過ち
咲夜歌の記憶が戻るという機械を求め、研究所の最下階である地下三階にやって来た咲夜歌と名を忘れたスケルトン。機械の追求が噂に終わりそうな時、二人は広い研究室に入っていった。
中は焦げたような臭いが蔓延し、咲夜歌は思わず鼻をつまみそうになる。部屋中の壁や床、天井さえも煤けている。普通の火ではない、強力な炎魔法で焼き尽くされてしまったのだろう。高度な魔法で造られたこの研究所では、魔法も持たない炎などでは火の手が広がることは一切無いのだ。
そんな研究所の地下三階の広い研究室。咲夜歌とスケルトンは、ついに見つけることが出来た。
暗い部屋の中、スケルトンの光魔法に淡く照らされたそれは、部屋の中央の奥に、ずんと佇んでいる。
「もしかして、あれ?」
咲夜歌が呟いた。
どんな機械かも分からない二人だったが、記憶が戻る機械だと一目見ただけでわかった。燃えきれなかった紙片を踏みながら、慎重にその機械へと近づいていく。
この機械は、まだ作動している。
「気持ち悪いな……。」
咲夜歌には分からなかったが、魔力を持つスケルトンは、その異常に発せられている魔力に戦いている。
機械の形は、機械的な輪っからしきものに、それを支える台座が繋がっている。そこからコードが伸び、一台のパソコンに刺さっていた。
魔力は、その輪っかから出ているものだった。大規模な火事を引き起こした根源だろう。この魔力は、強力だ。
「あれ……これ、まだ動いてる?」
咲夜歌が、この機械はまだ作動している事に気がつく。繋がれたパソコンは、画面が真っ暗だが何らかの操作が可能なのだろう。スケルトンがそこまで歩いていくと、慎重に、様々なボタンを押してみた。
しかし、残念ながら反応は無かった。
「操作は出来ない、か。」
咲夜歌は、顰めたような表情を浮かべたスケルトンを横目に、魔力を放つ輪っかへとゆっくり近づいていく。が、途中で思いとどまる。
この機械は動いてる……近づいたら、何が起こるか分からないわ……!
その瞬間、この静かな部屋に無機質な電子音が鳴り響いた。音のした方に咲夜歌は驚きながら首を振ると、パソコンから出る緑色の光に照らされるスケルトンが目に入った。
スケルトンも、驚いた様子でパソコンと咲夜歌を交互に見たあと、パソコンを指さしながら咲夜歌を見る。
「いきなりこいつから音が出たんだ!びっくりしたぜ……。」
「……正直、私は今のあなたに一番びっくりしてるわ。」
緑色の光に照らされるスケルトン。確かに、見るだけでも恐怖が拭いきれない。
スケルトンは画面が点いたパソコンを凝視する。咲夜歌も、パソコンには近づかずに、輪っかの前でパソコンを覗き込む。ウィンドウに映し出されているのは、パスワードの入力画面だ。
「パスワードか?……わかるわけねえだろ。」
スケルトンが、苦笑しながら放った。咲夜歌も、もちろん分かるはずもなく、輪っかの前に立ち尽くしてしまう。
…………仕方ないわね。
咲夜歌はパソコンの前へ歩き出し、キーボードに手を置く。パスワードを入力すると、入力画面から通常のウィンドウに変わった。
スケルトンは、咲夜歌のその行動を見てひどく驚いた。
「さ、咲夜歌?パスワード分かってたのかよ!?」
「いや……私もなんか、急に頭に浮かんできて……なんでだろ。」
咲夜歌も、なぜパスワードを解けたのか分からずに困惑している。ウィンドウに出てきたのは、またもや入力画面だ。しかし、次はパスワードではなかった。
…………なるほど。
咲夜歌が輪の正面に立って口を開く。
「なんだか怖いわ……。」
輪の向こう側は、なんの変哲もない焦げた壁があるだけだった。だが、それは唐突に起こした。
輪が少し広がり、中に亜空間を発生させる。手を伸ばして、咲夜歌の首元を勢いよく掴んだ。
咲夜歌は驚く間もなく亜空間へと引きずり込み、上半身が入ってきた。
「咲夜歌!」
スケルトンの叫ぶ声が聞こえた。咲夜歌の足に掴まり、引き戻そうとする。しかし、貧弱なスケルトンが亜空間に勝てる訳が無い。
咲夜歌とスケルトンの抵抗も虚しく、咲夜歌は亜空間へと吸い込まれた。
亜空間を発生させてから数秒にも及ばない間に起きた出来事だった。
*
伸ばした手が無駄に終わってしまった。輪の中に出来た変な色をした空間に、咲夜歌が吸い込まれてしまった……。
追いかけようとして中に入ろうとするが、弾き飛ばされてしまう……!
なんだよこれ……!!どうすりゃいいんだよ!!
空間の前で、ただひたすらに空間を睨む。そんなことをしても意味ないとこはわかっていたのだが。
何か……何か打開策はないかと、辺りを見渡してみる。あるのは、焼けた紙と壊れた機械、微量に見えるガラス片、台座に繋がれたパソコン……。
……パソコンだ!
この変な機械に繋がれた唯一の動く機械だ!急に電源が入ったのも、何か理由があるはず……。
僕は、パソコンに近づき、咲夜歌を引き込んだ機械の正体を暴こうとする。
噂なんて、もうどうでもよかった。これが、記憶が戻る機械であったとしても、そうでなかったとしても、今は咲夜歌を助けることが最優先だ。
正直なところ、機械にはあんまり詳しくない。どちらかと言えば苦手だ。だが、そんなのは関係ない。
分からなくても、咲夜歌を助ける。やっと会えたんだから!!




