追放されて良かったです
5月7日 ちょっとキャラ紹介を加筆
7月17日 追放部分に一文だけ加筆
やっとの思いでたどり着いた場所は今まで通ってきた森の一部が一本の巨木を除いて切り開かれたちょっとした広場になっている場所だった。そこはまるで何も危険が存在していないかのように穏やかな空気で溢れ、奥に岩肌にぽっかりと大きく開いた穴とその傍に建てられた一軒の家と柵で囲まれた畑や放し飼いにされている家畜の姿から辺境に有るのが信じられないほどだった。
「あら? 珍しいですね。こんな森の中に人が来るなんて」
呆然としていた俺に掛けられた声に驚いて声の方を見てみるとさっきは気が付かなかったが畑から誰かが近寄ってくるのが見えた。
「見たところ、ここまで逃げてきた感じですし、疲れているようなんで良ければ家で少し休みませんか?」
肩まで伸びた金髪を後ろで束ね、森の中に住んでいるからか動きやすさを重視した服装を身に纏った女性の姿に自分の目を疑ってしまう。
見るからに荒事が得意のようには見えない体格に何故こんなところに住んでいるんだと混乱している俺を他所に家へ向かう彼女は俺がついて来ていない事に気が付くと振り返える。
どうやら彼女は怪しさが有るはずの俺を何も思わずに家に招いてくれるようだ。
「どうぞ、そこに座って待っててください。直ぐにお茶を用意しますから」
彼女に案内されて入った家の中、こじんまりとした中にも生活感のある室内に置かれていた椅子に座った。
少し奥に有るキッチンからお茶を用意してくれた彼女に俺は感謝を言いながらもそのお茶を口にする。
美味しいと呟いた俺にニコニコと笑いながらも何か思い出したような顔をした彼女。
「私はマリアンヌ・ダルカネットって言います。最も既に家から縁を切られた身ですけどね」
そう言った彼女の顔はそんな事を感じさせないほど幸せそうなものだった。
煌めくシャンデリアに綺麗に整えられた会場。
今日は卒業パーティーの日という事で綺麗に着飾った女子生徒たちとそれをエスコートする男子生徒たちが多くいる会場は賑やかに喜びが溢れていた。
「マリアンヌ・ダルカネット。今日、この場を持って第一王子で在るこの俺とお前との婚約を破棄する事を宣言する!」
突如として会場内に響き渡った声に全ての視線が声の主に集まる。
まるでその事を気が付いていない様で声の主のアーサー・ウェルモンは自信ありげに笑みを見せていて、その後ろにはアーサーに隠れるように一人の女子生徒が立っていた。
あまりにも突然の事にアーサーに呼び出されて目の前にいたマリアンヌは言われたことを理解できずにいたが、騒めく周りの様子に気を取り直す。
「あ、アーサー様、何を仰られているのですか?」
「ふん、理解できないか。お前みたいな悪女と婚約することなどできんと言っているんだ!」
「あ、悪女ですか……?」
思い当たる節すらない罵声に聞き返してしまった事が気に障ったのか、アーサーはその表情をさらに厳しくし、マリアンヌを睨みつける。
「誤魔化そうとしても無駄だ!既に全て知っている!!」
「誤魔化すもなにも何のことだか……」
「ならば言ってやろう!お前は身分を盾にここにいるマリネッタを苛めていただろう!!」
「マリネッタを……?」
マリアンヌは久しぶりに聞いたマリネッタの名前とアーサーの言葉に余計に何が何だか分からなくなってしまう。
そして、そんな彼女はようやくアーサーの後ろに隠れるようにしていた女子生徒がマリネッタだと気が付いた。
「あ、あのマリアンヌ様、信じたくは無いのですが……」
「あぁ、マリネッタ、本当に君は優しいんだね。それに比べてお前は……!!」
「アーサー様、本当に何のことを仰られているのですか?」
マリアンヌの言葉にアーサーの周りにいた者たちも黙っていられなくなったのか、険しい表情を見せマリアンヌに言葉を掛ける。
「姉様、そろそろ惚けるのは止めたらどうだい?」
そう告げたのは、アーサーの隣に立ち、嫌そうな顔を見せながら実の姉で在るマリアンヌに冷たい視線を向けるミリアルドだった。
そして、それに続くように同じ様にアーサーの傍にいた宰相の息子のカシアスがマリアンヌに向けて手に持っていた紙を見せつける。
「そうだ!他にもお前がマリネッタを危険な目に遭わせた証拠も在る!!」
「ですから私には何の事だか……」
「それでも誤魔化すつもりか!?」
その紙を見ても身に覚えのないマリアンヌだったが、その様子に騎士団長の息子のバルトは堪忍袋の緒が切れたのかマリアンヌを地に押さえつける。
「なっ、痛いっ」
「ふん、罪も認めぬお前が悪いのだ!」
「あ、アーサー様、あのやり過ぎでは……」
「あぁ、マリネッタ。気にする必要なんてないよ」
押さえつけられたマリアンヌの様子を気にしたマリネッタに優しい言葉をかけるアーサー。
周りにいたミリアルドたちもそんなアーサーと同じようにマリネッタに声を掛ける。
「くっ、はな、しなさいな」
「五月蠅い、さっさと罪を認めてマリネッタに謝れ!」
「です、から、私に、は身に覚え、の無い事です!」
押さえつけられたマリアンヌはその拘束から解かれようと身動きするが、騎士として鍛えているバルトの力の前では無駄な努力に終わる。
「まだ、そんなこと言うか!」
「アーサー様、私にお任せください」
未だに認めないマリアンヌの姿に怒りを思い出したアーサーだったが、直ぐにまるで自信ありげな表情を見せるミリアルドに声を掛けられた事で気がそがれたのか、ミリアルドを見て一つ頷いた。
「姉様、いやマリアンヌ・ダルカネット! ダルカネット家当主に変わり、ミリアルド・ダルカネットがお前のダルカネット家からの追放を宣言する!!」
「なっ、貴方になんの権限、いたっ」
あまりにもおかしな事を告げたミリアルドの姿に一瞬だけ身体を硬直させた後に直ぐにその事について問い詰めようとしたが、バルトに抑え込まれてそれは叶わなかった。
「おい、お前たち。早く姉様を外へ連れていけ!」
「いやっ、放して!」
「大人しくしろ」
マリアンヌの様子を見たミリアルドは壁際にいた騎士たちに指示を出す。
近寄ってくる騎士の姿に激しく抵抗するマリアンヌだったが、意味も無くそのまま引きずられながら徐々に出口に連れられる。
そして、そんなマリアンヌの耳に飛び込んでくる声が有った。
「ふふふ、無様なものね」
「ユリア様、そのような事を仰らなくても……」
「あら、そうかしら。でも、ちょっと面白くって……」
「まぁ、それは分かりますけど……」
声した方をマリアンヌが見ると口元に広げた扇を当てて口を隠しながら、見下した目で見てくるユリア・アメッサリナの姿が有った。そして、その周囲には前まではマリアンヌの傍にいた筈の令嬢の姿も有った。
無様な姿をさらし続けるマリアンヌを嘲笑いながら、背を向けてアーサーたちの方へと歩み寄っていく姿をマリアンヌは閉まっていく扉の隙間から見るのであった。
その後、マリアンヌは馬車に詰め込まれてダルカネット家に連れ帰られたが、そんな彼女を待っていたのは悲しい現実だった。
「ミリアルドからすべて聞いた」
「マリアンヌ、貴方はなんて事を……」
「さっさとこの家から出ていけ!」
執事に案内されてたどり着いた執務室。
待っていた両親の目は冷たく、既に昨日まで過ごした日々が嘘のようだった。
既に終わった事と言わんばかりに話す両親の姿にマリアンヌは何も言う気力すら失い、ただただ聞こえてくる言葉を聞き続ける。
そして、追放を告げた父親に従うように家人たちによって執務室から連れ出されたマリアンヌはそのまま門の外に放り出される。
徐々に閉まっていく門をただ茫然と見ていたマリアンヌだったが、直ぐに俯きながらその場を立ち去った。そんなマリアンヌの姿を悔しそうに固く唇を噛みしめながら見ていた視線が有った事に気が付かずに。
そこからは大変だったのよという彼女の表情は当時の事を思い出しているようだった。
なんでも追い出された後はその見た目から絡まれる事が多く、直ぐに着ていた物を売り払う代わりに平民が着ている服とフード付きのマントを購入して冒険者ギルドに登録、本来は依頼を受けるべきだった所を無理して残ったお金で相乗りの旅馬車に乗って街を出たらしい。
その後は辿り着いた先の街でギルドで街内のお使いクエストとかをこなしながら過ごしていたらしいが、何か自分の後をつける人間がいる事が分かって身の危険を感じてその街からも逃げ出したとか。
結局、そのままその後たどり着いた街でも暫くすると同じような事が有って追われるように街を転々としていたところ、この森に近い町で薬草探しの依頼中に暗殺者と思われる連中に襲われてこの森に逃げ込んだと……。
「あら、貴方はたぶん似たような噂を聞いたことが有るのでは?」
どうやら彼女は何かしらの伝手が有ってこの森の外の事も知っているらしい。
確かに元ダルカネット家の令嬢らしき人物が襲われてこの森で命を絶ったって噂が有った事は事実だった。
最初に俺が聞いた時はそんな馬鹿なと思ってしまったが、貴族社会には問題児の突然の病死などはよくある事だった事から今回もお家が将来の面倒事を嫌って手を下したのだろうと言うのが俺を含めた大半の人の考えだった。
だからこそ、彼女に聞いてしまった。
「何故、生きているなら森から出ようとしないのか?」
彼女は一瞬だけ惚けたような表情を見せた後に笑い始めた。
聞いた俺としてはどうしてそんな反応をしたのかが分からずに混乱してしまうが、暫くすると笑い終わった彼女は俺を見ていった。
「おかしな事を言いますね、私は暗殺者に襲われてこの森に逃げ込みました。そして、その事で既に死んだ事になっています」
折角、死んだと思われていてもう襲われる事も無いならその方が安全でしょと告げた彼女の顔は心の底からそんな事を思っているようだった。
ただ、それでもここで生きていくのは大変じゃないのかとか昔の方が幸せだったんじゃないのかと考えていたのが顔に出てしまったようで彼女は俺を諭すように言う。
「でも、そんな事は今となってはどうでも良いんです。昔よりも今の方が充実した生活が出来てますし」
今の状況に納得しているように話す彼女にもう一つ聞きたい事が俺には有った。
彼女が悪女と言われ、家からも見放された原因となった事について実は冤罪だったというのが分かった事でダルカネット家は彼女の行方を捜している。
勿論、彼女が死んだという噂はダルカネット家も知ってはいたが、最近になってこの森の傍に造られた開拓村に彼女に似た人物が薬草を売りに来るという噂が出てきたからだ。
「えっ、家に戻る気はないのかって……、まぁ、もし戻れるとしても戻る気は無いですよ」
流石にまだ似たような事を聞かれるとは思っていなかったようで驚いた顔を見せた彼女はそう言って満面の笑みを見せながら続ける。
「貴方も知っているかもしれませんが、私は両親からも見捨てられた事を知っていますし、今更、謝られたりしても嬉しくも無いですから」
それにと続けた彼女の表情は幸せに溢れたものだった。
合わせるように後ろの方で扉が開いたような音がしたので振り返ってみると黒髪の整った顔の男が扉を開けながら室内に入ってくるところだった。
何となく二人の関係が分かった俺はなんかここにはいては行けないような気持ちになってしまう。
続いて入ってくる同じ様な黒髪の女性と侍女姿の女性がいる事から少し気になるが全員が見せる笑顔から彼女が幸せなのはわかった。
だからこそ、俺は彼女にダルカネット家に、国に戻ってほしいとは言えなくなってしまった。
「以上が報告になります」
「そうか……」
そういうと旦那様は目を閉じて何か深く考えているようだった。
だからこそ、つい俺は言ってしまった。
「申し訳ありません。私があの時、お嬢様が襲撃された時に守り切れていれば……、それに」
「構わぬ。あの時、お前たちに命じていたのは監視のみ。何よりその後も捜索するように言わなかった私の責任だ」
本来ならば失態を犯した俺はあの時に処分されてもおかしくなかった。それなのに今もなお俺の行動には問題が無いと言ってくれる旦那様に俺は本当にこの方にお仕え出来て良かったと思う。
あの時の事は未だに俺自身が納得出来る行動を取れていたとは思えなかった。いや、それどころか放逐されてもおかしくない失態だった。それでも旦那様は俺を信じて今回のお嬢様の捜索を命じられた。
だから、どうにかして旦那様の為に見つけ出そうと思っていたし、実際に見つ出す事も出来た。
既にお嬢様を陥れたアメッサリナ家を含む貴族たちは消え、お嬢様の汚名は返上されたからこそお嬢様にはお家に戻っていただきたかったが……。
「……、下がってよい」
「はっ」
旦那様の言葉に俺は頭を下げ、部屋を後にした。
最後に見えた旦那様の表情に思うところが有ったが、お嬢様を連れ戻さなかった事に俺は後悔なんかしていない。
そう思いながら、俺は仕事に戻るのだった。
キャラ紹介
マリアンヌ・ダルカネット
ダンジョンの有る王国の元公爵令嬢。
冤罪で婚約者で有った王子から婚約破棄され、家からも追放される。
何とか街を彷徨いながらも必死に生きていた所、ダンジョンの近くまで来たところで暗殺者と思われる存在に襲われて森に逃げ込んみ、そのままそこで過ごした。
アーサー・ウェルモン
マリアンヌの元婚約者。王国の第一王子。
正義感が強く、思い込んだら一直線な性格でマリネッタを妃にするもその後は苦難の日々を過ごす事になる。
後の学者たちからは苦難王と言われるほど、国内外で数々の厄介な問題と直面する。
しかし、同時にその全てを乗り越えた手腕は歴代の王の中でも有数のものだったが、正妃となったマリネッタとの間に儲けた子は全て女児で有った為、側妃との間に生まれた男児が王位を継ぐ事になった。
マリネッタ・ヴェスプレシ
男爵令嬢。学園に通っていた時にマリアンヌやアーサーたちと知り合う。
マリアンヌに色々と教わっていたが、途中からアーサーと仲良くなったことでマリアンヌのライバルだったユリアにマリアンヌから虐められたように工作された上で虐められる。
マリアンヌとアーサーの婚約破棄後は王宮にて王妃教育を受けていてアーサーと満足に会えない日々が続いた。
後にマリアンヌが冤罪だったと知ると以前のような仲に戻りたいと思うもそれは叶う事が無かった。
また、アーサー王との間には女児は生まれるも男児が生まれる事は無かった。
ミリアルド・ダルカネット
マリアンヌの実の弟。優秀な姉に劣等感を感じていた時にマリネッタと出会い、惚れて取り巻きの一人に成り下がる。
マリアンヌの追放を断りもなく決めた事で公爵だった父親に咎められ、領地での謹慎と跡取りとしての仕事を言い渡されるが、気晴らしに出た遠乗り先で襲われ重傷を負って以降は寝たきりの生活となる。
マリアンヌの冤罪が発覚した際にその事も裏でアメッサリナ家が手を回していた事が分かるが、マリアンヌの件と怪我の事を理由に廃嫡、ダルカネット家から追放こそ無かったが領地の端に建てられた別荘で蟄居する事になった。
晩年は蟄居後に始めた絵描きにのめり込み、かなりの数の作品を描くが評価されたのは死後かなりの時が経ってからだった。
バルト・ディファルト
騎士団長の息子。騎士を志すが現実との狭間で悩んでいた時にマリネッタと出会い、惚れて取り巻きの一人に成り下がる。
騎士団に所属して親衛隊に配属されるが、その後にマリアンヌの冤罪が発覚して廃嫡、家からも追い出されて平民になる。
本来は騎士団からも追放される筈だったが、その能力と国内情勢から騎士団の中でも過酷な国境警備と遠征を担当する国境警備隊に異動となり、国内外問わず戦い続ける事になる。
晩年はその功績から国境警備隊からの異動の話も出たが、それを断って国境警備隊の一兵として過ごす事を選んだ。
カシアス・エルクリント
宰相の息子。他人をそこまで信用できずに苦しんでいる時にマリネッタと出会い、惚れて取り巻きの一人に成り下がる。
宰相付きの文官になったが、マリアンヌの冤罪が発覚して廃嫡、家からも追い出されて平民になる。
国外追放や処刑するのを悩む程度には能力も国内情報も持っていた為、王城内での飼い殺しとなり、一人だけの資料整理しか仕事の無い部署を作り、そこで働く事が決定される。
晩年は何とか普通に文官としての仕事を割り振られるようになるが、要職に就くことは出来なかった。
ユリア・アメッサリナ
侯爵令嬢。マリアンヌを嵌めた人物。
アーサーの事が好きでマリアンヌと共に婚約者候補に挙げられるもその性格や侯爵家に付きまとう黒い噂のせいで婚約者に選ばれなかった。
自己中心的な考えと傲慢さを持ち合わせ、侯爵家の権力を使って過ごし、後にその行いがバレて一族全員が処刑、アメッサリナ家は滅ぶ。