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おつかれ同士の面と点

 

「うーん……」


 違う……これも違う……。

 細かく地図を見ていた俺の目が次第に疲れ始める。こういう事をしているのは、先日の晩飯にカルダ兄さんが言っていた言葉によるものだった。


『サヤカさん、遺跡を探しているみたいなんだ。確か、レフゲ遺跡っていったっけか。お前らはなにか知ってるか?』


『いや……俺は知らないな。』


『ぼくも知らないのだ。』


 その時は、俺とナインド兄さんが口を揃えて知らないと答えた。

 レフゲ遺跡。なんとなくだったが、どこかで聞き覚えがあった気がした。どうにかこの引っかかった言葉を解消しようとレフゲ遺跡の事を調べていた。

 だが、どれも見当違いな遺跡ばかり。名前が無いのだ。サヤカが言っていたのは、レフゲという名前がつけられた遺跡である。


「名前……ああぁぁもう……どこだよ……。」


 遂に俺は頭を抱えた。椅子に座っていたが、そのまま地図を広げた机に突っ伏していく。

 紫色に淡く照らされた目の前の地図の一部は、見覚えのあるような草原。残念ながらそこは遺跡すらない場所だ。

 今日はここまでかな……。

 突っ伏した体を起こし、広げた地図を折りたたむ。机の引き出しにそれを入れようとした時、引き出しの中になにかの書類やらがあまりにも多く入っていた。


「こんなに入れた覚えないんだがなぁ……!」


 思わず、苛立ちを込めて呟いてしまった。多少乱暴にそれらを手に取ると、床に置いて積み重ねた。乱暴に取ったことによってズレてしまった手袋を直していると、とある紙が不意に目に写った。


 椅子から頭を下げる態勢で、その紙を手に取ってみる。かなり長く引き出しの中で眠っていたのか、黄ばんでいて書かれているものもうっすらとしか見えない。

 が、それでもこの紙が何なのかを一瞬で理解することが出来た。


「これ、地図か?……まさかな。」


 頭を上げて、机に置いた地図を隅に避ける。持っている地図を手で広げながら椅子から立って全体を見る。

 そして、唐突に見つけてしまった。

 うっすらとであったが、間違いなく、俺が探しているもの。こんな簡単に見つけてしまうなんて思いもしなかった。


 これが一体どういう地図なのかは、深く理解する必要は無いと思った。それを見つけてしまった喜びが、体とともに思わず家の外へと飛び出してしまったからな。

 サヤカのところへ行こう。今なら多分、都会の南区にいるはずだ。



 *



 バイトしている飲食店からバスを乗り継ぎ、都会へ戻ってきた咲夜歌(さやか)。最南端の半島にある家へ歩いていた。

 ここは都会の南区だ。歩けば小一時間くらいで家へ着くだろう。夕陽に照らされたのは少し浮かない顔。ゆっくりと歩いている咲夜歌は、先日のことが気になって仕方がなかった。


 リーロ……今日も来なかったわ……。


 リーロ。咲夜歌を人間だと見破った影族のモンスターだ。詳しい話を聞くために、咲夜歌は同じ家に住んでいる犬獣人のグラスと兎獣人のイミラとともにリーロの話を聞いていた。

 しかしその途中、リーロは固くなった空気を和まそうと咲夜歌を冗談の的にし、グラスとイミラを笑かそうとした。その結果、イミラが怒り、リーロに静かな雑言を浴びせてしまった。

 後にイミラは、咲夜歌を通してリーロに謝ってくれと言ってくれた。咲夜歌は言う通りにしようと思っていたが、肝心のリーロが最近店に顔を出していない日が続いているのだ。


「やっぱり……あれのせいだよね……。」


 もしも、リーロの冗談に私も乗っていたら、そのまま場も和められただろうか。そもそも、イミラは連れてこなかった方が良かったのではないか。

 咲夜歌が、そんな今更変えられない変化の先を考えていると、突然右の手が誰かに掴まれた。

 驚いて振り向く咲夜歌は、掴まれた右の手を見た。見覚えのある手袋を確認してすぐ頭を上げた。そいつの顔を理解すると、咲夜歌は安堵した表情に変わった。


「アルタルスさん!どうしたんですか?」


 息の切れた様子で、そのカボチャ頭は、彫られた目の中にある紫色の瞳で咲夜歌を見る。


「やっと見つけたんだ……その、サ……サヤカさんが言ってた遺跡……!」


「遺跡……」


 数秒の間を開けて、咲夜歌は遺跡の事を思い出す。


「レフゲ遺跡ですか?見つけたって……え!?本当ですか!?」


「……ああ。」


 アルタルスは、掴んだ手を離すと、もうひとつの手に握っているやや大きめな黄ばんだ紙を咲夜歌に見せる。どうやら地図のようだ。

 ところどころインクが霞んでいるようだが、見えないわけではない。

 咲夜歌は地図を見て驚いた。


「これ……地図ですよね?でも、私の知ってる地図じゃない……。」


 咲夜歌が遺跡を見つけるために使用していた地図とはかなり異なる地図であった。

 そのひとつは、名前があること。

 この黄ばんだ地図に、地名が書いてあるのだ。ここら辺の地域には、名前など存在しないのに。


「実は俺も、なぜ地名があるのかは分からないんだ……。だけどほら、ここにレフゲ遺跡って書いてないか?」


 アルタルスの指さすその場所に、まさしくそれは書いてあった。グラスから貰ったあの本の通り、近くにはリゴル山もある。

 咲夜歌は、地図でレフゲ遺跡を見つけることができた。だがここで、またひとつ新たな疑問が浮かんできた。


「どうやってそこに行けばいいの?そもそも、地名があるんだもの……遠くにあるのは、確かなのよね……。」


「…………。」


 咲夜歌とアルタルスは食い入るように地図を見据える。見つめることでなにか分かるかもしれないという淡い期待を持っているが、ふたりの表情は変わらずまゆを顰めている。

 ……カボチャがまゆを顰める、という仕組みを究明したいと思った途端、アルタルスが、あっ、声を出す。


「この地形、俺たちの住んでる場所じゃないか?」


 再び指さしたその場所は、レフゲ遺跡とは遠く離れた地域。咲夜歌はそこを確認する。

 最南端に位置する半島の形。最北端に位置するヴァルダド半島の形。そのほか、海岸の形を咲夜歌の記憶にある地図と比べると、確かに合致するようだ。

 だがしかし、そこに見慣れない文字がある。


「エルカトルラ……?」


 まるでその地域を纏めるように書かれたその文字は、咲夜歌の目でも綺麗に見えるほど読める。あの、裏図書館と同じ綺麗な文字。

 咲夜歌はその文字になにか引っ掛かりを覚えたが、何も思い出せないようだ。アルタルスに聞こうと咲夜歌は地図から目を離し、アルタルスのカボチャ頭を見上げる。


「ここの地域、エルカトルラって言うんですか?」


「え?いや……知らないな……。聞いたこともない……。」


 この、エルカトルラ、という地域は、この地図の四分の一にも満たない場所に書かれている。残りの地域は、咲夜歌はもちろん、アルタルスも知らないだろう場所が地図に書き満たされている。

 もし咲夜歌達が住んでいる場所がエルカトルラという地域ならば、レフゲ遺跡からは、この地図を基準にして、かなり遠い場所にある。最南端から最北端までバスで一日かかるのだから、その二倍近くかかるだろう。


「……とりあえず、ありがとうございます!レフゲ遺跡の場所を見つけてくれて!」


 咲夜歌が笑顔でお礼を言うと、アルタルスは咲夜歌を見て彫られた目を丸くする。


「お……おう……。」


「この地図、貸してもらってもいいですか?私、レフゲ遺跡行ってみたいんです!」


「……あぁ。」


 頬が赤くなったようなアルタルスをよそに咲夜歌は、貸した地図を折りたたんでショルダーバッグに入れる。


「な、なぁ!」


 地図を入れ終えた咲夜歌に、アルタルスは声をかけた。咲夜歌は、微笑んだままアルタルスへ顔を向ける。


「一人で行って大丈夫か?俺も一緒に行った方がいいか?」


「大丈夫です!そこに向かうだけですから!」


 すんなりと断られてしまったアルタルスは、わ、わかった、と情けなく返す。カボチャ三兄弟の中で一番背が高く大きいのに、こういう時には気が弱いようだ。


「じゃあ私はこれで!グラスちゃんの晩御飯のお手伝いもしたいですからね!またね~!」


 家へと再び歩き出した咲夜歌は、アルタルスに手を振った。アルタルスは、それに応えるように咲夜歌に手を振り返した。少し力無かったが。



 *



 晩御飯を食べ、風呂にも入った咲夜歌は、早速レフゲ遺跡へと向かう準備を進めていた。もともと物置だった咲夜歌の部屋。必要とするものはすぐに見つかり、作業も格段に早かった。

 大きめのバックパックに入れたのは、魔法のカメラ、衣類、数日分の軽い食料、赤い日記、お気に入りの万年筆、アルタルスから借りた黄ばんだ地図。残るはお金くらいだろうか。


 申し訳ないけど、イミラから借りようかしら……。


 ふたり以上で行けば、余計お金がかかってしまう。お金を節約したいのならば、ひとりで行くしかないだろう。

 しかし咲夜歌は、あの黒い執事、ツェルの瞬間移動を使って行けばいいのではと今思いついた。が、すぐに却下した。


 ほかの人に迷惑はかけられないわ……。とは言っても、お金を借りようとしている私が言えたセリフじゃないわね……。


 準備を終えた頃には、外は暗く空には数多の星が輝いていた。少し小さい月も、遠くへ浮いている。

 それが今更分かった咲夜歌は、急に眠気が襲ってきた。電気を消し、ベッドに横たわる。

 明日は、レフゲ遺跡へ出発する。一人で。咲夜歌は、アルタルス以外のみんなに何も言わずに、レフゲ遺跡へ行く事に申し訳ないような気持ちになりながら、目を瞑った。


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