僕の愛する彼女の話
さて、1つ話をしよう。僕の愛する彼女の話さ。
え?どうでもいいだって?
まぁそう言わず聞きたまえよ。ほら、そこに座って。
…よし。では早速話そうか。
彼女との出会いは、もう5年も前になる。
あの頃の彼女は言わゆる一匹狼だと周りのみんなに言われていたよ。
もう20歳になるというのに、友達はいない、作ろうともしない…他人に一切の興味がなかったのか、誰かと話すことすら面倒くさがるような女の子だったよ。
僕はそんな彼女が苦手だった。
え?今はどうなのかって?
言っただろう、今から話すのは愛する彼女の話であると。
…まぁ聞いていたまえ。
ある雨の日だ。僕はいつものように友人達と話しながら学食で昼食をとっていた。
するとそこに、彼女が現れたんだ。
普段なら少し気にしたぐらいで、あとは友人達との会話を楽しむところだ。
だがね、その日は違ったのだよ。
彼女は、泣きそうな顔で僕の前に立って、僕だけを人気の少ない廊下の隅に連れていったんだ。
何が起こったのかと思ったよ。
その頃の僕と彼女の接点といえば、大学内でも極めて人気のない教授のゼミが同じということぐらいだったし、
もちろん、そのゼミで2人っきりなわけでもない。他にも4、5人の学生はいたからね。
だから、なぜ泣きそうだったのか、なぜ私を連れ出したのか、検討もつかなかった。
そんな風に混乱していた僕に彼女は言ったんだ。
なんて言ったと思う?
ふふふっ…おっとすまない。
いつ思い出しても愛しくてね。
なんとね、彼女は僕に、
猫を助けて
と言ったんだ。
ふふ、可愛いだろう。
僕は聞いた時、自分の耳を疑ったよ。
おそらく鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしていただろうね。
どうやら彼女は道端で見つけた猫に、毎日のように餌をやっていたらしい。
そしてその猫が突然いなくなってしまったそうなんだ。
彼女は心配になって猫を探した。するとなんと、木の上に登って降りられなくなっていたのを見つけたそうだ。
拍子抜けだったよ。自分で降ろしてあげればいいのではないか、とも思ったね。
だがね、彼女は運等音痴な上に高い所が苦手なのだと、赤面しながら教えてくれたんだ。
僕らはとりあえずその木の所まで急いで行ったんだ。
するとね、猫はなんと自分で地面に着地して、悠々と木の下で雨宿りしているじゃないか!
彼女は真っ赤になって慌てて謝っていたよ。
僕は大笑い。次第に彼女も僕につられるように笑い始めてね。
雨の中、2人とも傘もささず、猫をはさんで大笑いしているだなんて、ずいぶんおかしな光景だっただろうね。
彼女がなぜ僕に助けを求めたのかと聞いたらね、
僕がゼミの時に友人に、猫が好きだと話していたのをたまたま聞いていたようで、
それからずっと話してみたかったのだと恥ずかしそうに教えてくれたよ。猫を助けなければと思った時に僕の顔が真っ先に浮かんだのだとね。
僕はそれでイチコロだったよ。まさか自分がこんなにコロッとやられるとは思ったもみなかった。
彼女は一匹狼なんかではなく、ただの極度の人見知りだっただけなんだ!
本当に愛らしい彼女だよ。愛しくてたまらない。
え?そろそろやめろって?
どうしたんだい、顔が真っ赤じゃないか。
あの頃と何も変わらないな、君は。
そんなところも本当に愛しいがね。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
すごく個人的なことですが、芝居がかった口調の人、嫌いじゃないんです。