感動の再会
咲夜歌は、スケルトン系モンスターの男に着いて行っている。今向かっているのは、レフゲ遺跡という場所である。もう歩いて二時間は経っただろう。
死んだような、何もかもが枯れたこの世界で、ひたすら歩き続けているのだ。月明かりのような太陽の光。淡く地面を照らして、咲夜歌の足を煩わす。
話になる話題なんてこれっぽっちもない。レフゲ遺跡へ案内をしている、このスケルトン系モンスターだって、全く口を開かずに迷いなく歩いている。
咲夜歌は、黄ばんだ地図を見ながら進んでいたが、案内されているから目的地には進んでいるのだと盲信して、地図はリュックに仕舞った。
にしても、四日くらいずっと歩いてるわよね……寝るのは除いて、だけど。
出発地点から、度々休憩しながら目的地へと向かっている。足の疲労は、寝る時に解消されていればよかったのだが、ベッドがベッドとは呼べないもので寝ているので、結局疲労は溜まる一方だった。
「あと……どれぐらい?」
咲夜歌は、疲労に耐えきれず、思わず聞いてしまった。
「もうちょっとだ。」
目の前で歩いているスケルトン系モンスターは、疲れた様子が一切感じられない。……一々スケルトン系モンスターと呼ぶのも億劫なので、これからはこいつの事をスケルトンと呼ぶことにする。
名前が思い出せないだなんて、どう頭を打ったらそうなるのかしら。
咲夜歌は、まだ歩くのか、と辛くなりながら、疲労の溜まった脚を動かすのであった。
……
もう遺跡は目の前だろうという所で、奇妙な場所に来てしまった。
墓地だろうか。縦に長く削られた長方形の石が、綺麗な間隔を開けて厳かに並んでいる。この世界と相まって、余計に恐怖を感じさせる。墓地というだけでも、良い印象はあまりないというのに、死んだ世界は墓地を更に恐怖の渦へと巻かせている。
「なんか寒い……?」
冷たい風などは吹いていないが、咲夜歌は寒そうに身震いする。苦い顔を浮かべて、墓地を歩きながら見渡す。
「早く行きましょう!ここ、なんだか嫌な感じがするわ……。」
「まあ墓地だしな。」
スケルトンが冷静に返した。
暗い月明かりに照らされた墓石達は、艶やかに照り返す。咲夜歌の思う、お化け、が本当に出てしまいそうだ。
キョロキョロと周りを見渡していると、咲夜歌は、墓石に刻まれたある文字に気を取られた。それを見た瞬間、目を見開いた。足を止め、背筋が凍るような感覚が走った。
「…………。」
言葉を失った。状況を理解できない。その刻まれた文字が、視界の中央に捉えられ、文字が掠れるように見えてくる。
咲夜歌は口を開けて、言葉を吐き出せないでいる。喉につっかえて、結局吐き出せたのは、ほんの小さな息。
あるはずもない冷たい風が吹いているようで、咲夜歌は更に身震いする。
すると、つっかえた言葉が途切れ途切れに流れる。
「これ……なに……?」
スケルトンは、いつの間にかその墓石に立っていた。咲夜歌の流れた言葉を聞いたスケルトンは、咲夜歌の方に顔を向ける。
「これか?……これがどうかしたのかよ?」
スケルトンは、表情は無いに等しい。しかし、このスケルトンは今、少なくとも驚いている。もうひとつの感情は、分からない。
咲夜歌は、恐怖にも似た表情でスケルトンにゆっくり聞く。
「これ……私の……
苗字……」
墓石には、『月代家』と刻まれている。
そう。
咲夜歌の苗字は、月代。
咲夜歌自身がわざと閉ざしていた、記憶のひとつ。
「なんで?……同じ……苗字で、誰かであって……私ではない……って言うことよね……?……そうよね!?」
スケルトンに放ったであろうその言葉は、徐々に強くなっていた。スケルトンは、咲夜歌をただ見つめて、黙っている。どういう表情かは確認できない。被っている黒いフードも、スケルトンの表情を更に覆い隠す。
「だって、だって!ここは異世界でしょう?別世界でしょう!?私の苗字が、ある訳ないわ!!」
「お前……」
声を段々荒らげる咲夜歌に、向き合ったスケルトンはまたも冷静に言葉を放つ。また、表情は見えない。……もしや、見られたくない?
「名前は……」
言葉が途絶える。ゆっくりと咲夜歌に近づいていく。
途端、
いきなり近づいては咲夜歌の両肩を、その白い骨の手で力強く掴んだ。
「下の名前はなんて言うんだ!?」
咲夜歌に向かって、スケルトンの声が大きく放たれる。スケルトンの突然の行動に、咲夜歌は唖然としたが、驚きより恐怖が勝り、開けた口からゆっくりと名前が流れる。
「咲……夜歌……。」
「…………。」
スケルトンが、力なく掴んだ手を離す。俯き、咲夜歌から離れながら、白い手を見つめている。
何か呟いていたが、聞こえなかった。咲夜歌が怪訝な目でそれを見つめていると、ゆっくりと顔を上げて咲夜歌を見つめた。
「……お……咲夜歌、は……」
スケルトンは、震えた声で言葉を吐く。
「どうやって……ここまで来たんだ?……別世界って、どういう……。」
「…………。」
スケルトンが言った、別世界について咲夜歌は言おうか迷った。咲夜歌は、まだ記憶を全て戻っていない。
特に、この世界に来る時の記憶だ。どういった形でこの世界にやってきたのか、というのを全く知らない。よって、スケルトンのこの質問に答えられない。
「分からない……。記憶が無いの。ここに来た時とか……。」
「家族のこととかは?」
間髪を容れずにスケルトンは問う。それを咲夜歌は、記憶をまさぐりながら、指を折って家族の人数を数える。
「えっと……私、お母さん、お父さん……弟……。覚えてる……!お母さんは、凜華でしょ……お父さんは耀!弟は……悠貴……。」
黒い雲に隠れていた月明かりのような太陽が、再び墓石達を照らしだす。
「そうよ……私、悠貴と約束してた。でも、なんだっけ?修学旅行に行って、そのあとどうなったんだっけ……?」
咲夜歌は、頭を抱えてしゃがみ込む。
「そのあと……そのあとは……!!」
再び俯いたスケルトンが、今の咲夜歌の様子を見かねたのか、ねえ、と狂ったように考える咲夜歌を制止する。
「記憶を失くしたんだよな?……僕にいい考えがあるんだ。」
その言葉を聞いた咲夜歌は、抱えた頭を離してスケルトンを見上げる。信じられない、と言いたげな表情だ。
「本当?」
立ちあがって、スケルトンをまっすぐ見る。
「うん。……この近くに、研究所みたいなところがあるんだけど、そこにある機械を使って記憶を蘇らせるんだ。」
…………。機械。
「噂でそういう機械があると聞いたのを思い出したんだ。確信は無いんだが……やってみる価値はあると思うんだ。やってみよう?」
咲夜歌は、心底困った表情を浮かべている。そんな、夢みたいな機械があるのか、と思っているようだ。しかし、咲夜歌は遺跡のことを思い出す。
「でも、遺跡行かないと……」
「そんなところはいいんだ!」
スケルトンは咲夜歌の言葉を被せるようにして放った。焦るような声で、咲夜歌の群青色の瞳を見る。
「遺跡なんてもう無いよ!崩落事故で中に入れなくなったんだ!だから、早く記憶を蘇らせよう!研究所に行って、ここまで来た経緯を知ろうよ!なあ!」
「…………。」
咲夜歌は、スケルトンの威圧に恐怖を感じ、思わず頷いてしまった。
「よし、早く行こう!記憶を思い出すんだ!」
スケルトンは、咲夜歌の手を取り、研究所へと走って行く。遺跡とは反対側の方へ。咲夜歌とスケルトンは、寒い墓地を後にした。
咲夜歌は、ただ手を引かれるがまま、スケルトンに強引に着いて行かれた。




