第一話 これが騎士学園最強のドン・キホーテ
リメイクしました。
キャラが一新されて、地の文を一人称に変えました。
桜の舞い散る校舎から、皆さんいかがお過ごしでしょうか。
僕の名前は千宮直樹。千の宮と書いて千宮。珍しい名字ではあるんだけど、宮とは神社とか神宮を意味するらしくて、そりゃ日本には千も万も神社なんてあるだろうと考えると何も可笑しな名前ではないのかもしれない。そうなると、直樹の樹は何の樹、気になる樹ではなく、境内のご神木を意味するのかもしれないね。
「つまり僕は神を愛し、神に愛される名前を持つ男というわけだ」
「人には愛されないのに大層な自信だな」
「むむ、失敬な。当然皆にも愛されてるに決まってるじゃないか」
「何を根拠にそんな戯言を言うのか」
呆れた様子を見せる彼女は紅葉千秋。もみじではなくあかばと読むらしい。僕と同じ千の文字を名前に持っているけれど、そこに親近感を抱いたら気持ち悪いからやめろと言われた。
長く伸びる綺麗な髪をゴムで縛った彼女のポニーテールは鮮やかな黄金色をしている。母親がハーフで彼女はクォーターなんだって。
きりっとした鋭い眼つきでこっちを睨み、何とも僕に辛辣な彼女だけど、こういうのは愛情の裏返しであることを僕は知っているので僕は彼女を千ちゃんと呼んでいる。
「千ちゃん、忘れたのかい?」
「その呼び方を止めろと何度言えば分かる」
「それこそ千回かな?」
「千回言えば分かる頭なのか、お前は」
「ゲシュタルトって甘そうな響きだよね」
「言うだけ無駄だということが分かったよ」
千ちゃんは真面目でお堅い性格なので、僕のちゃらんぽらん、もとい柔軟な思考をあまり好ましく思ってないみたいだ。
「それで、私が何を忘れてると?」
「ああ、そうだった。千ちゃんは僕が愛されていないというけどね、僕はこの学園で確かな支持を集めているんだよ。その証拠が、僕の生徒会長という肩書なのだ!」
そう。今この場所こそが僕の愛され根拠になり得る生徒会室であり、そこを根城とする子の僕こそが、この学園の生徒の中で頂点に選ばれた会長と言う存在なのである。
「どうさ。これでも反論できるんですか?」
「普通の学園なら支持されている根拠になるだろうな」
けれど、千ちゃんは認めようとしない。なぜならこの学園が普通ではないから。
「ここが、力によって順位付けられる騎士学園ではなかったらな」
「もー、なんでそんな水差すようなこと言うかなぁ」
「事実だろう」
ま、その通りで、この学園は騎士を育成するために新しく作られた学園なわけで、そこの生徒代表を決めるのにどうして多数決とか選挙とかが必要なのかという話で会長選もとい会長戦によって、僕はこの学園の頂点に居るわけなのである。
「でもさ。曲がりなりにもこの学園の最強さんだよ? それがどうしてこうも邪険にあしらわれるのかねえ?」
「自分の胸に手を当ててよく考えてみろ」
「それ、僕の胸じゃないとダメ? 千ちゃんの胸の方が適任だと思うんだけど」
「そう言う所だぞ」
はて? そう言う所とはどういうところだろうか。自分の胸に手を当ててみても柔らかくもない硬い胸板があるだけであんまり気持ちよくない。とはいえ、僕が邪険にあしらわれる理由か。
「うーん、思い当たる節が多すぎて、千ちゃんがどれを言っているのか分からない」
「思い当たる程度の常識は持ち合わせていたのか」
「ああ、分かった。千ちゃん、あまり胸が大きくないからそこにコンプレックスを……」
「死にたいのか?」
「いや、でも千ちゃんの胸は形が綺麗だからね! 全然気にするところじゃないよね!」
「それがフォローのつもりなら私はお前を殺すが?」
「オーケー、話し合おう。話せば話すほど墓穴を掘っていくと思うけど」
「お前の墓に丁度いいじゃないか」
「思い留まって! 僕みたいな奴のために人生台無しにするのは勿体ないよ!」
「自分で言ってて悲しくはないのか」
千ちゃんがため息を吐いたのでこの話し合いは決着ですね。去年から毎日のように続く舌戦は毎回千ちゃんの諦めによって幕を閉じるんだよね。その合図がこの心底呆れた表情から吐きだされるため息というわけです。
「しかし、今年も新入生は多いね」
「年々志願者は増えているそうだからな。それも女子の」
「女の子かぁ」
窓から見える校門をくぐる赤と白を基調とした制服。その半数がスカートを履いている。
「意外だな」
「え?」
「女子が増えているというのに喜ばないのか?」
「え、いや、内心めっちゃ喜んでるけど、表に出さないだけだよ?」
「なんだ、自制できたのか」
「僕をなんだと思ってるのさ」
「盛りのついた猿か、少なくとも蛮人以下だな」
「なんだ、一応人か」
「それで納得できるお気楽さだけは褒めてやろう」
お、珍しくデレが来た。ツンデレの黄金比は9:1だと偉い人が昔言っていたけど、千ちゃんのツンデレはまさにそれに合致する比率だね。いつも辛辣で、時折見せる褒めてるかも分からないようなデレが来る。うん、大丈夫。まだ現実からは目を背けられる。
「それで、今日の挨拶は考えているんだろうな」
「もちろんさ。今日は初めて新入生が出席する記念すべき日なんだから、それはもう綿密に寝る前に布団の中で考えてきたさ!」
「そうか。ま、期待しないでおこう」
「ええ、酷くない?」
「ほら、そろそろ式が始まる。移動するぞ」
「あ、待ってよ、千ちゃん!」
そうして僕らは生徒会室を後にする。廊下に出ると同じように同級生の女子たちも体育館に移動しようとしていた。
「あ、紅葉様。おはようございます!」
「「おはようございます!」」
「ああ、おはよう」
うん、今日も千ちゃん人気はゆるぎないね。会長戦の時も千ちゃんが出た試合の歓声は物凄かったからね。黄色い声っていうのはああいうのをいうんだろう。
けど、千ちゃんはクールだからそんな彼女たちの熱視線も軽く受け流し、足早に去っていく。そうしてあしらわれるところまで含めて、千ちゃんの魅力として人気になってるみたいだ。
「紅葉さん、今日も凛々しくてカッコいいですわ」
「分かる」
「あの素っ気ない感じも堪らない」
「分かる分かる」
「まさに、騎士って感じだよね」
「然り然り」
「って、あんたは!」
同調してたらどうやら女の子たちが僕の存在に気が付いたみたいだ。そして、気づいた瞬間すごく嫌そうな顔をするのは何故だろうか。
「やあ、皆おはよう! 今日も可愛いね!」
「うわ、朝から最悪」
「なんでこっちが会長になるかなぁ」
「キモイから近づかないでよ」
挨拶したら罵倒が返ってきた。どこで千ちゃんと差が付いてしまったんだろうか。なんだか会長になってからいっそう疎まれてるような気がするんだよね。
「あんた、自分がなんて呼ばれてるか知ってる?」
「ドン・キホーテでしょ。もちろん知ってるよ」
「だったら、私たちが言いたいこと、分かるでしょ?」
鋭い眼つきで睨まれる。うん、これは明らかな敵意だね。
「会長に相応しくないのよ、あんたみたいな勘違い騎士は」
「酷いなぁ。勘違いでも千ちゃんに勝ったのは僕だよ?」
「っ! あれはあんたがっ!」
「何をしている」
「あ、千ちゃん」
「紅葉様⁉」
声を荒げていた女の子は千ちゃんの登場に戸惑った表情を浮かべていた。
「戻ってきたの?」
「お前が付いてこないからだろう。ほら、急げ。会長が遅れるなんて、示しがつかないだろう」
「もうすでに示しなんてついてないけどね」
「分かっているならどうにかしろ」
そう言われてもどうにもできないのがこの問題の厄介な所でして、解決するにはまず僕が会長の座を千ちゃんに譲らなければいけないという本末転倒な話になってしまうのだ!
「ほら、行くぞ」
「はーい」
「あ、あのっ!」
そうして僕らが歩き出そうとすると、さっきの女の子が呼び止める。
「なに?」
「お、お前じゃない!」
「あ、やっぱり?」
だよね。文字通り僕なんてお呼びじゃないんだろうね。
「なら、私か」
「私、会長に相応しいのは紅葉様だと思うんです!」
その言葉に千ちゃんはピクリと眉をひそめた。あ、これは禁句のパターンだよ。絶対そうだ。口ではなんだかんだ言いながら実は僕を認めてるパターンのデレだよ、間違いないね。
「私もそう思う」
「えぇ」
「何を驚いている。いつも言っているだろう」
「まあ、そうなんだけどね」
それでも期待しちゃうのが乙女心じゃないですか。ああ、いや、僕は男なんだけどね。
「だが、君に一つだけ言っておこう」
「は、はい!」
「私より、こいつは強い」
「……えっ?」
「それだけで、こいつはこの学園の会長に相応しい」
おっと。
「まさか、本当にデレが来るとは思わなかったよ」
「無駄口を叩くな。行くぞ」
「はーい」
千ちゃんはそれ以上言うことはないみたいで、女の子たちに背を向けて再び体育館へと繋がる渡り廊下へと歩いていく。
「あ、じゃあね。君たちも式に遅れないようにね」
うわ、苦虫を噛み潰したような顔をしてる。そりゃそうか。尊敬してる人に否定されたんだもんね。しかし、ここで傷心の彼女を慰めてあげれば、僕の株が上がるのでは?
よし、そうと決まれば実行あるのみなのである。
「そんなに気を落とさないでね。どんまい、そういう日もあるよ!」
「あ、あんたのせいでしょう!」
うわ、怖い。
「お、怒る元気があるなら大丈夫だね。それじゃ、アディオス!」
「むかつく!」
そんな怒号を背中に受けながら僕は千ちゃんの後を追いかけた。あれ、おかしいな。どうして怒られたんだろう。確かに慰めたはずなのに?
と思ったけど、初期好感度がマイナスの僕が何しても負の方向に振れちゃうのかもしれない。ほら、イケメンが捨て猫を拾ったら優しいなって思うだろうけど、小汚い人が拾ってたら食用かなって印象が変わるもんね。
「いや、それは極端すぎるか」
「何を独り言を呟いている。気持ち悪い」
「気持ち悪いって、酷いなあ」
そういうわけで千ちゃん含む、女子生徒から見える僕の姿は何をしていてもマイナスの印象にしかならないんだろう。僕が優しくしても、僕が良いことをしても、僕が勝っても、彼女たちにしたら虫唾が走るほど不愉快なことに見えるんだろう。何をしても好かれることはない。それは、僕にとってこの上ないほどに……好都合なことなんだ。
校舎二階の渡り廊下から繋がる体育館に付くと、在校生と新入生でそれなりに大きな空間が一杯一杯になっていた。今年の新入生は120人くらいだったみたい。名前の順に並んでいるから凸凹と頭が出たり引っ込んだり、まるで防波堤の藤壺のようだ。あれ、僕嫌いなんだよね。生理的嫌悪感で背中がぞわっとするよ。
そんな藤壺、もとい新入生の頭を見ていると、その男女比が大体わかる。
「2対3ってところかな」
「そうだな。お前を嫌う人間の数は48人というわけだ」
「違いますー。まだ嫌われてると確定したわけじゃありませんー」
これから嫌われていくんですーって、自分で言って悲しくないのが僕の長所です。客観的に自分を見ることができる。まさに生徒会長に必要なスキルではないだろうか。なお、それを有効活用するとは言ってない。
そんなこんなで僕らは体育館の横に並べられた教員用の椅子に腰掛ける。生徒会の役員全員がこうして教師と並んで式典に参加するわけじゃないけど、僕と千ちゃんだけは特別にこの席が用意されている。まあ、会長と副会長という学園のツートップだからね。
「制服が赤と白だからこうして並ぶと縁起いいね」
「知るか」
「え、辛辣。でも、そこに愛があることを僕は知っている」
「微塵もないから黙っていろ。式典が始まるぞ」
「あっ、はい」
千ちゃんが怖い顔で睨んでくるから膝の上に手を乗せて姿勢を正した。前の方で司会者がマイクのスイッチを入れると体育館のスピーカーがノイズを鳴らし始める。生活指導の田中の声で始業式の開始が宣言されると、学園長が壇上に上がっていく。
「皆さん、ご入学おめでとうございます。ここヴァルハラ学園は近年増えるテロリストと戦うべく設立された騎士団の団員を育成すべく……」
とまあ、そんな始まり方をした学園長のありがたーくもつまらない話を聞き流しながら僕はこの次に用意されている生徒会長の挨拶で何を話すかを考えていた。事前に考えておくべきだというもっともな指摘をさらりとかわし、全能細胞を動員してそれっぽい文章を構築していく。
「えーと、入学おめでとうございますは言わないといけないよね。あと、これからの学園生活での気構えとかを……」
「学園長ありがとうございました。続いて、生徒会長、千宮直樹くんからの挨拶です」
「え、もう?」
やべえ、何も決まってないんだけど呼ばれちゃったら行くしかないよね。
「行くか……」
「恥をかかぬようにな」
「まあ、大丈夫でしょう」
「その自信はどこからくるのか」
千ちゃんの呆れ顔を横目に壇上へと向かう。少し高い位置から見ると、新入生たちの顔がしっかり見えるようになって柄にもなく少し緊張してしまう。第一印象は大切だ。ここで間違えると挽回することは難しいからね。
「ええ、とりあえず皆さん、ご入学おめでとうございます。まあ、皆さんはまだ入っただけで騎士になったわけじゃないのでめでたいかは疑問ですけどね」
よし、予定していたおめでとうございますは言えたぞ。けど、なんでこんなにざわついているんだろう? なんて、少し白々しいかな。
「騎士を目指すということで、一つありがたい戒律が中世にはあったみたいですよ。騎士に必要な物は勇気とか忠誠とか信念とか、まあ現代では必要なさそうな思想ばかりですね」
チラリと教員たちの方に視線をやると、女の子がしてはいけない類の形相で千ちゃんが睨みつけていた。うわ、これは後ですごく怒られそうだ。新入生の方もなんだか僕を怪訝そうな顔で見てるし、これ以上の失言をする前に挨拶は終わったほうが良いかもね。
「まあでも、その中でも一つだけ、僕は今の時代にも合う大事な大事な教えがあります。それは、騎士は誰よりも、何よりも強くあるべきだということです。テロリストと戦う勇気も災害救助を行う信念も口で言うだけなら容易いけどね、それを実行するのは己の確かな強さだということみたいです」
僕は言い切る。騎士に必要な物は勇気、高潔、忠誠、寛大、信念、礼儀、親切、崇高、統率力のいずれでもない。十戎の中で唯一僕が必要だと思うのは戦闘能力、一点のみだ。
「そういう意味では僕は最も騎士らしい騎士です。僕を目指して、何物にも屈しない強さをこの学園生活で身に付けていって下さいね。以上、学園最強のドン・キホーテからでした」
一礼するも拍手は起こらなかった。新入生は呆気にとられ、在校生は敵意を見せ、教員は眉をひそめていた。まあ、褒められるような挨拶をした覚えはないし、この扱いに不満はないけどね。
そうして僕が壇上から下りようとした時、どこからか一人分の拍手が聞こえてきた。え、今の挨拶に拍手する子がいるのか、と驚いて音の鳴る方を見てみる。いったいどんな子が僕に同調したのだろうか。きっとろくでもないやるだろうね。
そう思っていたのに、ただ一人拍手を送っていたのは最前列で僕を見上げていた背丈の小さな女の子であった。キラキラと大きな瞳を輝かせて、前に垂らした栗色の長い髪を揺らしながら手を叩く少女は周りから自分が浮いていることも気にせずにただ僕を見つめていた。
その眩しすぎる少女の姿勢に正直僕は引いていた。いや、さっきの挨拶のどこに拍手する要素があったのか疑問でしかないんだけど。どこか抜けてるのかな? なんにしてもあの子は要注意人物だね。
そうして僕は彼女から目を逸らし、鋭い眼光に射抜かれながら千ちゃんの隣に戻っていく。極力、千ちゃんの方を見ないようにして耐えてたけど、物凄い千ちゃんの圧に式典が終わる頃には僕のインナーは冷汗でびちゃびちゃになっていた。凄い不快感だよ……。




