表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/84

自分自身


咲夜歌(さやか)。」


お母さんの優しい声に呼ばれた私は、声が聞こえたその方向に顔を向ける。私と同じ、白い髪。でも、私よりお母さんのほうが美しくていいなぁ、って思う。


お母さんの手には、小さなビンがある。中身は、うす明るい緑色の液体があって、ゆらゆらとゆれている。


「これを持っておいて。そして、絶対に飲まないで。いざとなった時は、これを誰にも知らない場所に埋めて。」


私はそのビンを受け取ると、お母さんは私の頭を優しくになでる。お母さんの目元に、くまができている。それでも、せいいっぱいの笑顔で私を見る。


悠貴(ゆうき)にも言っておいて。これを絶対に飲んじゃいけないこと。」


「……なんで?」


よくわからない薬を持たせられても、よくわからない。なんで飲んじゃいけないの?なんで私が持っていなきゃいけないの?


「……咲夜歌。ごめんなさい。」


お母さんはそう言って、私のことをだきよせた。私はその行動がいみわからず、とりあえず私もお母さんを両手でだく。


「その薬はね……ずっと生きていかないといけない怖い薬なの。その……」


お母さんは、鼻をすすりながら続ける。


「お母さんね……もしかしたら、 どっか遠くに行っちゃうかもしれない。だから、その時は、悠貴と仲良くね?」


「う、うん。」


私は、よくわからず、それでも悠貴とも仲良くしたいから、うなずいた。


「ありがとう……。」


お母さんは優しく私の背中を手で叩くと、私から離れようとした。


その時のお母さんは









顔が左半分、赤い液体で染まった頭蓋骨が見 : "







「ッ!!!!」


咲夜歌は目を見開き、勢いよく起き上がった。


ゆ……夢……。


呼吸を整えながら、今見た夢の状況を確認しようと頭を片手で抱える。


私の……お母さん。お母さんの顔が焼けてた。


いつの間にか出ていた涙を人差し指で拭くと、辺りを見回す。ここはどうやら、バイト先の飲食店の主人、ツエルバの部屋だ。前に一回、咲夜歌はここに来ていた覚えがある。


ツエルバが、少しはあたしのことを知ってほしい、という理由で連れられたのを最後、ここに咲夜歌は来ていなかった。咲夜歌は、とりあえずベッドから降りようと下半身をベッドから出した時。



ガチャ



扉の開く音が聞こえた。はっとして咲夜歌はその扉を見れば、ツエルバが浮かないような顔で入ってきていた。ツエルバは、咲夜歌が起きていることに気がつくと、心配そうに咲夜歌のもとへ駆けつけた。駆けたといっても、ツエルバに脚はないが。


「大丈夫か!?」


「は、はい。大丈夫、です。」


不意に膝から下を見ると、所々に包帯が巻かれており、その大半は少し血が滲んでいる。そこでやっと、咲夜歌はこの怪我のことや、地下室に通じる扉を無断で開けた事を思い出した。


「!そうだ!私……ごめんなさい!勝手にあの扉を開けちゃって!」


「ああ……いいんだ別にそこは。あいつに何かされたか?」


ツエルバの、その大きな目が私の顔を見てそう言った。浮いている大きい頭しかないツエルバが、今日は声のトーンがいつも以上に優しい。いつもはハリのある声であったのに。


「あいつ……あの骨のモンスターの事ですよね?」


「あぁ……まあそうだ。」


「……特に何もされてないです。」


本当は、ほんの少しだけ頬や首筋を触られたが、咲夜歌はこれを問題にはしていなかった。ツエルバは一息吐くと、いつものような凛とした顔立ちに戻る。


「今度からは気をつけてよ!あそこに入る時はあたしの許可を得てからだ!」


「は、はい!!」


開けていた窓の外から来る風の影響で、ツエルバの長く淡い水色の髪の毛が、ふわっと靡く。


「しばらくは安静にしてなよ。無理してバイトをやろうなんて言語道断だからね!」


「え、でもこれくらいどうってこと……」


膝から下を怪我しただけで、歩けない訳では無いようだ。それでも、ツエルバは変わらず厳しく言ってくる。


「だめだ!あたし一人でも店の切り盛り出来るし、怪我人を仕事させるほど忙しくもないしっ!」


「……わかりました。」


咲夜歌はツエルバにそう放たれ、結局仕事はしないことにした。


そういえば、あの骨のモンスター、名前を聞いてないわね……。


「あの、骨のモンスターの名前はなんて言うんですか?」


するとツエルバは、近くの椅子に座った。脚がない彼女は、自分の頭だけを椅子に置くことで座るようだ。


「あいつは確か、エルダートっていったかなぁ?あんまりあいつの名前は呼んだことないし、今みたいに"あいつ"って言って名前は言わなかったし。」


エルダート。それがあの骨モンスターの名前らしい。ツエルバは、少し苦笑いを浮かべながら話を続ける。


「変なやつでさ、急に、住まわせてくれって言われたんだよ。何回も断ったけど、根性がかなり太いみたいで、結局空き部屋だった地下室に住むことを許可させた。」


どうやらエルダートは、咲夜歌と同じ居候のようだ。


「その後はずっと地下室にこもりっぱなしだったな。いつの間にか家具とかパソコンとか、研究所とかにありそうな物ばかり置いてあって、笑っちゃうよ。んで入って飯のこと言っても無視、良くてこっちを向くぐらいだったから。びっくりしたよ?サヤカが地下室で倒れてたの見たらさ。あいつがやったのかと思ったもん。」


一気に喋りすぎてしまったツエルバは、ここで一息吐く。


「まあでも、正直言っちゃうとね、サヤカはあんまり見ないひとだから……。これからは気をつけてよ!あいつのこと。研究熱心なのはいい事だけど、あいつの場合は度が過ぎてるから。」


ツエルバは椅子から降りて、扉の方へ行く。扉を開けたと同時に、咲夜歌の方を見る。


「ゆっくり休むんだよ。」


「は、はい!」


咲夜歌の返事を聞いて頷いたツエルバは、扉を閉めて行った。咲夜歌は、このまま動かずに安静にしようと体を横にした。そして、咲夜歌が気になったことがひとつ。


あの夢……なんだったのかしら。



今まで見てきた夢で、もっとも脳に深く刻まれた夢だろう。咲夜歌は、今の夢だけは忘れなかった。


というより、忘れられないだろうが。





しばらくして、夕方になっていたことに気がついた咲夜歌は、急いで帰ろうとした。今から帰らなければ、家に着く頃には夜になってしまうからだ。


ツエルバの部屋から出て、まだ少し痛む脚を歩かせながら出入口の方へ向かうと、ツエルバがエルダートを連れて地下室から出てきていたのが目に入った。


人間の骨格をしている骨モンスターのエルダートは、咲夜歌が地下室にいた時と比べてかなり落ち着いている。


「ほら、謝って。」


ツエルバの圧力のある言葉に背中を押されたエルダートは白衣を着ていて、その高い身長を折って深く頭を下げる。


「さっきは本当にすまなかった!!」


咲夜歌は、まだエルダートに恐怖心を抱いていたが、そこまで引きずるわけにもいかないと思った。


「もう大丈夫です!あ、頭を上げて!」


「おい!」


エルダートの隣にいるツエルバが、声を上げる。同時に、エルダートの白衣を、ぎゅっと掴んで強引に頭を下げさせる。もっと頭を下げたエルダートは、ツエルバに耳打ちされる。


「今度からはもうサヤカに近づくんじゃねえぞ。わかったかオイ。」


が、内容が漏れて咲夜歌に聞こえてしまっていた。ツエルバの尖った歯が覗く。更には、尋常じゃないほどの圧力がこちらにも感じる。


そこまでしなくてもいいのに……。


咲夜歌は、少し同情するような思いでエルダートを見ていた。





予想通り、家に帰ってきた頃には夜になってしまった。犬獣人のグラスが作ってくれた晩御飯が異様に少ない。咲夜歌が帰ってくる前に、兎獣人のイミラと一緒に食べたのだろう。


咲夜歌はそれだけを確認すると、台所から去って二階にある自分の部屋へと荷物を整えるために向かった。





それから、残った晩御飯を食べ、お風呂に入った。そうしてまた部屋に戻った時、咲夜歌はとある事を思い出す。


そういえば最近、夢を見すぎている気がするわ。


夢を見る前の体調は、酷く疲れていた、という訳ではなかったはず、と咲夜歌は思う。しばらく立ち尽くすと、咲夜歌はこのことを日記に書こうと椅子に向かった。


お気に入りの万年筆を取って、赤い日記を開く。最後に書いたページの次にそれを書き留める。





「……よし。」


咲夜歌は日記に、正直気は進まなかったが、夢のことを書き終える。それに加え、今日あった出来事も。咲夜歌は椅子から立ち上がると、後方から扉が開く音がした。

振り返ると、相変わらず無愛想な表情のイミラが立っていた。寝る前だろうか、あのピンクと白の縞模様のパジャマを着ている。


「帰ってきてたのか。遅かったな。」


「まあね!」


咲夜歌は、やっとこの家の誰かに話ができて嬉しくなる。


「寝なくていいの?」


「寝ようとしたら物音が聞こえたからな。」


「あー……そういうこと。」


咲夜歌はベッドに座る。口を開きかけた咲夜歌は、結局何も出さずにため息に変えて口を閉じる。が、もう一回口を開く。


「実は最近ね、怖い夢ばっかり見ちゃってさー……。だから今日、一緒に寝てくれない?」


「駄目だ。」


「だよねーわかってた。」


イミラの断りを分かりきっていた咲夜歌は、仕方なくベッドに横たわる。イミラに背を向けて。


「電気消して扉閉めてね。」


「……。」


イミラは何も言わず、咲夜歌に言われた事を黙って実行する。まずは電気を消す。そして、イミラはドアノブに手をかけた時、咲夜歌の方を見た。

月の光のような筋がカーテンの奥から咲夜歌を超えて、イミラの足元で途絶えている。イミラは、面倒くさそうに放つ。


「おやすみ。」


「!!!っっおやすみ!」


思いがけないイミラからの言葉に、心が踊った咲夜歌は思わず振り返る。が、既に扉を閉めた後だったので、もうそこにイミラはいなかった。


ええぇぇなになになにデレですかあああぁぁ!!?ついにデレがきましたあああぁ!???自分からくるなんてえええぇもう確定ですねそうですよねえ!!?近づいてますよねぇ!!


そういえば咲夜歌はこういうやつだった。さっきまでは気の弱そうな少女だったのに、顔を赤く染めて両手で塞いじゃって。


ああああぁぁぁ~……ああいうのも好きかも……!確実でデレに近づいてるやつ?サイコウなんだけど!!!


恋する乙女。今の咲夜歌をそう呼ぶに相応しい姿であろう。ここら最近の咲夜歌は、重いような話ばかりが続き、気が滅入っている。咲夜歌の心身は疲れ果てているだろう。やはり、まだなのだ。



しばらくは、楽しい夢を見せてあげよう。




もちろん、調味料は咲夜歌自身の記憶と、私の記憶だけど。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ