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恋のアドバイス


カボチャ三兄弟のお食事会から数日が経った。あれから、お食事会を行った飲食店でバイトを始めたが、なかなかに良い結果になっている。ただ、咲夜歌(さやか)は、付き合えるようなモンスターがいない事に、多少不服を感じていた。


咲夜歌は、兎獣人であのそっけないイミラには内緒で、密かにあの優しく可愛い犬獣人のグラスにアプローチしていたが、本人は苦笑いして優しく断ってしまう。カボチャ三兄弟の方も気になっていたが、楽器のレッスンを口実にして近づこうにもかなりの時間を消費するだろう。


そう考えた咲夜歌は、一番身近にいた咲夜歌と同じ性別である女性の元へと足を運んだ。


きっと、なにか恋のアドバイスを言ってくれるに違いないわ!


根も葉もない根拠が、咲夜歌の足を動かす。そうしてたどり着いたのは、荘厳な雰囲気を醸す赤色の館。その玄関口でもある高い鉄の柵の外に、咲夜歌は近くにあるインターホンを押す。何回も。連打して。押す。


『うるさいわよ。』


「ごめんなさい!」


咲夜歌は茶目っ気のある顔でインターホン越しの彼女に謝る。彼女というのは勿論、この赤色の館の主であるエリサという獣人モンスターだ。





「は?恋のアドバイス?」


赤の館に入るなり、エリサに連れられ応接室へと来た。この館の執事のツェルから、咲夜歌とエリサに紅茶が提供されると同時に、咲夜歌は要件を話した。そうしてエリサから出た言葉がこれだ。


その白い眉をひそめて咲夜歌を赤と青のオッドアイで鋭く見つめる。やがて、ひとつため息を吐く。


「あなたは、私がアドバイス出来そうな人に見えるのかしら?」


「え……はい。エリサさんなら、なにかくれるんじゃないかなって、思ったんです。聞かせていただけませんか?」


話す相手がお嬢様という事もあり、咲夜歌は言葉選びに苦戦しながらも、なんとかアドバイスを聴けるように、慎重に目を見て話した。エリサは、紅茶をすすって変わらず鋭い目のまま咲夜歌を見る。


「私は異性と関わったことなんてほとんどないわ。強いてツェルくらい。残念だけれど、あなたに有益な恋のアドバイスをあげることは難しいわね。」


淡々と言われた咲夜歌は、肩をすくめてしまう。目の前に座っているエリサは、そんな咲夜歌をよそに獣毛混じりの茶色の長い髪の毛先を、人差し指でくるくる弄る。


忽ちに沈黙が支配する。それが気になって仕方ない咲夜歌は、思わず強引に口を開ける。


「っ……どんな事でもいいんですよ!そうね、じゃあ!どうやったら相手をこっちを近づけられるのか、とか!」


退屈そうに柔らかいソファに座っていたエリサが、若干、天を仰いで瞳をゆっくり右往左往に動かす。やがて、咲夜歌に瞳を合わせる。


「……身の回りの事を手伝ったりとかどうかしら。」


エリサは、退屈に座っていた体を綺麗に正す。


「私はあなたの私生活の事は知らないけれど、皿洗いだったり洗濯だったり、そういうのを相手と共に、もしくは自分一人で先に終わらせておく、そうすれば少なくとも好感は持てるはずだわ。」


「……もうやってます……。」


エリサからゆっくり視線を外しながら言いづらそうに、それでもエリサには聞こえるように小さく呟いた。咲夜歌は居候している身であるため、家事はしっかりとこなしているのだ。


「あ、そう。じゃあもう私が言えることはなにもないわね。」


そうしてまたエリサは退屈そうにソファへ体を預ける。咲夜歌は少し俯き、神妙な面持ちで顎に手を乗せて考えている。


エリサさんは、もう何も言えない……のね。次はどうしましょう……。


「ツェル。あなたからは何かないのかしら?」


「……(わたくし)、ですか?」


エリサの座ってるソファのそばに立っている真っ黒のスーツを着こなした執事のツェルは、少し驚いた様子でエリサの方に影になって見えない顔を向ける。何か話し始めた、と咲夜歌は顔を上げてふたりを見る。エリサは、ツェルと目を合わせて続ける。


「男からの目線も必要じゃないかしら?」


「……。」


それを聞いたツェルは、なるほど、と言うように頷いた。それから、白い手袋をした手で顎を支え、考える。ひとつため息が聞こえると、咲夜歌の方を向いた。


「私には難しいですね。私以外の男性がどういう生活をしているのかが分かりません。一人は除いて、ですが。……故に、私からもアドバイスはないです。知識不足で申し訳ございません。」


ツェルからの思わぬ言葉に、咲夜歌はとっさにフォローする。


「ま、まあ、仕方ないですよ!知らないのは仕方ないです!」


「それで、提案なのですが。」


フォローする咲夜歌を若干遮って、ツェルは人差し指を立てて言葉を紡ぐ。


「都会の方に図書館があるのはご存知でしょうか?」


「あ……はい。」


「そこで、恋愛に関する本を読んでみてはいかがでしょうか。」


「……。」


その提案を聞いて、咲夜歌は徐々に目を開けて笑顔になりながら口を開ける。


「なるほど!それも一つの手ですね!」


勢いよく立ち上がって、応接室の扉のドアノブに手をかける。そこで振り返って、ツェルとエリサに向かって笑顔で小さく手を振る。


「アドバイスありがとうございます!」


そう言い残すと、咲夜歌はこの応接室から走って出ていった。





「アドバイスではなく、あくまで提案なのですがね……。」


私は、館から疾風の如く走り去って行くサヤカ様を、窓から終始見つめながら独言を吐いた。それにしても、今日のサヤカ様は活動的である。何か良いことが起こる予兆でしょうか。


「私、あの子のこと、すぐ行動に移すところは高く評価するわ。」


お嬢様は、空に放つように言う。


「私も、異論はございません。」


サヤカ様の恋愛成就を密かに祈るとしましょう。






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