してバク転する。物凄くバク転する。せっちゃんが悲鳴をあげるが構わずバク転をする。

「あわわわわ」

みーちゃんが腰を抜かしているが構わず回転する。それは彼等の村に着くまで続いた。

「……これは」

顎鬚を蓄えた屈強な老人が壁画の間に居た。何時もはある筈の壁と動像(ゴーレム)が忽然と姿を消していた事に驚きを隠せない様子。

「っ!」

嫌な予感を覚えたのか踵を返し急ぎ足で駆けて行った。


夜に彼等の住む村に着いた。そして二人は屈折ない笑顔で振り返り私を見た。

「此処が俺達が住んでいるナナシ村さ」

「歓迎するよ〜」

其処は荒れ果てていた。一言で表すならば『塵の山』だろう。もう誰も住んで居ないだろう事を証明するかのように視界の中には数軒のボロい掘っ建て小屋がある。つまり『廃村』であろう。そして私と彼等を除いて知性生命体の気配が無い。

「うん。そうだよ〜。以前は仲間も居たんだけど色々あって俺らとジッちゃんしかいない」

せっちゃんはすっかり治っているのか粒子が飛び交う白い廃村を走り回る。

「後ろに見る景色が違うだけでこれ程の幻想的な雰囲気を漂わせるとはね」

自分が来る以前は此処を住処とし一生を言える者達が居たのだと思うと生き物は何と儚い存在なのだろうとしみじみ思う。

「せっちゃん待って〜!」

みーちゃんもせっちゃんの後を追う。私も小走りで後を追った。

「……おろ?」

視界に何か違和感を感じ立ち止まり目を凝らす。広場の真ん中に何かがあるらしい。……良く見えないので近付いて見るとそれは一本の樹だった。

「……これは」

濃い紫の木の実が美味しそうに生っていた。

「あー!それはじっちゃんが育ててる木の実だからなー!勝手に食べるなよー!!」

「……はいはい」

そして最奥にある掘っ建て小屋に案内された。……念の為に地図を見てみると此処が村公営の宿屋らしい。小屋の外には暖を取る為の薪が一箇所に集められていた。そしてせっちゃんとみーちゃんは二人で手の大拱門(アーチ)を造り私を歓迎してくれる。

「ようこそ宿屋ナナシへ!」

「ゆっくりしていってね!」

「ありがとう」

身を屈んで潜っているとみーちゃんがケタケタ笑いながら私の尻尾を掴んだ。

「わー。モフモフ」

すっかり警戒は解いているようだ。……せっちゃんはうずうずしている。

「わぷっ!」

尻尾で叩いて家の中に入った。そして内装は至って普通だ。いや寧ろ建物の外見からしたら上質と言えるだろう。

私が『囲炉裏』に腰を下ろすとせっちゃんは鋼鉄片の火打ち金と尖った火打ち石を持ってくる。

「はいはーい」

みーちゃんは外から持ってきた薪を慣れた動きで囲炉裏に焚べる。せっちゃんが金と石を打ちあわせると剥がれた鉄片が火花を起こし焚べている薪に火が点いた。

「ふう」

真っ暗な空間に大きな灯を灯す。せっちゃんは私に声を掛ける。


そう言って荷袋の中から革袋を取り出し五種類の水晶を転がした。それは透明の鉄・磁力を帯びた黒石・弾力のある球体・植物の


「マジか。火の水晶(ファイア・クリスタル)じゃないか」

「流石に知っているか」

水晶(クリスタル)とは五大陸の洞窟に原生する透明な石の事だ。特定の場所でしか採取する事が出来ない貴重な物で何とその土地に反比例する性質を帯びるのが特徴。……水晶(クリスタル)とは名ばかりの適応する意思ある石。それがこれらの遺物だ。何故かこれらは教団が保有する遺跡の近くで多く発見されるらしく

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