仲間
一階へ降りて、すぐに仲間を一人ずつ確認する。
骨種族の名を忘れた骨。
犬獣人のグラスと兎獣人のイミラ。
赤の館の主、小熊猫獣人のエリサとその執事のツェル。
ここの飲食店経営者のツエルバと地下室にいたエルダート。
咲夜歌を人間と見破ったリーロディヴ。
そして、私。
……?
店の入口に、三人、人型のカボチャ達がいた。カボチャ三兄弟だわ。どうしてここに?そう思ったところで、長男のカルダが苦笑いを浮かべながら私を見てきた。
「アルが行きたいとうるさくて……な、そうだろ?」
「あぁ……」
三男アルタルスが、高い背を少し曲げて汗だくのカボチャ頭が俯き、前へ出た。
「サヤカにまた演奏を聞かせたいから……そう思うと助けたいって感じてな……」
「僕もなのだ!」
二男のナインドも続いて言った。どうやら、演奏会の準備より咲夜歌の救出に気持ちが傾いてくれたようだ。……アルタルスの影響で。
良かった。三兄弟が仲間になってくれたのは大きい。三人分の記憶が集ってくれたのだから。
「それはいい事だわ。ありがとう。わざわざここまで来てくれて。」
「ただ、条件がある。」
カルダは私と目を合わせてくる。思わず、顔を顰めてしまった。
「演奏会の準備を手伝って、無事に終わらせる事だ。いいか?」
途端、顰めた顔を緩めた。なんだ、そんな事ね。
「もちろん、いいわ。」
笑顔で快諾した。
新たに加わった三人の仲間を確認する。
長男のカルダ。二男のナインド。三男のアルタルス。
役者は揃った。次は舞台へ飛び込むだけ……といったところかしら。
「行きましょう。咲夜歌を助ける為に。」
手を前に出して、無言で転移の合図を送る。各々それを察してくれたのか、覚悟を決めた表情が皆に宿る。……が、三兄弟がまだ状況を理解できないようでいた。
「転移をするわ。どこでもいいから私の体を触って。」
「は、はあ!?また転移するのか!!」
また……?
「あの感覚、イヤなのだ……。」
三兄弟は、転移のあの感覚を良く思っていないらしい。私も嫌いよ。
「でも、徒歩で行くより遥かに良いわ。」
「転移の、あの感覚?一瞬だから大丈夫だろう。気にすることは無い。」
イミラが助け舟を出してくれた。
それを聞いたナインドは、がんばってみるのだ、という小さな声が零れた。カルダも、溜息を漏らしたがやがて、うんうんと頷いた。
その後、アルタルスに顔が向く。
「アル、大丈夫そうか?」
「まあ……なんとか。」
既に手や腕に触っている仲間を横目に、アルタルスの状態を見る。何故、都会からこの場所へこんなにも早く来れたのか、その理由がわかった気がした。
長男よりも魔力の強い三男なのだから、大体は推測できたが。
カルダとナインド、アルタルスが仲間の手に触れないように私の腕を触る。全員が体を触っている事を確認すると、転移を始めた。
もちろん行き場は、あの装置の前へ。
*
一瞬だけ、空間ごと体が引き裂かれそうな感覚が体中に走った。気がつくと、俺は
ゴドォッ!!!
「ああぁぁいッ!!!」
突然、額に鈍い痛みが広がった。思わず、額に手を当てて床に丸く纏まってしまった。アリアが何かを俺に言っていた気がするが、額の痛みで掻き消されて聞こえなかった。
「……ここに当たったのか。」
すると、イミラの声が聞こえて顔を上げた。イミラは研究机の角に目を向けている。
……不運にも、転移した瞬間に机の角に当たったらしい。他の人はわからないが、俺を含めてグラス、エリサ、飲食店の店員の一頭身のやつ……ツエルバ、カボチャの三兄弟の二人が転移が上手くいかなかったらしい。
額の痛みを手で抑えながら立ち上がる。澄まし顔のような無表情をしたアリアは、ひとりひとり指さしながら確認していく。
「骨……あ、そうだわ。」
何かに気がついた様子のアリアは、不意に俺の方に顔を向ける。淀んだ黄色い目が俺の顔を捉えた。
「貴方、名前を忘れたのでしょう?この際、新しい名前を考えたらどうかしら。呼ばれる名前が無いなんてこの上ないくらい不便でしょう?」
……言われてみればそうだ。アリアから骨と呼ばれるのも、なんというか、心に来るものがあった。
とは言え、名前を決めろと言われても、そんなすぐに決められるわけじゃない。即決出来るような名前なんて、自分につけていいものだろうか。
「それじゃあ……今から名前を考えるから、ちょっと待っててくれ。」
「わかったわ。」
アリアは俺から目を離すと、確認を再開させた。またひとりひとり指さしていく。
「グラス。」
「へ?は、はいっ!!」
犬獣人のグラスは、名前を呼ばれた訳が分からず手を挙げてしまった。それに驚いたアリアは目をキョトンとさせた。
しかし、すぐに無表情へと返った。仲間を見渡しながら口を開ける。
「私に名前を呼ばれたら返事をしてほしいわ。手は挙げなくていいから。」
各々頷くと、アリアは再び確認をし始めた。……確認というより、点呼だな。
「イミラ。」
「おう。」
兎獣人がややぶっきらぼうに返した。
「エリサ。」
「……はい。」
……小熊猫獣人が腕を組みながら返した。
「ツェル。」
「はい。」
黒いスーツや黒いシルクハットなどで黒ずくめが落ち着いた雰囲気で返した。
「カルダ。」
「あぁ……。」
転移の影響で酔ってしまったのか、口に手を当てながらカボチャ三兄弟の一人が返した。
「ナインド。」
「はーいなのだ!」
手を高々と挙げた身長の低いカボチャ三兄弟の一人が返した。
「アルタルス。」
「あぁ、はい。」
少しだけ手を挙げた一番背の高いカボチャ三兄弟の一人が返した。
「ツエルバ。」
「はいよ。」
浮いた頭から生えた髪の毛先を弄りながら返した。
「エルダート。」
「私がエルダートだ!!」
俺と同じ骨の魔族が声を高々にして返した。
「研究者として、私は咲夜歌を救うことを誓おう!!」
「ありがとう。静かにしててちょうだいね。」
エルダートの宣誓をアリアが軽くあしらうと、次に進む。
「リーロディヴ。」
「おぅ。」
いつの間にか持っていたハンバーガーを頬張りながら返した。
「……名前は決まった?」
最後の一人、俺に目を向けたアリアはそう聞いてきた。
長く呼びにくいような名前ではなく、とても簡単な名前にしようと考えた。……そうだな。
「キュウイ……とか?」
「キュウイ、わかったわ。改めてよろしく、キュウイ。」
「ああ。」
……ちょっと簡素だったかな。
アリアは、全員を見渡した。
「それでは、咲夜歌救出作戦を決行するわ。」
振り返って、前にあるあの輪っかの機械に手を掲げる。輪の中に濃淡のある虹色の様な空間が現れた。
「これを通れば咲夜歌がいる場所へ行けるはずよ。怖がる必要は無いわ。皆、飛び込むのよ。」
この先に咲夜歌がいる。……咲夜歌が。
そう思うと、自然と足が前に進んだ。アリアは、仲間に目を配る。その淀みある目は、覚悟に満ちていた。
「……行くわよ!」
それを合図に、俺達はあれへ飛び込んでいった。




