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真偽の見分け

 

「はい、出来たわ!」


 咲夜歌《さやか》は、出来上がったカレーを盛り付けると、崩れそうで崩れない木製のテーブルに置いて、名前を忘れたと言っているスケルトン系モンスターの前に受け渡す。


「カレーで~す!でも、よくこんな場所に綺麗な水もガスもあったわね。信じられない。あまつさえ電気もあるなんて。……あ、魔法かしら……?」


 腐食が進んだ飲食店に似た木造の家から外は、死んだ世界のような場所である。窓からでなくも、腐食の穴から外が伺える。しかし、到底見れたものでは無い。

 死んだ空気。枯れた木々や地。太陽の光も月光に変えてしまうほどのこの世界で、この家は今も少しだけ原形を保っている。何より、それがすごい。


「…………。」


 黒いフードで頭蓋骨を隠すその男は、咲夜歌のカレーを見てもただ黙っていた。目のない瞳で、俯き気味にカレーを凝視している。

 だんまりしているそいつに、咲夜歌は首を傾げながら、テーブルを介してゆっくりと顔を覗く。


「……カレー、美味しいわよ?食べたこと、無いのかしら?」


「そうじゃない。」


 途端に、そいつは綺麗に響く低い声を発した。ちょっとだけ、咲夜歌の目が丸くなる。


「じゃあ……どうして?」


「……言っておくが」


 頭蓋骨が上がり、カレーから咲夜歌へと目を向けられる。


「カレーだけには俺なりのこだわりがあるからな。」


「こだわり……?料理とか作れないくせに?」


「……ああ。」


 咲夜歌は、少し弱気な顔を見せたが、すぐに微笑む。台所のような場所から、汚れていない皿とお玉杓子を手にとって、鍋からカレーを掬う。


「でも、ちゃんと完食はしてよね。調味料とか限られてるなかで頑張って作ったんだから!」


 カレーを盛ったお皿をテーブルに置くと、咲夜歌も男の前の椅子に座る。


「じゃあ、いだたきまーす。」


 そう呟いて咲夜歌は、汚れていないスプーンでカレーを食べた。それを見ていた男も、いただきます、と咲夜歌より小さく呟いて、カレーを食べた。



 ……



「どうだった?食べてる間なんも話さなかったし、ここで感想くらいは言ってよ。」


 カレーがあった皿をふたつ台所へと置いた咲夜歌が男に聞いた。男は、少しだけ満足そうにして咲夜歌を見ている。

 スケルトンに表情なんてあるか分からないが、今のこの男は、微笑んでいるようにも見える。


「思ってたより美味かった。見直したよ、お前のこと。」


「そ、よかった!」


「まだ色々足りないがな。」


「ええぇ……!」


 咲夜歌は悔しそうに眉をひそめた。そうしながら、咲夜歌はバックパックの中に入れた黄ばんだ地図を取り出す。


「まぁ、いいけど……。それじゃ、本題へ移りましょ!」


 黄ばんだ地図をテーブルの上で広げ、目的地のレフゲ遺跡に指をさす。そこへ目指して、もう四日目である。


「この、レフゲ遺跡ってところまであとどれぐらいかかるかしら?」


「そこか。」


 男は身を乗り出し、地図全体を見下ろす。すると、何か気づいたのだろうか、白い骨の両手が地図の両端を掴む。


「にしてもこの地図、随分古いんだな。しかも…………」


 あまりにも長く間が開き、咲夜歌は気になって催促する。


「……しかも?」


「…………」


 急に黙ってしまった男。咲夜歌は、ただ次の言葉を待つしかないが、待ちきれないでいる。男の頭蓋骨を覗き見るが、表情は読み取れない。

 しかし、確実に、さっきまでの微笑みはどこかへ消えていた。男は、少しだけ顔を上げる。


「これ、どこで手に入れたんだよ。」


「え?」


 しかも、の続きの言葉を待っていた咲夜歌は、突然の質問に不意を突かれる。


「それは……ここよ。ここで貰ったの。」


 咲夜歌は、アルタルスというカボチャの人型モンスターにこの地図を貰ったと考えながら、その貰った場所を地図に指さす。その場所は、エルカトルラという地域にある都会。エルカトルラという名前で地域を一括りにされ、都会や町に名前は一切ないという。

 男は溜息を吐いて、考えるように、白い手が自身の顎を支える。


「お前、貰ったって言ってたな。誰にもらったんだ?」


「えっと……アルタルスっていうひとです。」


「アルタルス?……。」


 ただ男は、咲夜歌が指さしたエルカトルラという場所を、何かを考えるように凝視している。すると、また口を開ける。


「どういう種族だ?そのアルタルスというやつは。」


「種族??」


 咲夜歌は、これまで種族はあまり気にしていなかった。自分が好みなのは獣人である、という事くらいにしか考えていなかったようで、うーん、と咲夜歌は唸る。


「カボチャ……カボチャの頭……カボチャ族!」


「……。」


 男は、一瞬考える素振りをして、すぐに止める。咲夜歌の目を見るように、頭蓋骨を咲夜歌に向ける。


「カボチャだな?頭がカボチャなんだな?」


「は、はい!」


 咲夜歌が勢いよく返事をした。身を乗り出した男は、ゆっくりと椅子に腰掛けていった。広げていた地図を裏返すと、隅に名前らしき文字が書かれていた。

 咲夜歌には読めないようだったが、それを見つけた男は食い入るように見つめる。


「……オリヴィオ・ロスキス……。」


「?」


 その名には聞き覚えがあった。咲夜歌には聞こえなかったようで、首をかしげて顔を顰めている。

 そう呟いた男は、ため息を吐くと、もう一度地図を裏返す。


「……すまん。考えてた。レフゲ遺跡って言ったか。」


「え、あ……うん……。」


 唐突に遺跡の確認をされ、戸惑いながらも咲夜歌は頷いた。男は、現在地に細く白い指でさす。そこから、滑らせるようにレフゲ遺跡の場所まで指を動かした。


「ここから約三時間かかるな。つまり……こっからまっすぐだ。」


 遺跡の方向を、男は指で示す。咲夜歌は、地図を参照して、示した方向を確認した。


「まっすぐ、ね。わかったわ。」


 地図を折り畳む最中、男が椅子から立つ。


「俺も一緒に行く。ついでにやりたい事があるからな。」


「え……。」


 咲夜歌は驚く。しかし直後、まぁ大丈夫ね、と思った。折り畳んだ地図をバックパックに入れると、背負った。


「じゃあ、案内よろしくね!」



 *



 どこかで、見たことがある。遠い彼方にまで置いてきたものを、細目で確認するような感覚だ。

 ぼやけていて、それでいて鮮明だ。どこかで見たことがあるのに。あるのに、思い出せない。

 白い髪。

 微妙な微笑み方。

 安定しない口調。


 気持ち悪い感覚が、頭を支配している。不透明のはずなのに、掴むことが出来ない。



 まあ……またあとから考えればいい。



 今は、遺跡までの案内をするんだ。



 ……今日は、何年目かの最悪の日だったっけか。


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