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意志と感情

 

 光線は、私の右肩を貫いた。


 ナイフを持っていた右手や右腕は宙に投げだされ、私の肩からは黒い液体が噴き出した。

 背中を向けていた兎は、その直後振り返って私の肩を見据えた。口を固く結んだと思えば、すぐさま緩み、笑みのようなものを零す。


「そろそろ止めにしないか?そんな体になっちゃ、思うように動けないだろ。」


 パーカーのポケットに手を突っ込んで、二歩後ずさりながらそう提案した兎。まだ余裕があるのか、あれだけの攻防戦を強いられたのに、息は全く上がっていない様子だった。


 絶望に塗れたこの黒で、私は自身の腕を形成しようとした。しかし、出来上がったのは腕の長さに相当する黒い刃だった。

 切っ先は鋭く、この刃の大きさならその兎の体も真っ二つに裂いてしまえるだろう。


 この異様な光景を目にした兎は、驚きはしなかったものの眉をひそめて、それに明らかな嫌悪を顔に浮かべさせていた。


 私は地面の雪を蹴り、腕の刃を振り上げながら兎へ走る。嫌悪を表して呆然とする兎に、振り下ろした。


 もちろんそれは兎に到達する前にバリアによって阻まれる。だが、バリアに入る罅はナイフの刃で攻撃を与えた時より広く割れていた。

 罅割れた箇所を見た兎は、目を鋭くして一歩下がる。その顔には、焦燥が見え隠れしていた。


 割れた箇所から私に向かって光線が放たれた。それを幾度となく回避した私はその光線も漏れなく躱す。

 再び、腕の刃を振り下ろす。今度は兎もバリアを張るように腕を翳す。刃とバリアが接触すると、兎は大きな刃を受け止める反動で二歩も後ずさることになった。


 私は、何度も腕の刃を振り下ろした。思い切り、何度も、何回も。バリアなんてものを破壊するような勢いで、兎にめがけて何回も。

 兎は刃を受け止めながらも、先程までの攻防戦より苦しそうな表情を浮かべている。


 バリアを攻撃する度、罅は広く入っていく。それと比例して光線は大きくなっていくが、私はそれを容易に躱していく。兎は大きい光線の影響なのか、光に目が潰されないように目を伏せているようだった。


 その隙に、私は姿勢を低くして兎の背後に回り込み、刃に力を込めてバリアを破壊しようと試みた。


 バリアに罅が兎を囲うように全体に広がっていく。私は素早く近くに生えていた冬木の陰に隠れる。



 その直後、ガラスが割れるような音が、大地を揺らす程の轟音が響いた。



 バリアから多くの光線が四方八方に放たれる。その光線が天に向かって収束されたかと思えば、秒針の刻むような音が一回鳴ると、爆発音が響き渡った。


 音が鳴り止むと、私は木の陰から出た。兎は、さらけ出された茶色の地面に膝をついている。

 辺りには灰色の煙が立ち、水が蒸発した臭いと毛が燃えたような気持ち悪い臭いが私の鼻に届いた。


 兎は深く息を吐いて、まるで正座をするように力なく座り込んだ。


 近づく私に気づいた兎は、こちらに目を向けた。疲れて動けないのか、そもそも動こうと思わないのか、立たずにずっとこちらを見据えるだけだった。


「……お前のその能力、気持ちわりぃな。不死身じゃねえか。」


 兎は、微妙に笑いながらゆっくり立ち上がる。両手を広げ、抵抗の意思が無いこと示した。


「俺はお前を殺せない。殺せる要素が見つからない。……不死身相手に戦うような勇気は、俺には持ち合わせてないしな。」


 しかしながら、目は私を見据えたままである。微妙な笑みからゆっくりと、睨むような表情に変わっていった。

 手はパーカーのポケットに突っ込んでいるが、曲げることのない意志を持つ毅然とした態度であったように見えた。


「だが諦めたわけじゃない。いつか、そんなお前が終わる時が来る。かなり時間がかかるかもしれないが……」


 再び、微笑むような、微妙な笑顔で私に向かって言葉を放っていく。


「その時まで、感情に流され続けても、意志だけは決して手放すなよ。」


 私は、腕の刃を兎の体を切断するように振り下ろす。しかし、兎が後ずさったせいで、兎の着ているパーカーを斜めに刻まれるだけに終わってしまった。


「俺、痛いのは苦手なんだ。」


 兎は自身の首を指さす。


「一瞬で終わらせてくれよ。」


 私は、ゆっくりと鼻で空気を吸う。あまり動かさないでいた口を開け、そこで息を吐いた。

 冷たい空気に晒された温かい息は、白くなってどこかへ消え入った。


 腕の刃を水平にし、兎の首に目がけて振り回す。



 望み通り、首を切った。



 *



 塵になったそいつを見ていると、悲しくなった。悲しくなっただけで、涙は出なかった。


 この体はまだ支配されている。その事実があるだけで、意志が貫けないでいた。


 残るは、あの女と黒いヤツ。そう考えると体は動いたが、殺戮を餌にして動いているこの体は、ほぼ無人と化したこの世界ではもはや電池切れのガラクタのようなものだった。



 そんな時だった。



「やっと、見つけたわ……!」



 声のする方へ目を向けると、活きのいい複数のモンスターと人間が、私の道を阻むように立っていた。



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