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救世主

 

 腹が減っては戦ができぬ、てな。


 それに従ってバーガーを食らいながら、戦況を保つ。咲夜歌(さやか)を倒す手立てをほとんど黒スーツのツェルに任せておいた。

 オレは、宙を浮いている咲夜歌が多く放つ黒い刃物っぽいやつを、黒スーツに当たらないように守る役割を担っている。


 オレの方に攻撃は来てないみたいだ。それもそうさ。

 相手はツェルと互角に戦ってっからオレの方に見向きもしない。ツェルは光る長剣を持っているし、なおかつ巨大な両手を従えているもんだから、完全にペースはこっちのものだ。


 とは言ったものの、油断は禁物だ。巨大な両手が咲夜歌の放つ猛攻を耐えれることは可能でも、残念ながらその背後がガランドウなんだ。

 そこで、オレの出番だ。


 ツェルの後ろから来る刃に、無駄に魔力も消費したくねぇから、簡易的なバリアを張って凌いでいる。やべぇ時はさすがに光る刃でケンセイするが。


 そういった事を何度か繰り返し、徐々にツェルが咲夜歌へ近づいていく。その長剣が心臓の刺しやすい場所まで行ってから咲夜歌へ飛ぶんだろう。


 オレは変わらず咲夜歌の攻撃を凌ぎながらバーガーをかじる。腹の訴えも変わらずに叫び続けるばかり。



 唐突に、戦況が変化した。



 今まで宙を浮かんでいた咲夜歌は、不意にツェルへ距離を詰めながら地に足をつけた。そのままの勢いで、接近戦を仕掛けてきた。



 まずいな。



 急いで光の刃で助け舟を出そうと思ったが、その必要は無かった。


 ツェルは驚いた様子を見せない。少女の肩から生えた鎌の攻撃や速い蹴り上げにものともせず、受け止めては避けてを繰り返し、その隙を果敢に攻めていく。

 だが、咲夜歌も一歩もひかずに黒スーツの素早い剣術の猛攻の嵐を避けては反撃する。


 なんというか、アクション映画を見てる気分になるな。片手に食いもんも持ってるから、尚更そう感じる。


 二人は激しい接近戦を繰り広げながらこっちに近づいてくる。ツェルを手助けする隙間も無いくらいに。



 ……しゃーねぇ。あとは任せるとするかな。ま、オレもあれくらいキビンに動けたら話は別だが。



 三分の一くらい残ったバーガーを、歯で二つに分けてから口に押し込んだ。


 ツェルが鎌の攻撃を剣で受け止めながらも、不意の左手の殴りで体勢が崩れてしまう。気づいた時には、細い胴体の脇腹に蹴りを入れられ、壁まで吹っ飛んでいってしまった。



 あ、やべ……。



 油断は禁物、とか言っといてオレは何してんだ。


 ツェルは地面に横たわりながらも、離さなかった剣の刃先を地面に突き刺して立ち上がろうとしていた。が、顔を上げたツェルはこっちに向かって叫ぶ。


「気をつけてください!」


 急いで咲夜歌に向く。既に目の前に現れていた女は、オレを握りこぶしで殴る寸前だった。


「ッッ!!」


 オレ自身でも驚くぐらい早くポケットから出た両手が、それを防ぐことができた。



 なんとかなった、と思った瞬間、腹に衝撃が走った。胃の奥から込み上げるのを堪えながら下を見ると、女の手がオレの腹にめり込んでいた。



 防いだはずの両手は全く意味をなしていなかったんだ。

 確かに、両手に殴られたカンカクはしたはずなんだが……バカ早い二回目の殴打が来たのか?



 わけのわからないまま女とキョリを取るように後ずさって、鈍い痛みがジンジン響く腹を抱える。幸い、ヒニクにも、常日頃から蓄えていた脂肪のおかげで内臓までは痛みが及んでいない気がした。



 でも、割と……ガチでやべぇ……。



 痛みで思考がままならない。ボヤけた視界に女が迫る瞬間を見ると、頭の中の警鐘が激しく鳴った。



 このままじゃまずいのはわかっていた。じゃあもうやる事もわかっているはず。



 腹を抱えていた両手に力を込めながら背を低くする。目の前の女が鎌を振る瞬間を狙った。

 手を離し、地面に向かって思いっきり手のひらを向ける。放電する尖った結晶を地面から大量に生やすと、女の胸に一つ突き刺さった。


 魔力を消費するが、こうでもしないと足止めすらできねぇ。


 片手を押し出すように前へやって、結晶の先端を伸ばす。

 これで退路は塞げたはずだ。

 今のうちにツェルをどうにかしようと、視線を移した瞬間だった。



「リヴ、リーロディヴ様!鎌が後ろに!」



 すぐ振り向いた。そこにあったのは、ハイイロに溶け込んだ黒い鎌だった。



 その大きな刃が、オレの首を定めるように振られる。



 確実に当たってしまう。




 だめだ、死ぬわけにはいかねぇ。





 無理だとわかっていても、頭を守るように両腕を上げた。










 刺さった音が聞こえた。



 だが、腕は痛くない。


 止めていた呼吸が口から始まると、全身に張りつめた恐怖が少しだけ和らいだ。

 瞑っていた目を開けながら、腕を少しずつ視界から退けていく。


「……え」


 目を疑ったオレは、驚くぐらいスットンキョウな声を出してしまった。





 女の鎌の刃先に刺さっていたのはニンジンだった。





「……足引っ張ってんじゃねえよ。」


 はっとして、そこに目を向ける。



 険しい顔をしたウサギが、右手を前に出しながら地面に跪いていた。



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