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騎士学園のドン・キホーテ  作者: かきな
オリジナル
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第八話 交わる剣と、 前編


 午前中の基礎練習は昨日の行ったロングソードの振り方の復習が主だったメニューであった。一キロ程度とはいえ、それをただ持つだけでなく振るい、その動きを制御するにはそれ相応の筋力を使う。昼食を食べるころには男女問わずその顔に疲労が見える様になっていた。


 そうして昼食後、少しの休憩を挟んだ後に皆広場へと集められる。この合宿での最後の訓練メニュー、模擬戦が始まるのだ。


「では、これより模擬戦を行っていく」


 既に広場の入り口で訓練用のロングソードを受け取った新入生たちが整列する中、直樹は彼らの前に立ち説明を始めた。


「一対一で行う。訓練用のロングソードを使うが、安全装置が付いているとはいえ本気で斬れば怪我はする。有効打になりそうな時は寸止めを心掛けろ」


 そう注意をした後に、直樹は横に立っていた秋と対峙し、剣を構えた。


「模擬戦のルールは単純だ。ロングソードの刃を相手の体に当てればいい」


 そう言いながら直樹は踏み込みながら秋の肩口に向けて振り下ろし、それを寸でのところで静止させた。


「有効かどうかは審判の俺が判断する。制限時間は5分だ。時間内に決着が付かない場合は引き分けとする」


 直樹がロングソードを鞘に戻すと、秋は少し不満そうな目で彼を見る。


「これ、私必要だった?」


「……愚痴は後で聞く」


 そう小声で返すと、再び直樹は新入生たちの方に向き直る。


「それと、この模擬戦は勝つことが目的ではない。この二日でどれだけロングソードを扱えるようになったかを見る試合だ。故に目や鼻といった急所への攻撃、および突きは禁止。危険だと判断した場合は俺が止めに入る」


 彼がそこまでの説明を終える頃には他の教員たちによって広場に四角い試合場が描かれていた。


「後ろに見える白線内で試合をしてもらう。試合順は、そうだな……」


 そうして思案する素振りを見せる直樹であったが、実際は考える余地など彼の中には存在していない。


「伊吹冬華」


「はいっ!」


 名前を呼ばれ冬華は大きな声で返事をする。その気合の籠った声に他の新入生たちは驚いた様子を見せていたが、直樹だけはその声に頷きを返す。


「相手は、遥上春瀬」


「はい」


 それとは対照的に遥上の声は落ち着いていた。けれど、それは取り繕った平静であり、内に秘めた闘志は冬華に勝るとも劣らない。冬華が直樹の弟子に相応しくないと皆に知らしめるためには、この模擬戦という場はこれ以上ないほどに都合の良いものだったのだ。


「名前を呼ばれた両者は白線の中に、それ以外は白線の周りで見学だ」


 他の新入生たちに囲まれながら、冬華と遥上の両者は試合場内で対峙する。中央に歩み寄ると、気合の入った冬華の瞳が遥上を射抜く。


「あら、貴女、まだそんな顔ができるのですわね」


 その瞳を正面で受け止め、遥上はどこかおかしそうに口元に笑みを浮かべる。昨日、冬華のプライドを確かに打ち砕いたつもりだった彼女であった。


 しかし、今対峙してみればどうだろうか。依然として堂々とした佇まい、自分に対する闘争心を宿した瞳でこちらを見据えてくる。


「私は確かに弱いです。師匠の弟子に自分が相応しいなんて、とてもじゃないですけど言えません」


「分かっているではないですか。そうですわ、貴女は会長様の弟子に相応しくない。それなら……」


「でもっ!」


 分かっているのなら弟子を辞めてしまえという遥上の言葉は冬華の強い逆説の言葉に遮られる。


「それでも私は師匠みたいな騎士になりたい。身の丈に合わないかもしれない、身の程知らずの夢にしがみ付いていたい」


「っ!」


 その剣幕に圧されてか、遥上は僅かにたじろぐ。


「だから、負けたくない。誰にも、私の夢を否定されたくない!」


「両者、剣を構えろ」


 審判として試合場の中に立つ直樹の声に、二人は手に持つ剣の切っ先を相手の眉間に向け、構える。


「私は、あなたに負けたくない!」


「始めっ!」


 その号令に促され飛び出したのは冬華ではなく、遥上であった。


「先手必勝ですわよ!」


 驚くべきはその初動の早さ。号令を聞くや否や、冬華が気付いた頃には遥上は振り上げた剣を今まさに彼女の脳天に振り下ろさんとしていた。


「はうあっ!」


 けれど、最初に設けられていた両者の間の距離が彼女の対応を間に合わせる。しっかりと両手に力を込め、遥上の振り下ろしを受け止める。


「へえ、今度は受け止めるのですわね」


 どこか感心した様子を見せる遥上とは対照的に、冬華は少し焦った様子を見せる。


「(は、早すぎますよ、これは!)」


 そう、実戦の中で見る遥上の振りは、昨日の静止状態からの振りとは比べ物にならない程、冬華の目には早く感じられるのだった。それもそのはずである。実戦の中では距離を詰める動作の中で既に振り下ろす体勢に移行しており、更にその振りには距離を詰めた勢いがそのまま乗るのだから、冬華の想像よりも体感速度は早いものになるのだ。


「まだまだ行きますわよ!」


 受け止められた剣を遥上は体の右側に引き戻す。そうしたかと思えば、すぐさま体を捻り、その剣は冬華のわき腹を捉えんと薙ぎ払われる。


「わわっ!」


 それに遅れて反応すれば、しっかりと勢いの付いた横薙ぎを受け止めようにも踏ん張り切れない彼女の体はバランスを崩す。ふらふらと横に二、三歩よろめけば、視界の端には既に回り込みロングソードを構える遥上の姿があった。


「はぁっ!」


「わ、私だって!」


 振り下ろされる遥上の剣に、冬華はふらついた勢いのままに剣を合わせる。安全装置のぶつかり合う鈍い音が響き、二人の剣は弾き合う。弾かれた遥上の剣は冬華の脇を通り過ぎ、地面に傷をつける。


「くっ、軌道をずらされましたわね」


 遥上が再び剣を構える前に、冬華は慌てて彼女から距離を取る。ギリギリのせめぎ合いで早まる鼓動に冬華は息を荒くしていた。


「(そうです、苦しい時こそ深くゆっくり呼吸をしなくちゃ)」


 遥上を見据えながら、冬華は直樹の言葉を思い出し、深く息を吸い込む。そうして落ち着きを取り戻すと、冬華は現状を把握すべく思考を巡らす。


「(遥上さんの強みは速さですね。反応速度と思考速度が速くて、一つの動作が終わってもすぐに次の動作へと入り始めている。守りに入ってしまえば、遥上さんのペースのままにやりたい放題されちゃいますよ、これは)」


 冬華は遥上の強みを的確に把握する。そう、しっかりと構えていれば受け止められない振りではないのだ。遥上は別段力が強い訳ではない。ただ、その動作一つ一つの速度が速いため、万全の状態になる前に切りかかっているため、受け止められないのだ。


「(だったら、私がすることは一つ。攻められる前に……)」


 取った距離を再び詰めるべく走り出す。一転して攻勢に出たかの様に見える冬華の動きに、遥上は落ち着いて構える。どんな攻撃が来ても対処できるように、彼女の動きに意識を集中させる。


 そうして両者の剣先が触れ合う距離にまで詰めると、冬華はそのまま剣を振るうことなく遥上の剣に自分の剣を合わせたのだった。


「なっ!」


「攻められる前に、膠着させる!」


 両者の剣が交わり、バインド状態になる。それは彼女が昨晩直樹から教わったロングソードの戦い方、その始まりの状態であった。


「ここからは私の番ですよ!」


 そう、ここから彼女の学園最強の弟子としての戦いが始まるのであった。


間に合いませんでした(ーヮー)

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