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この世界に存在するものは、「楽しむために」ある。
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イザヤ65・18
「だから、わたしの創造するものを、
いついつまでも楽しみ喜べ」
娼館だ。
彼女は喋らない。
「ザイール・クンブクンブって知っているか?」
場の雰囲気を変える為か身の上話を話し始めた。レティホアはさながら王女のような口調で説明を始めた。
入ろうとしないイヌに対し男はゆったりとした長い左の袖を捲り上げる。すると鋭利の鎌がそこから刃先を覗かせた。
遺跡を出たルージュはそのまま下山し村に帰った。その村は海沿いにある雪化粧に彩られるナナシと呼ばれる漁村で夜には立ち昇る粒子も相まって幻想的な雰囲気を醸し出す。その一軒に弓の看板を立てている建物がある。それは武器屋だ。ルージュは矢の補充の為にそこに入った。老婆が出迎えてくれる。
「いらっしゃい」
「何をするだで?」
「矢を9本頂きたい」
「では種類は如何しますかね?焔・雷電・氷結の三種類ありますが……」
「三種類を三本ずつ」
「あいよ。赤が60。黄が60。青が60。併せて180アルザルだでよ」
それを聞いたルージュは料金を払う為三種類の革袋を荷袋から取り出す。銀と紫と赤と黄の革袋から一枚ずつそれに対応したコインと矢筒を渡し矢を補充して貰う。老婆が9本の矢を筒に入れてくれたお陰で矢の本数は満タンとなった。
「あい。確かに。……見た所一見さんだね?もしやあの遺跡の中身を見ちまったとか?」
意味を理解した彼はそうだと言った。答えを聞いた老婆は苦々しい表情をする。思わず彼は彼女に質問をした。
「何でこんな辺境の地まで彼等の遺跡が……?」
「……レコンキスタの戦いが集結する数十年前まであれらの遺跡は教団の所有物だった事は有名な話でよ」
立ち寄った場所は遺跡と言うよりも独房と言った所だった。それはとあるカルト教団の所有物に他ならず彼等のシンボルは三角白頭巾でかつて世界を圧巻した巨大宗教の最大宗派と呼ばれる者達だった。今は派閥争いに敗れ権力を譲り渡した事で地下に潜ったとされ、世界に散らばる遺跡は時代を経て盗掘の対象へと変貌した。そんな彼等は陰の光が『満開』の日に際し生贄を捧げたとされた。それがあの遺跡では人狼だっただけの話だ。実は彼等は凍らせる事でしか保存出来ない有機物を常温のままに腐らせないようにする技術を持っていたと言われる。
「何故壊さないので?」
「魔の三角海域と呼ばれる所以さ」
何度も試みたがその都度彼等の呪いのより阻まれた……そう言いたげな感じだ。
「お前さんは人狼らしいが同胞があんな感じになっちまってる事について恐ろしさを感じないのか?」
「今度は自分が生贄にされるかも知れないのに……と言いたげな感じですね」
「違うのか?」
「……私は浪漫を求めるが真実に殺されるつもりはないよ」
その言葉に納得したのか神妙にうなづいた老婆は机の下を弄ると何かを指で弾いた。私は慌ててそれを受け取ると紙に包まれた飴玉だった。見ると老婆はサムズアップしてそして高らかに笑う。
「……ナナシ村を楽しんでってくれーな」
老婆の好意に私は頭を深々と下げ武器屋を後にした。そして飴玉を舐めながら物思いに耽る。
「黒き者に白き者……ね」
兄妹の神話……。壁画に描かれた絵と古代文字と同一の内容が彼らの手によって全国の洞窟に分布しているらしい。世間一般の常識では『ユグドラシル』と言う大陸は巨大な魔法陣が大陸の四方と大地とを包み養っておりその魔法陣の何れかを抜けた先に新天地が広がりまた大陸が続いていると言う物。つまり果てのない冒険活劇を繰り広げる事を『ユグドラシル人』は宿命付けられていると教えられる。……なのに彼等の言う事は空に浮かぶ陽の光と陰の光には意思がありそれらは兄妹で大陸は木の上にあり、しかも妹が最後に見定めて蒔いた種が涙と光に養われ五つの花を咲かせた事で夜には知恵のない魂が空彼方にある巨大な葉に吸われるようになった。そして黒き者の眷属たる引っ張る者は争いで魔族に、時代が下り血筋を受け継ぎモンスターに……白き者も同様に戒める者は勇者に、その勇者の使命を継いだギルドが現在では屠っている。
「さて……」
状況報告の為に村長の住まう家屋に来てみたものの灯りが灯っていない。
あれは小型化兎だ。通常の兎肉より小振りだが雪原地帯でのみ生息する為旨味が凝縮され歯応えがある。他の大陸では滅多に食べられず美食家達が愛食する獣肉だ。ルージュは跳躍し矢筒から取り出した矢を弓の弦に掛け小動物に狙いを定める。
鞣していない小型化兎ミニマム・ラビットの皮だ。この村の特産品はそんな毛皮から作られる小物だ。
食事をしつつ荷袋から取り出した地図を広げる。そして此処の現在地を確認する。点在する家のマークが村や町公営の宿泊所らしい。
猫人vs人狼の戦闘シーンってば絶対【ラ王】や【生き残った男の子】ってタグに付くわ。後別に木の上にあるからといってご丁寧に大木な形をしてる訳ないわな。別に盆栽でもそうであると言えるし。