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五本の糸

 

 翌日。咲夜歌(さやか)は犬獣人のグラスと兎獣人のイミラを、バイトをしている飲食店へと連れた。太陽の肌を刺すような光から逃げるように店に入れば、魔法の空調が効いた涼しい空気が咲夜歌達を包み込んだ。

 リンゴ畑を背景にして経営するこの店は、もちろん、作る料理には必ずリンゴが入っている。


「どう?美味しいかしら?」


 咲夜歌が、料理を食しているグラスとイミラに聞いた。始めに口を開いたのは、咲夜歌特製リンゴ入りカレーを食べているイミラからだ。


「絶妙。」


「……それ褒めてる?」


「どうだろうな。」


「美味しいなら美味しいって言えばいいのに~。」


 煽るように咲夜歌は笑みを浮かべる。それに乗らないイミラは淡々とカレーを食べていく。


 不味いってわけではなさそうね。


 少し安心した咲夜歌は、次にグラスの感想を聞く。こちらも同じくリンゴ入りカレーだ。


「グラスちゃんはどう?」


「とっても美味しいよ!サヤカの作る料理にまずいものなんてない!」


「……今までで最ッ高の褒め言葉ね。」


 すると、グラスの隣にいるイミラが鼻を鳴らす。


「兄貴、世辞なんて言わなくていいんだぞ。」


「イ、イミラ!お世辞だなんて思ってないよ!サヤカ、本当に美味しいんだよ!」


 イミラの言葉に慌てるグラス。咲夜歌に世辞ではないともう一度褒めの言葉を言った。が、咲夜歌は気にしていない様子でグラスに微笑む。


「いいのいいの!グラスちゃんなら世辞でも嬉しいし、今の慌てっぷりが可愛いから。なんでも許しちゃう!」


 そんなたわいない話をしていた。咲夜歌が作ったリンゴ入りカレーをふたりが食べ終わると、咲夜歌の何かに気がついたイミラが口を開いた。


「それで、これだけじゃないんだろ?本題は?」


 流石イミラ。わけもわからずこの店に連れられたイミラであったが、話を聞かなくとも、咲夜歌の何か言いたげな顔を察したようだ。


「ちょっと待ってて!今から交渉してくるから。」


「交渉?」


 グラスの疑問が浮かんだ顔に、咲夜歌は頷いてテーブル席から立つ。陽の光が優しく入る窓際のテーブル席から、奥の方にある陽の光があまり入らないテーブル席へ歩いていく。

 今日も客は少ない。というより、もしかすると咲夜歌達とあいつしかいないかもしれない。一階の受付では、暇そうにしている浮いた一頭身のツエルバが、暇そうに自分自身の淡い水色の長髪の髪先を弄っている。

 咲夜歌は、黒いパーカーを着たあいつがいつもいるテーブル席へ着く。多くの料理をテーブルに置き、一つひとつ勢いよく食べている。この様子を見た咲夜歌は、鼻で笑っては呟く。


「……リーロデブ。」


 その瞬間、ピタリとリーロディヴの動きが止まる。そして、持っている食べかけの料理をゆっくりとテーブルに置いた。


「言いにくかったらリーロだけでいいからな。」


 低く響くような声が咲夜歌に届く。堪えきれなくなった咲夜歌は、思わず悪そうに笑ってしまう。


「ふふっ。ごめんなさい。滑舌が悪くって、ね。」


 咲夜歌は、テーブルに両手をついて体を支えるようにして立つ。リーロは、常時にやけているその顔を咲夜歌に向ける。


「今日はやけに機嫌がいいんだな。」


「私はこういう性格よ?本当は。」


「めんどくせえ。」


「そう。機嫌がコロコロ変わる()()()()()()性格。」


 めんどくせえ、だけを強調して言った咲夜歌。そして、リーロの顔を覗き込むように頭を下げる。相変わらず、赤い瞳と口と歯しか見えない。それ以外は真っ黒。闇そのもの。フードで影になっているわけでもないのに。


「それでさ、今日は私以外にも来ているの。そのふたりも、話を聞かせてもらってもいい?」


 その言葉を聞くなりリーロは、あー、と発する。


「なんの話だっけか?今ここで言ってくれ。頭ん中で整理してぇ。」


「もう。」


 咲夜歌は、昨日話した事と、今日話してほしいことを端的に教えた。なぜ人間を知っているのか。なぜ昔に絶滅したのか。あなたはどんなモンスターなのか。この三つを主軸に、話を展開させていくことになる。

 咲夜歌は、グラスとイミラのいるテーブル席に戻ると、立ったまま、リーロと話したテーブル席を指さす。


「たぶん交渉成立。あそこに移動するわよ。」


 それを聞くなりイミラはテーブル席から立った。一方グラスは、迷っているのだろうか、ゆっくりとテーブル席から立つ。


「このお皿どうするの?」


「それはー……」


 少し思考を巡らして、一階の受付にいるツエルバへ聞こえるように二階の吹き抜けの手すりへ走る。


「ツエルバ!ここのお皿片付けといてください!」


「!!!了解だっ!」


 凛々しい声が店内に響くと、ツエルバは受付のカウンターから二階の手すりを越えて飛んできた。そして、浮いた手で手際よくお皿を回収して、一階の厨房へと飛び降りて向かっていった。

 その様子を、半開きの口で見ていたグラスが一階を覗く。


「は、早い!」


 興奮したように尻尾を振っては咲夜歌を見る。


「流石店長、って言ったところかしらね。」



 …



「さて。」


 咲夜歌はふたりを連れ、リーロのいる料理だらけのテーブル席に座った。リーロの隣には咲夜歌、グラスの隣はイミラがいる。壁際に移動されたリーロの前には、テーブルを介してイミラが座っている。


「リーロ、まずはなぜ人間知ってるのか教えてほしいわ。」


 咲夜歌がリーロに向けて言うが、食べる事に集中して聞く耳を持っていない。そんな時、咲夜歌に質問が飛んでくる。


「リーロっつったか。こいつ信用していいのか?」


 イミラが見据えるように咲夜歌の方を見る。咲夜歌は一瞬だけ驚いて、大丈夫大丈夫、と笑う。


「私を人間だと見抜いた唯一のモンスターだから!しかも、昔に人間が絶滅したってまで知ってるらしいし、ここまで来たら、この世界を知りたくなったの!」


「嘘だったらどうするんだ?咲夜歌を弄ぶただの与太話だったら?」


 咲夜歌を追い詰めるように、イミラはリーロよりも明るい赤い瞳で睨む。咲夜歌は、イミラの思いもよらない言葉に、えー、と困るように声を発する。少し考えるような素振りをすると、人差し指を立てる。


「そ、その時はその時で!ね?」


「……。」


 納得のいかないようなため息がイミラから出てしまう。片手で頭を抱えては、目の前の食べない料理に目を落とす。

 ふたりが少し会話していたのに、リーロはまだ料理を食べているようだ。ついに痺れを切らした咲夜歌は、ため息混じりに言葉を放つ。


「そろそろ食べるのやめてリーロ。」


「……お…おっけい。了解だ。」


 咲夜歌に言われ、手をつけていた料理をテーブルへ置く。少し反省しているのか、窮屈そうな体を縮こませて、黒いパーカーのポケットに両手を入れる。


「あー、じゃあまず何故人間を知っているのか話そう。咲夜歌以外の前のおふたりさん、ちゃんと話についてこいよ。」



 *



 リーロの言ったことを纏めると、まず、リーロは影族という族であり、長い年月生きてきたという。その名の通り、体や四肢も影のように真っ黒だそうだ。

 影族は、いつでも生きることができ、いつでも死ぬことができる種族らしい。さらに、姿や体は生まれたままずっと変わらないのだとか。

 リーロは、人間が一部生存している頃から生きていたそうだ。そして死ぬことなく、現在に至る。

 残る疑問は、なぜ人間は絶滅したのか、というところである。だが、これに関しては、リーロは全く口を開けてくれないでいた。あんな大きな口を持っているくせに。


「結局疑問が晴れるのは、二つだけってところかしら。」


 残念そうに咲夜歌は俯いてしまう。グラスが、晴れない顔でリーロを見る。


「なんで絶滅したのか知らないっていうこと?それとも、言いたくないだけ?」


 ちゃんと話についてきているようだ。いつも楽観的であるが、この話は重要だと理解しているようで咲夜歌も安心する。

 リーロは吸った空気を長いため息に変えて、俯き気味にグラスを見る。


「前者でもあり後者でもあるな。絶滅までの出来事も知ってるし言いたくもないって事だ。」


「え……どうしてよ。」


 咲夜歌が眉を顰める。暖かな日差しが届かないこのテーブル席に、固く冷たいような空気が醸される。


「…………。」


 リーロは黙ったまま俯く。しかし途端に、ゆっくりと影のように真っ黒な顔を上げ、こちらの方を向いた。


「お前まだ気づいてないのか?」


 そいつの低い声が一層低くなった気がした。咲夜歌は、そいつの訳の分からない言葉に首を振る。


「気づいてない、って……何に?」


「いいや、気づいてないならいいんだ。」


「……そう言われると気になるじゃない。」


 しかしリーロは小さく首を振って話そうとしない。今度は、前方にいるグラスとイミラに目を向けた。


「お前ら……半袖半ズボンの青年お犬がグラスで、細身なのにダボダボのピンクパーカー着てる兎がイミラってぇんだよな。」


「う、うん……。」


「もっといい言い方なかったのかよ。」


 グラスは肯定するように頷くが、イミラはリーロの言い方が気に食わないらしい。そこは別にどうでもいいと思うが。


「お前らふたり、咲夜歌とか見てなんか気づくことはねえかよ?」


 グラスとイミラは咲夜歌を見るが、そこにはなんの変哲もない普通の咲夜歌がいるだけである。グラスが、首を横に振った。


「僕は何も分からないよ。何かあるの?」


「俺も何も分からない。」


「……。」


 すると、急に黙りこくるリーロ。リーロの赤い瞳が少しだけ小さくなった気がした。


「……へ……ヘヘッ。」


 突然、黒いパーカーのポケットから両手を出し、丸い腹を抱えてはテーブルに置かれたたくさんの料理の隙間に突っ伏する。

 咲夜歌は怖くなって、リーロから少し離れる。同時に、リーロがグラスとイミラを覗くように顔を上げる。


「冗談だぜ……!じょうだん……!本気(マジ)になるから……おっかし……!!」


「…………。」


 リーロの言ったことが嘘だと明かされた咲夜歌達は、ただ呆然とリーロを見つめるだけだった。しかし、イミラだけは違ったようだ。

 元々睨むような目付きであったが、それが段々と鋭くなっていく。もちろん、その矛先はリーロに向けられている。


「おいデブ。」


 リーロの堪える笑いが止まる。今のイミラは、怒りに任せてはその赤い瞳でリーロを睨む。ソファに投げた左手が強い握りこぶしを作るのが見える。


「よくこんな真剣な空気で嘘が言えるな?」


 そうだ。イミラは、空気というものを一つ大切にしていた。そのままの意味ではない。近い言葉を挙げるなら、ムード、だろう。真面目な時は真面目に。遊ぶ時は遊ぶ。……遊んだところは未だ見たことないが。イミラは、この真面目な状態をぶち壊されたくなかったのだろう。

 リーロは突っ伏した体を起こし、一息吐く。笑いを堪えるような表情は無くなり、いつものにやけ顔に戻っている。


「すまんすまん。オレはそういう空気が苦手でな。つい、和やかにしようかと、な。……そうムキになさんな。ストレスがマッハに溜まっちまうぜ?」


「うるせえよ。」


 まるで知り合いと話すように馴れ馴れしく接するリーロに、イミラは怒りを露わにしている。食いしばっている歯茎が口の隙間から見えてしまっている。そんなに怒らなくてもいいと思うのだが。時々、イミラは分からない。


「何故絶滅のことを言わねえんだ?なにか疚しいことでもあるのか。」


「あー……いや……。」


 本格的に怒っているとやっと理解したリーロは、言葉が詰まる。この状況を見ていられない咲夜歌が、思わず口を出す。


「イ、イミラちゃん流石に言い過ぎじゃ」


「お前もお前で俺の事を"ちゃん"付けすんじゃねえ。」


 矛先が咲夜歌に向く。が、すぐイミラは拳を解いた手で頭を抱える。そうして数秒後、調子狂う、と呟くのが聞こえた。

 抱えた頭を戻すと、グラスの方に体を向ける。


「兄貴、すまん。降りてくれ。」


「え、う、うん……。」


 イミラに言葉で押されたグラスは、言われた通りテーブル席から降りた。壁際に座っていたイミラもそこから降りる。グラスに手をとると、リーロに怒りに満ちただろう鋭い目を向ける。


「お前とは話にならない。俺らはもう帰るからな。」


 そう言われてしまったリーロは、深いため息を吐くと、パーカーのポケットに両手を入れた。まだ真新しい壁へ、イミラを見ないように目を向く。

 イミラは次に咲夜歌の方を見た。咲夜歌は、イミラが怒っている理由が分からず焦っていたが、この時のイミラの言いたいことは咲夜歌にはわかった気がした。


「……ごめん、私……私も帰るわ。」


 すぐに荷物を持ってテーブル席から立つ。まだ壁へ目を向けているリーロに、咲夜歌はいたたまれない気持ちになる。


「ええと……その、また明日ね?この店で……ね……。」


 イミラがグラスの手を引いて歩き出すのを見た咲夜歌は、それに急いでつづいた。階段で一階に下りる前、咲夜歌はリーロのテーブル席に振り向いても、リーロは変わらず壁を見たままだった。



 *



 バスに乗り都市から歩いて家へ帰った咲夜歌達は、その間は一言も話さなかった。晩御飯には、グラスがなんとか笑顔で話していた。咲夜歌は頑張って反応はしたが、イミラはなんの反応もしなかった。

 咲夜歌は、部屋のベッドで体を投げ出して天井を見ていた。シャワーを浴びた後だった為、花のような香りが、フワッと匂って、いい匂いだと咲夜歌は思ったが、気分は良くなかった。


 人間の絶滅について知れなかった……。リーロは多分、言いたくなかったのかもしれないわ。きっと、そう……多分……。


 納得のいかない言葉で無理やり納得すると、咲夜歌はベッドから降りる。


 こういう時は気分転換よ。楽しいことを考えるの!


 机に向かっていくと、下の大きい引き出しから四角い何かを取り出す。それは、写真機。正しくは、魔法の写真機だが。

 久しぶりに手に取ったそれを少し眺めた咲夜歌は、画面を起動させて今まで撮った写真を見ようとする。


 現像ってどうやってやればいいのかしら……。機械とか必要だったり?


 そんな事を思いながら、ボタンを押しては写真を見ていく。

 だが、段々と咲夜歌は首を傾げていく。映っているのは、風景。風景。風景。すべて風景。


 ……あれ?イミラちゃんとかグラスちゃんも撮ったはず……だよね?


 急かすようにボタンを押す間隔が早まる。

 記憶が正しければ、咲夜歌は風景だけでなくモンスターもいたはずである。イミラやグラスだけではない。通りかかったモンスターも写っているはずなのだ。

 なのに、それが一体も写っていない。綺麗さっぱり、そこだけ切り取られたように。さらに、その写真自体には何も違和感はない。何も知らない人がこれを見ても、ただ風景を撮ったという情報しか知りえない。


 …………やっぱり、ない。


 その写真も、一体もモンスターは映り込んではいなかった。それが分かると、咲夜歌が最初の疑問が浮かんだ。


 私は……写るのかしら?


 そう思ってからの行動は早かった。机に写真機を立てかけ、十秒のタイマーを設定する。そして、レンズから離れて咲夜歌は立つ。


 そういえば、自撮りを英語でセルフィーって言うんだけ?


 そんな事を考えていると、写真機からフラッシュが焚かれた。すぐ、咲夜歌は画面から写真を確認する。


 ……咲夜歌は、写っていない。咲夜歌が立っていたところは、元からいなかったのではないかというほど綺麗に無くなり、代わりにその後ろの壁が写っている。


「やっぱり無くなってるわ……。」


 余程驚いた咲夜歌は、苦い顔で思わずそう呟いた。その時、部屋の扉からノックの音が聞こえた。

 咲夜歌は急いで写真機を元の引き出しに戻す。そうしたあと、走ってすぐ扉を開けた。

 扉の先にいたのは、イミラであった。パジャマに着替えており、まだ乾ききっていない白い被毛から爽やかな匂いが鼻に届いた。


「イミ……ラ……。」


 "ちゃん"を必死に言わないようにしている事が露骨に見えてしまっている。しかし、イミラは、別にいい、と咲夜歌に言う。イミラの目つきは、いつもより優しく見える。


「悪かった。お前や……リーロ、だっけか。そいつにもバカなことを言ってしまった。……すまん、怒ったら我を忘れるような頭でな。」


 咲夜歌は、目を丸くする。いつもと違うイミラに困惑しながら、口を開く。


「い、いいよ別に!私は!全然!気にしてないわよ!」


 咲夜歌の見え隠れする驚きに気づいたのか、イミラは、ははっ、と小さく笑う。


「明日、リーロと会うなら……悪かったと言っておいてくれ。俺は……」


「わかったわ!ちゃんと伝えるわよ。」


 どういう意図があってイミラがそう言ってきたか分からないが、本当に謝ってほしいのは確かのようだ。

 イミラの意思を受け取った咲夜歌は、しっかり頷いた。イミラはそれを確認すると、また控えめに笑った。

 すると、咲夜歌はまた良くない思惑を思いついた。ここでまた、いつもの咲夜歌に戻ったようだ。


「ねえ……もし、今からイミラに何やっても許してもらえる?」


「……はぁ?」


 イミラが、急にいつものような半目のような睨む目付きで咲夜歌を見た。


「場合による。」


「大丈夫!」


 咲夜歌はゆっくりと深呼吸する。まっすぐとイミラの赤い瞳を見つめると、勢いよくイミラに抱きついた。少しだけ背を低くしてイミラの首元のパジャマからはみ出た白い被毛に顔を埋める。

 咲夜歌は、いつものように解かれるのだろうと思った。しかし、イミラは抵抗すらしてこない。咲夜歌が疑問に思った瞬間、イミラの腕が咲夜歌の背中にまわった。

 今までとは違うイミラの行動に、咲夜歌は顔が赤くなっていく。

 そして、十数秒くらいそうしていた時、咲夜歌からゆっくりイミラから離れた。


「……もう終わりか?」


 珍しくイミラから優しくなった目で煽ってくる。慣れないイミラの行動に、咲夜歌は群青色の瞳を右往左往に動かしては顔を手で覆い隠す。


「そそそそれはああぁ……卑怯だと思うぅ……。」


「……ま、さっき悪いことを言ったお詫びだ。これくらい楽勝だよ。」


 イミラは一息吐くと、片手を肩まで挙げる。


「じゃ、そろそろ寝る。()()には気をつけろよ?」


 イミラは咲夜歌が言った悪夢のことをしっかり覚えているようだ。そこだけ強調するように言うと、イミラは足早に部屋へ戻って行った。

 咲夜歌は、指の隙間からその様子を見ていると、裏声で、おやすみ…と呟く。もちろんイミラにはその言葉は届いていない。

 まだ紅潮している顔を手で隠しながら、もう片方の手で咲夜歌は部屋の扉を閉めた。



 その日、自分自身のあの行動をした羞恥と、イミラのあの控えめな笑顔に、咲夜歌は深夜まで眠れなかった。



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