悲鳴が響く演奏会
驚いた事に、都会はモンスターで溢れていた。遠くで見ているが、明確にその光景が見える。
平和ボケしてしまったモンスター達。
戦や争いなど無縁に育ってきたのだろう。魔法が発達し、魔法が扱えないモンスターでさえ怠惰な生活を送れるようになっている。
とりわけ、そのモンスター達に制裁を加えたい訳ではない。
この体は殺戮に駆られているだけで、対象はなんでも良かったらしい。生きているやつなら、なんでも。
都会へ赴いていく。手は、血が染まったナイフを固く握りしめた。
*
目の前に起こる惨劇は止まらなかった。勝手に動く体を、制御が出来ないでいた。今すぐに止めたいのに、止められない。涙も流れない。
あらかた片付いてしまった都会を見渡す。血で染まったナイフの餌食となってしまったモンスター達が、街並みを照らす街頭らの下で、硬い地面に横たわっていた。
少し遠い所に目を向けると、どこか遠くへ逃げていくモンスター達に紛れ、人型カボチャ頭の三兄弟が微かに見えた。
思い切って走ると、すぐに追いついてしまった。
走りながら、三兄弟を捉えるようにナイフの刃を向けた。ナイフで他のモンスター達を薙ぎ倒していく。三兄弟のうち最初に切れたのは一番小さいカボチャだった。
「うぅっ!!?」
振り返った際に切られた脇腹部分を抑え、小さいカボチャはこちらを見る。涙の流れている目は、恐怖で満ちていた。
苦痛で顔が歪み、体制を立て直そうと足に力を込めたその隙に、胸部を刺す。その後すぐに、首に近いカボチャの頭へ切り込んだ。
絶えない悲鳴が響き渡る。
小さいカボチャは、力なく倒れるとやがて動かなくなった。逃げ惑うモンスターの中、こちらに背を向けることなく睨みつけている中型のカボチャがいる事に気がついた。
「……てめぇふざけんなぁ!!」
懐から取り出したのは包丁だった。魔法が扱えないモンスターにとっては唯一の武器だろう。
私に向かって振り下ろされたそれを、思い切りナイフで弾いた。弾かれた包丁は別のモンスターに刺さってしまった。
そいつが体制を崩した隙に、腹へナイフを刺し込んで釣り上げるようにして抜いた。
次の標的は、大柄のカボチャ。目をつけられたのがわかったのか、そのモンスターは体制を低くして攻撃に備えた。
「……くそっ、やるしかない……!」
まさか、戦うの!?
この体とナイフには勝てない。早く逃げてほしい。人形のように操られた私は、その意思すら否定されたかように右手にあるナイフを強く握った。
前に飛び込んで、ナイフでモンスターの胸部を切ろうとする。だが、モンスターはそれを後ろに飛んで避けた。
再び、ナイフを振って切ろうとするが、避ける。次は刺そうとして、勢いよく前へ突く。その時、カボチャはそれを見計らっていたのか、突き出した手首を強く掴まれた。
カボチャさん、すごいわ!
私がそう喜んだのも束の間、掴まれた私の右手首に力が集中し、強く引いてカボチャを前へよろめかせる。そこに膝蹴りをカボチャの腹へ入れた。
「カハッ……」
掴まれた手が解かれると、ナイフの刃を上向きにすると同時に、カボチャの腕を切りつけた。間髪を容れず、腹に蹴りを入れる。カボチャは、切られた腕をもう片方の手で抑えながら、地面へ仰向けに倒れてしまった。
カボチャの敗北が確定され、私は絶望した。
どうか、この体に対抗出来る人はいないの……?
カボチャに近づくと、こちらを睨んでいた。苦しそうに息を吐いては、左膝を曲げて足を地につけている。
「どうして、こんな事をするんだ……?」
私は、こんな事は望んでいない。それを明確に示したいのに、口が動かない。
私の体は、この問いに答える代わりに、ナイフを振り上げてカボチャの顔にめがけて下ろした。
硬い音がした。
目も瞑れない光景で目にしたのは、カボチャの驚くべき行動だった。
右手がナイフを振り下ろした瞬間、カボチャは頭から右へ転がり、攻撃を躱した。音の正体は、アスファルトらしき硬い地面によるものだったのだ。
その後、大柄の体格には似合わないくらい素早く立ち上がり、逃げるように走り出した。私は、少しだけ希望を持てた気がした。
しかし、依然体は勝手に動き、カボチャを殺す為に後を追っていく。他のモンスターには目もくれず、真っ先に走る。
カボチャが走りながら頭だけ振り返ると、左手を地面に向かって勢いよく広げた。
その瞬間、目の前に淡い水色の壁が現れた。私の身長と同じくらいの小さい壁だったが、障害物としては上出来だった。全速力で走っている時に、突然目の前に阻むものが出てきたのだから、当然私の体はそれに撃墜する
はずだったのに
まるで、初めから阻まれるのが分かっていたかのように壁を避けた。こちらに振り向いていたカボチャの顔が、意味がわからないとでも言うかのように歪む。
追いついてしまった。その瞬間、私の手はナイフを振ってカボチャの背中を切りつけた。
「ッ!!」
カボチャの走りが遅くなった。そのまま、追いついた背中にナイフを突き刺す。そこで、カボチャの足が止まってしまった。
うつ伏せに倒れ、最後に、首近くへナイフを振り下ろした。
カボチャは、動かなくなった。
*
騒音と活気で満たされていた都会は、悲鳴が響くだけの悲惨な舞台と成り果ててしまった。
容姿様々なモンスターが道端に倒れ、血を流している。辺りは、灰色と赤色のコントラストに染め上げられ、鼻を劈く鉄の匂いが充満する。
そんな場所の真ん中で、私は歩いていた。
絶望の淵を歩かされているようだった。体を動かしたいという意志は、もうどこかへ行ってしまった。体の動くままに、従ってしまう。私は、心の中で嘆いた。
今思えば、こうなってしまうのは必然だったのではないか。
こんな世界へ転移した時点で、私がこうなってしまうのは、確実だったのではないか。
そんな考えが過る。何故そう思ったのかはわからない。でも、そう思わないと、気が狂いそうだったから。
ふと、私の体は立ち止まった。星空の瞬く夜空を見上げる。
空の中心から、蜘蛛の巣が広がるように、小さな罅が入っていた。




