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証明

 

 グラスの肩を俺に預けさせて、立ち上がらせる。


「自分で立てるか?」


「うん……大丈夫、だと思う。」


 俺は、ゆっくりと預けさせていた肩を離していく。グラスは俺から離れた瞬間、倒れそうな体を膝でなんとか支える。二歩後ずさって雪道に足跡を残すと、なんとか完全に立ち上がることが出来た。


 体が疲弊しきっているようだ。それはグラスだけではなく、この場にいる全員がそうだった。



 エリサは、さぞ高価そうな服に着いた雪の粒を払っている。その鋭い顔に、疲労が明らかに現れていた。

 その隣には、ツェルがいた。二人は呟くように話し合っており、ここからではよく聞こえなかった。



 ツエルバ、エルダート、キュウイ、カボチャ三兄弟のやつらも、起き上がるなり怪訝そうな表情や困惑しているような表情を浮かべていた。

 その中の一人、キュウイが黒パーカー野郎に手を引かれて立ち上がる。二人は会話しているようだったが、声が小さいのか、やはり聞こえなかった。




 ……今、他人の会話を盗み聞く場合じゃなかったな。




 突き動かされるように、雪道に放り出されたピンクのパーカーに近づく。今俺が着ているパーカーと全くおなじパーカーだ。この世界にいた俺が、あのサヤカにやられてこうなったんだろう。


 そこに付着していた塵のようなものを払い、右ポケットに手を突っ込む。



 手に馴染む硬いものが当たった。



 探るようにしてそれを掴み、引っ張り出す。それは、ロケットだった。

 既に俺のポケットにあったものとそれを、目の前に持ってきて比較する。



 瓜二つだ。似ているどころではない。これは、もはや同じもの。


 この新事実をアリアに突きつける。そして、あの装置は記憶複製装置などではない事を証明しなければ。



 ……どうしようか。知らない振りをしていた方が、都合がいいだろうか?


 そこまで考えて、首を横に振る。


 だめだ。アリアには伝えなければ。……少なくとも、アリアの考えていた説は全く違うという事は言っておこう。



 結局のところ、あの装置は分からないことだらけだ。誰が、どのように、どんな目的で創られたのか、全く知られていないし、どういった目的で使用するのかさえ誰にも分からない。




 ただ一つ、これだけは言える。






 あれを使っても、ろくな事は起きない。







 手のひらに持ったロケットを見る。そこの蓋を開けると、写真が嵌っていた。


 病室のなか、仲睦まじく写る兄弟。見舞いに来ただろう兄も、病床に下半身を預けている弟も、こちらに向かってはにかんでいる。



 本当に優しくて明るかった。



 だが、悲劇的結末に延命治療を施したところで、事態は何も変わらなかった。






「イミラ。」


 突然、背後からその名前を呼ばれて我に返る。両手に握ったロケットを両ポケットに突っ込みながら振り返ると、エリサとツェルがいた。声の主はツェルだった。


「アリアと咲夜歌が見当たりません。何か、心当たりは?」


「……いや俺に言われてもな。」


 辺りを見回してみると、確かにアリアも咲夜歌もいない。特に咲夜歌は黒い服を着ているはずだから、一目見ればそいつだと確定できるのだが。


 あいや待て、黒い服って、ツェルも黒パーカー野郎もそうだったじゃねえか。……でも、咲夜歌の身長的にその二人の間だから分かりやすい……か?


 一人で勝手に話が脱線しそうになって、何故かそれを誤魔化そうと街へ続く雪道に目を向ける。



 ……よく見ると、その雪道に足跡が残っている。足の数で考えると一人分だ。


 振り返って、アリアと咲夜歌以外の全員がここにいることを確認する。ということは、誰かがどこかに行ったわけではない。


 となると、この足跡は……アリアか咲夜歌のはずだ。




 不意に、雷のような轟音が上空から響き渡る。




 釣られて見上げると、空に罅が大きく入っていた。罅の一番端の先端が、地平線を突き刺す寸前だった。


 皆、不安の声を漏らす。俺は上に向けた視線はそのまま、隣まで来ていたグラスの手首を掴んで離さないようにした。


 どこからともなく湧き上がる漠然とした不安が、掴んだ手を徐々に強くしていく。


「……これは、まずいのでは……?」


 後方から聞こえたツェルの声も漏れなく、不安のような、動揺のようなものを含んでいた。


「完全に割れたら、どうなるんだろう……?」


「……良いことでは無いことは、確かだと思います。」


 思わず口に出してしまった問いに、ツェルが答えた。そして、その答えに肯定するように、そうだよな、と俺は呟く。


「早く二人を見つけるぞ、手遅れになる前に。」


「確かにそうですが……どうやって見つけ出しましょうか……」


 歩きだしそうな足を引き止めた。目の前の雪道に残った足跡を指さしながら、顎を手で据えたツェルに振り返る。


「足跡だ。アリアか咲夜歌のものだろう。……これを追ってみようか。」


「なるほど……分かりました。」


 俺は振り返って、仲間の皆にそれを伝える。


「みんな!足跡があるんだ!これを追ってみるぞ!」


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