胡乱
私が、目覚めた場所。
既に刻まれた雪の足跡を追ったら、そいつは私に背を向けて星が瞬く罅割れた空を見上げていた。
「よお。」
私の足音に気づいたのだろうか、振り向きざまに言い放った。
「お前の仕業だな?」
ピンクのダボダボパーカーに、灰色の長スボンを着こなす兎の獣人の赤い瞳は、私を捉えて逃がさない。しかしながら、そこに殺意のような鋭いものは感じない。
私は感情。そいつは意志。対の存在を写す鏡の前に立っているような気がした。相手の意思は、何なのか分からないが。
「お前、あの装置に入ったな?ダメだろ、あれは未知なんだ。素人が使いこなれるような代物じゃない。……だからって、俺も使いこなせられるわけじゃないが。」
肩の力を抜き、若干の手振り混じりで話している様子は、まるで近しい友人と話すような口振りだ。
「ちょっと話をしないか?ちょっとだよ。時間はあまり取らせないし、お前自身も気になってるだろう渦中の存在が話題さ。」
私は、何も言わなかったし言えなかった。何せ、体が支配されているんですもの。
だが、ナイフを入れてある懐には手を入れなかった。ただ、自分の身に何が起きているのかという真実が混じっているかもしれない泥の中には、手を入れるようだった。
「沈黙はイエスと見なすからな。」
*
「あの装置は分からないことだらけなんだ。誰が、どのように、どんな目的で創られたのか、全く知られていない。どういった目的で使用するのかさえな。
ただ一つわかるのは、あれを使ってもろくな事が起きねぇって事だ。
最初にあれを見つけたのは、アリアだった。閉鎖されてた地下四階の備品庫で見つけたんだと、そいつは言ってた。
大変だったな。あんな大きいのを運び出して俺らの研究室まで持っていく作業。魔法も駆使したのに、骨が折れそうだった。……すまない。今の話は装置に関係なかったな。
んで、研究所内で顔の広いアンディーに頼んであれの情報を集めたんだ。だが、何一つ見つかりやしなかった。手がかりすら掴めなくて、お手上げだった。
その頃、装置の起動に専念してたメイとオリヴィオがついにそれを起動させたんだ。メイは知識が豊富、オリヴィオは頭が切れる。最高のコンビだよな。
起動させた最初の数回は何の問題も無かった。俺たち何人かが入って、あの輪っかから変な場所へ通じる事もわかったんだ。
変な場所……なんというか形容しがたい感覚がしたんだよ。その場所にいると。……そうだな、胸が締め付けられそうな、そんな感覚がした。
で、その場所なんだが、入る人によって違う場所へ飛ぶようなんだ。場所だけじゃなくて、そこにいたかどうかという記憶も、曖昧な奴がいたり、明確に覚えているやつがいたり、様々なんだ。
分析してみると……説が三つ生まれた。一つは、当人が過去に一番後悔した出来事が起きた場所に転移するというもの。もう一つは、当人の運命が変わった出来事が起きた場所に転移するというもの。あともう一つ、当人が最も深く関係する場所に転移するというもの。
とは言っても、あの装置が暴走した今じゃ、性能自体が全部変わってしまったようなものだから、もうこの説は立証出来なくなったがな。
そんで、色々調べているうちに、ついに起きたんだ。
あの装置がな、どういうわけか暴走……」
私は走りながら懐に手を入れて兎にナイフを振り下ろした。




