エピローグ 後編
窓の外に見えるのはいつもの喧騒。人々が忙しなく行きかう駅前の通りは休日ということもあり、楽し気に談笑しながら歩く人々で満たされていた。
「合宿所を襲った爆発テロの犯行は従業員である辻の単独行動であると断定。計画はだいぶ前からされてたみたいだね。建物の隅々まで爆弾が仕込まれてたみたいだよ」
「それで合宿所は全壊か。随分と執念深い奴だったんだな」
「そうみたいだね。一途に想われて、羨ましいね」
「そんなわけないだろう」
そう言って直樹はコーヒーカップを傾ける。
「師匠、このパフェ美味しいですよ!」
「そうか」
「師匠もどうですか? ほら、あーんしてください、あーんって」
「こうか」
そうして求められるままに直樹は口を開ける。そうすれば、冬華は嬉しそうに自分の手元にあるパフェをスプーンで掬い、彼の口元へと運ぶ。
「どうですか?」
「ああ、うまいな」
「ですよね!」
そんな二人の様子を眺め、秋はにやにやと笑みを浮かべる。
「報告中なんだけどなー」
「はうあっ! す、すいません、紅葉さん」
「いやいや、冬華ちゃんは良いよ。私はそこの頬を緩ませた会長様に言ってるからね」
「そんなことはないだろう」
とは言うものの、確かに直樹は口元に少し笑みを浮かべており、隠そうとはしているものの、秋の指摘の通り内心では冬華とのやり取りを楽しいと感じていた。
「あーあ、折角会長様に代わって騎士団本部への報告書とか書いてあげたのに、肝心の会長様は彼女さんとお楽しみですか」
「仕方がないだろう。火傷でペンが握れなかったんだ。感謝はしている」
「別にいいですけどねー。あ、すいません、コーヒーのおかわりください」
店員に追加の注文を頼み、秋は手元のパフェを頬張った。
「んー、やっぱりおいしいね。ここのジャンボパフェ」
「奢るとは言ったが、まさかそれを頼むとは思わなかったな」
「すごい大きさでしたね」
それは冬華の前にあるパフェとは比べ物にならない大きさの器であった。あまりの大きさに、食べ始める頃には対面する秋の顔が直樹や冬華からは見えない程のアイスとクリームの量であったのだ。
それが、今やどんぶりのようなガラスの器の底が見え始めているのだから、直樹は秋の胃袋がどうなっているのか、若干の興味を抱いた。
「それで」
「ん、何がかな?」
「報告の続きだ。肝心なところをまだ聞いていないぞ」
口元に付いたクリームをふき取り、完食した秋は再び話し始めた。
「結局、全壊した施設の片付けがまだ終わっていないから、現段階ではって話なんだけど、辻の遺体がまだ見つかっていないんだよね」
「そうか」
「まあ、報告通りだとすれば逃げられるとも思えないから、本部の方では死んでいるだろうって考えてるみたいだけどね」
そんな話の横で、冬華は美味しそうにパフェを食べる。満面の笑みを浮かべながら味わう彼女の方を二人はどうにも気になって視線を向けてしまう。
そんな彼らの視線を感じ取り、冬華はハッと戸惑った様子を見せた。
「ど、どうかしましたか?」
「いやー、美味しそうに食べるなーって思ってね。ついつい冬華ちゃんの方を見ちゃうんだよね」
「えへへ。楽しみにしてましたからね」
そう言って笑う冬華。この笑顔を彼は守ったのだ
「まあ、だからあの事件は解決したと上は判断したみたい」
「だが、大変なのはこれからだな」
「そうなんですか?」
直樹の言葉に冬華は首を傾げた。
「ああ、世間ではこの事件を騎士科の学生を狙ったテロだと報道されている」
「実際は、会長様個人に対するテロだったわけだけど、そんな風に見る人はいないからね」
「テロリストの狙いは騎士科。そう報道されて、学生たちは不安がっているようだ」
「あっ! だから、休んでる人が多いんですね」
冬華は合宿後のクラスに空席が多かったことを思い出し、納得する。
「そうだ。だから、俺たち騎士の行いが今まで以上に重要になる。皆を安心させるように、模範となる騎士が必要になってきている」
そう言った直樹が冬華を見つめるのだから、冬華はどうしたのかと首を傾げた。
「期待している、と言ったら、お前はやり辛いか?」
「はっ! そんなことないですよ、師匠!」
冬華はその視線の意味を理解し、声を上げた。
「私は師匠の弟子なんですから。期待してくれるなら嬉しいですし、応えたいと思いますよ!」
「ふっ。そうか。なら、言わせてもらう」
「はいっ!」
元気の良い返事に直樹も秋も笑みを浮かべた。
「これからの騎士学園を担う、お前の目指す立派な騎士になることを期待しているぞ」
「はいっ! その期待に応える様に頑張りますよ、この私は!」
彼女は歩み始めた。騎士学園に入学し、最強の騎士に弟子入りし、初めての敗北を知り、初めての勝利を知った。歩み始めた騎士への道は平坦ではなく、時に焔に、時に刃に阻まれる。それでもなお、彼女はその歩みを止めない。遠く、この道の遥か先に見えるだろう彼の背中に追いつくために日々一歩を踏みしめる。
いつか立派な騎士になれると信じて、彼女の騎士道は始まったばかりなのであった。
終わりです
キャラの個性が弱いのと、外連味が足りないという批評を受けたので、またキャラと展開を練り直して書き直したいと思います
ドン・キホーテという設定をもっと押し出していくべきだと今更感じています
最後まで読んでいただきありがとうございました




