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CRYSTAL ISTORIA  作者: ぽん
覚醒と成長
54/190

テロスマヒへ

白虎の死体をケンタロスの馬背に乗せて、ベルガモ大森林からクペサニーへ戻った。

依頼主に白虎を引き渡し報酬の20万ガリッドを手に入れ、ケンタロスの背中に乗ってアルカボルドへ向かう。

帰り道でもライフとケンタロスの機嫌は悪く、雨に打たれながらずっとイーゼとディオネの愚痴をこぼしていた。


アルカボルドに着いて双子と合流する。

2人はサンドラの港まで荷物を運ぶ依頼を請け負い、報酬の5万ガリッドを手に入れたそうだ。

何回もアルカボルドとサンドラの港を往復したらしくヘトヘトになっていた。


僕達も稼げるだけ稼げたし、5万ガリッドはそのまま2人にあげる事にした。

セルドは山分けした2万5千ガリッドで最強の武器を買うと叫びながら商店街へ走って行った。

悪いけどあの金額では最強の武器は買えないだろう。


「じゃあ、私も少しお店を見てきますね。」


僕達へ軽く頭を下げ、セルナも雨の中商店街へ足を向ける。

その後姿を眺めていた時、丁度僕も思い出した事があって彼女を追いかける。

ケンタロスとライフには先にアルカボルド城の図書室組と合流して貰う事にした。


「ラスタンさんもお買い物ですか?」

「うん・・・ちょっとセルナに教えて欲しい事があって。」


後ろを振り返り、ライフとケンタロスがいない事を確認する。


ずっと買えずにいた、ライフへのプレゼントを今こそ買う絶好の機会だ・・・!

セルナは女の子だし何を貰ったら嬉しいかきっと分かるはず。


「ラスタンさんのチョーカーみたいな、誕生石のアクセサリーはどうですか?

 魔力も蓄えられるし!」


・・・誕生石か。

いいアイディアだと思ったけれど、ライフの誕生月は彼女自身も知らない。

彼女の短剣の色がもしかしてと頭をよぎったけれど、そうじゃない可能性も大いにある。


「だったら、ラスタンさんと同じ誕生日にしちゃえばいいんじゃないですか?

 水晶の誕生石って確か、兎月でしたよね。」

「これは父さんのなんだ。

 僕は犬月だから・・・・・・もう来月か。」


いつの間にか秋が近付いていた事に少し驚いた。

ちょっと前までは春で、僕が家を出た頃だったのに。


「犬月は確か、サファイアでしたね・・・青くて綺麗な鉱石ですよ。」


セルナの言葉にライフの瞳を思い出す。

その瞬間に僕の意思は固まり、2人で鉱石のアクセサリーを扱う露店を探した。


魔力も蓄えられる物となれば値段は2倍に跳ね上がっていたけれど、そんなに大きな鉱石を買う訳でもないので大した額では無かった。

プレゼント用に包んで貰ったそれをリュックにしまい、僕の用事が終わった後はセルナと一緒に店を見て回った。


「・・・ラスタンさんって、もしかしてライフ様の事好きなんですか?」


昼食兼おやつ代わりの菓子パンを食べ歩きしている時にセルナが唐突に聞いてきた。


「な、何言ってるの・・・。」

「やっぱりそうなんですね、顔赤いですよ。」


笑顔のセルナから顔を背けるも、ばっちり見られた後では遅かった。


正直自分でも分からない。

昨日といい今日といい、意識してしまう出来事が多かっただけなのかもしれないし。


・・・僕は、彼女を好きなんだろうか。


「ふふ、憧れちゃいますそういうの。

 ライフ様も前ラスタンさんに買ってもらった星型の髪留め、得意げに自慢してましたし。」

「・・・そ、そうなのっ!?」

「初めて人から貰った物だからって、お気に入りらしいです。

  なかなか良い感じですよね!」


クフトーで買ってあげたピンの事だろう。

さっき買ったブレスレットよりも断然安い物で、数百ガリッドしかしなかった。

そんな物でも大事にしてくれていると思うと嬉しいなぁ。


「ライフ様、そのプレゼントも気に入ってくれるといいですね。」

「うん・・・色々ありがとう、セルナ。」


空も暗くなってきたので、僕とセルナは街から引き返して城へ戻る事にした。

その途中、後ろからからセルドが大声を上げながら駆けて来た。

背中に何か掛けている。


「おーセルナいたかー! 丁度良かったぜ!

 これ、お前にやるよ。」


セルドが背中から外してセルナへ渡したのはクロスボウだった。

木製だけれど安物には思えないがっしりとした作りだ。


「これ・・・買ってくれたの?」

「おー、俺の欲しい武器は無かったからなー。

 矢も少ないけど買っといたし、帯紐もついてるから背中にかけられるんだぜー!」

「いくらしたのよ・・・もしかして全部使ったんじゃないでしょうね。」

「うはは!! 良い武器は高ぇからなー、しょーがねーんだぜー!」


セルドは歯を見せて笑いながら、セルナの背中へクロスボウと矢筒をかけてやった。


「おめーあんまり重い物投げたりするの、嫌だろうと思ってよー。

 これならよー、引き金引くだけだしよー、威力もそこそこあるって武器屋のじっちゃんが言ってたぜ。」

「そんなに考えてくれなくてもいいのに・・・でも、ありがとう。」


セルナを思う兄らしさを感じて、胸が温かくなった。

いつもは真逆のような2人だけど、セルドにもちゃんと兄らしい一面があったんだなぁ。

溜め息をつきながらもセルナの顔は嬉しげだった。


城門の前で5人と合流して、僕達は夕食を食べに酒場へ向かう。

どうやら図書室組にも進展があったようで、昔のルイーガについて少し分かった事があるらしい。


隣同士の2つのテーブルに分かれ、皆で今日の事を報告し合う。

ルイーガは戦争で死んでしまった事、そして彼を知るディオネの事。

ルイーガがこの世にちゃんと生き返れる鍵となる場所を、ディオネが知っている事。


そしてケンタロスのせいでその場所を教えて貰えなかった事。


「何で俺のせいになってるんだ。」

「確実に君のせいだよ・・・あんな事言うから。」


あの時僕に向けられた複数の視線を思い返す度に気分が悪くなる。

イーゼとディオネには勘違いされたまま別れる事になってしまった。


「ったくよぉ、面倒臭ぇ事しやがるぜこの草野郎は。」

「あの女がラスタンに馴れ馴れしく触るからだ。」


ケンタロスは僕の隣で眉をひそめながらサラダを頬張っている。


「テロスマヒ平原・・・今は砂漠になってるが、そこに行けば何か分かるかもしれないな。」

「死んだ場所に手がかりか・・・そう言やぁ、セルドとセルナもエペドフシーで死んだのか?」


ルイーガの問いかけに、隣のテーブルで料理を食らう双子が同時に頷く。

それを見たルイーガは顔を前に戻して何やら考え始めた。

心を嗅げない僕でも、真正面のルイーガの顔を見ていれば何を思っているかはすぐ分かる。


「無駄足かもしれないけど、マセラティールに行くまでまだ日数もあるし行ってみようよ。」


ルイーガだけでなく、ケンタロスやリークスも僕を見る。


「・・・気持ちはありがてぇが、大陸続きとは言え大分距離があるみてぇじゃねぇか。

 獣化した俺ならともかく、お前さん達の足で往復して間に合うのか?」


アルカボルド大陸は広い。

地図で見れば、城と城下町を合わせて葡萄ひと粒のようなものだけれど。

そのひと粒分の域ですら半日では見て回れない程だから、大陸の中央から最南へ伸びる砂漠へ辿り着くのには相当時間がかかるだろう。


「・・・俺は図書室で本を読みたいから行かないぞ。」


不参加を最初に表明したのは隣のテーブルにいるリークスだった。

僕を真っ直ぐ見ているその力強さから見るに、意思は相当固そうだ。

リークスの横に座っているアージもげんなりしているから、きっとリークスと一緒にいるのだろう。


「乗せてってもらえないかな。」


勿論僕は一緒に付いて行くつもりだった。

砂漠を見たいのもあったし、ルイーガの記憶が戻ったところを見たいのもあった。

突如僕の言葉に反応したケンタロスがテーブルを強く叩く。


「ルイーガに乗る位なら俺に乗れ、こいつに近付くんじゃあない!」


今朝目撃した光景を思い出したのか、ケンタロスが険しい顔で僕を睨む。

・・・何をそんなに警戒しているのか。


ケンタロスから目を逸らし、ルイーガの隣に座っているライフを見る。

どうやら話についてこれてなかったようで、1人黙々と料理を口に運んでいた。


僕は砂漠が何であるかから彼女に説明を始め、そこにルイーガの記憶を取り戻す鍵があるかもしれない事をゆっくり話した。

ライフは無表情のまま頷き、また料理を食べ始めた。


セルドも行く気満々だったけれど、反対にセルナは遠慮していた。

リークスとアージと一緒に図書室で過ごしてみたいそうだ。


面子が決まれば、食後すぐに出発する事になった。

麦酒を数杯飲んだだけでルイーガも酒を控える。

簡易食料を除いてケンタロスと僕の荷物をアージに渡して財布から宿代と飯代を払うように言い、テロスマヒへ出発するグループは酒場を後にした。


雨が降っていなければ星が瞬いていたのだけれど、今日の空は真っ黒だ。

月の光もなく辺りは暗闇に包まれていて、雨のせいで人気も無い。

そのまま南へ街を突っ切って街門から外へ向かう。

大分距離があり、数十分はかかった。


雨を凌ぐ物を何も用意していないので、僕達は既にびしょ濡れだった。

真夏の蒸し暑さのおかげで何ともないけれど、紫色のノースリーブを着ているライフを傍から見ているだけで寒くなる・・・当の本人は元気そうだったけれど。


門を出てからは獣化したルイーガにライフが、ケンタロスには僕とセルドが跨る。

駆け出したルイーガを追いかけようと、セルドは僕の前でケンタロスの鬣を強く引っ張りながら掛け声をかける。

セルドに合わせて走り始める様子を見ると、意外とケンタロスは子供好きなのかもしれないと思った。


石畳の街道は途中で消え、土の道に変わった。

こっちの方が走りやすいと言ったケンタロスの通り、ルイーガと離れていた距離が少しずつ縮まっていった。


「夜通し走るつもりなのかあいつ。」


前を走るルイーガの勢いは落ちることが無く、こちらを1回も振り返らない。

ルイーガの体力的に平気だとは思うけれど、あの速さでは乗っているライフも眠る事が出来ないだろう。

かく言う僕たちも同じ状況に変わりは無い。


過ぎていく景色も暗闇の中にぼんやりと見える程度で楽しむ事も出来ない。

そしてそろそろ・・・僕の尻の痛みが限界に近付いてきている。


セルドの後ろから必死に鬣を掴んでいるから落ちはしないものの、駆け足で僕の尻が何回も馬背に叩きつけられているのだ。

鐙があれば踏ん張って尻を上げられるけれど、鞍自体が無いのでそれも出来ない。

何故セルドは平気なのだろうか不思議でしょうがない。


ケンタロスに言って低飛行してもらう。

ゴム製の鞍を買わないといけないと思った。


ケンタロスの言った通り、ルイーガは夜通し走り続けた。

暗闇から獣が飛び出してきた時もあったけれど、目に入っていないかの如くルイーガの足は止まらなかった。

ルイーガを追いかける獣もいつしか諦めて姿は消えてしまっていた。


いつの間にか雨も上がり朝日が地平線から顔を出す頃、やっとルイーガが走る事をやめた。

ケンタロスも地面に降りてルイーガと並んで歩く。


「腹が減っちまったな。」


犬歯を見せてルイーガが笑う。

彼についていったケンタロスも凄いけれど、やっぱりずっと走り続けられるルイーガの体力には感服する。

持続力の弱い肉食獣の血が流れているルイーガが何故こんなにもタフなのか。

息切れしていたのに数分も経てばいつもの呼吸に戻っていた。


それよりももっと驚いたのがルイーガにしがみつきながら寝ていたライフだった。

どうやったらそんな技を身に付けられるのか。


皆で座って、持ってきた干し肉を皆で分け合って食べる。

ケンタロスはそこら辺の草を食べるらしい・・・大丈夫なのかな。


食べ物の匂いにつられてやってきたのは魔獣ではなかった。


狼よりも小柄な、淡い黄褐色をしたイヌ科の動物だった。

強膜は黄色く瞳は黒い、普通の野生動物だ。

4匹で僕達の周りをうろちょろして様子を見ている。


襲ってこなければかわいいもので、僕はかじっていた干し肉をその子達へ投げてやった。

4匹は群がって我先にと小さな肉を引っ張りながら、僕達から離れていった。


彼等はいつも何を食べているのだろう・・・草食動物も生息しているのだろうか。

アルカボルドから大分離れ人の手も行き届いていないこの地で、紫瞳を持たない動物達が住み着いたのかな。

ミルディヴの森の中でもよく動物を見ていたけれど、ルトナムやイータルコルムの大陸では全く見なかった。


魔獣が住み着いている所からは野生動物も追われてしまうのだろう。

そんな事をぼんやりと考えながら消えていった4匹の群れを見つめていた。


「躊躇せずよく餌をやれるな、動物が好きなのか?」


草を食んでいたケンタロスが僕の一部始終を見ていた。

馬の姿でもぐもぐ食べている様子がいつもと違って可愛くて、思わず微笑んでしまう。


「動物って、人と違って本能のまま自由に生きてるところが凄く美しいっていうか・・・。

 それにあの独特の匂いも堪らないよ。」


嫌いではない、むしろ好きな方。

言葉を持たずとも分かり合い、そこには礼儀も拘束も無い。

人に飼われているものも嫌いではないけれど、野生の眼をした彼等には憧れのようなものを抱く。

多分これは、僕がこういう性格だからなのだろうけど。


「あとはやっぱり、触った時の感触だよね・・・モフモフしてたり、スルスルしてたり。」


体毛や鱗の感触も人には無い独特のものだ。

むしろそれが1番の理由かもしれない。


若干興奮した僕の鼻息が少し荒くなる。


「そんなに好きだったとは知らなかったな。

 俺も触っていいんだぞ。」


馬の姿のまま、鼻を僕の方へ伸ばしてケンタロスが目を瞑る。


立ち上がってケンタロスへ近寄り、首を撫でてみた。

指以外の箇所はオブシディアンの篭手で覆われているけれど、指から伝わる感触と体温は僕にしっかり伝わってくる。


「ケンタロスよりもルイーガの方がモフモフしてるんじゃねーか?」


セルドの一言で僕の動きが止まる。

ルイーガへ振り向けば、獣化した彼が僕をきょとんとした顔で見つめていた。

ライフの隣で体を投げ出してリラックスしている。


「お触りなら1回5000ガリッド頂くぜ。」


そう言いながら口を開いて大声で笑う。

殺気を放っているケンタロスを放置して、僕はルイーガの体に近付いて触れてみる。


案外体毛は太くて固かったけれど、横長に伸びた頬部分のもっさりした毛はふわふわだった。

雄は戦いで負傷する可能性が高くなるから、頬は雌よりも皮が厚くなっているって、どこかで聞いた事がある。

思わず夢中で頬を触り続ける僕に感化されたのか、セルドとライフもルイーガを撫で回す。


「これが強い人獣族の手触りか・・・覚えたぜー!」

「毛並みは関係ないと思うけど。」


ルイーガは目を瞑り黙って触られている。

やっぱり撫でられるのは気持ちいいのだろうか。


休憩後、再び僕達は南を目指した。

次第に緑が消えていき、ひび割れた土の大地が広がり始める。


リークスが言っていた砂漠という言葉でイメージしていたものとは違った。

巨大な橙色の岩山がそこら中に聳え立っていて、地面にも小さな岩がごろごろと転がっている。

足が埋まってしまうようなさらさらした砂は無く、干からびた土は歩きやすい。


問題なのは暑さだ。


照りつける太陽と共に気温はぐんと上がり、黒い鎧を全身につけている僕の体はとても熱くなっていく。

汗があっという間に噴き出し喉が渇く。

ライフが魔法で出してくれた氷も数分すれば蒸発してしまうし・・・。


広大なテロスマヒ砂漠をルイーガを先頭に探索するも、彼に異変が起こる事は無かった。

暑さを凌ぐ為、僕達は一旦岩山の影に避難する。


「何にも感じねぇ・・・やっぱり無駄足だったか。」


うな垂れるルイーガにかけてやれる言葉も無く、僕達は思い思いに景色を眺める。

まだ隅々まで調べた訳でも無いけれど、数日分の飲食物は持ってきていないし長居は出来ない。

折角記憶を取り戻せるかと思ったのに。


「そんな事はないよ・・・ここで合ってるさ、あんたの記憶を取り戻す場所は。」


岩山の上方で声がした。


見上げれば岩山の一角で片膝を立てて座りながらこちらを見つめていたディオネさんがいた。

ディオネさんは立ち上がり、僕達のいる場所へ飛び降りてきた。

着地した彼女の周りを軽く砂埃が舞う。


「まさか死んでも会えるなんてね・・・なかなか面白い話だ。」


ディオネさんはまっすぐルイーガを見つめていた。

昨日の夜話した人だとルイーガに耳打ちする。


「・・・すまねぇが、俺はお前さんの事を知らねぇんだ。」

「記憶を取り戻せばあたしの事も思い出すさ・・・あたしが今あんたを知ってるようにね。」


僕達へ背を向け、ディオネさんがどこかへ歩き出す。

どうやらその場所を知っているらしい。

僕達は黙って彼女を後をついていった。


「イーゼは一緒じゃないんですか?」

「・・・いるよ、これから向かう場所にね。

 頑張って魔法陣を描こうとしてたけど、この地面の固さだから描けないと思うよ。」


苦笑するディオネさんから視線を外し、後ろを振り返れば顔をしかめている男女がいる。

ライフの不快を表す表情はいつの間にかレベルアップしていて、見るからに不機嫌そうだ。

ケンタロスも言わずもがな、いつでも体から火花を散らせそうな殺気を放っている。


「おめーも強ぇのかーっ!?」


いつの間にか僕とディオネさんの間にはいってきたセルドが、目を輝かせながらディオネに話しかけていた。


「はは、どうだろうなぁ・・・少なくとも今のルイーガには負ける気はしないけどね。」

「嘘だろ・・・ル、ルイーガよりも強ぇのかー!?」


・・・まさか。


ケンタロスと戦った時は彼よりも強さを感じたけれど、ルイーガには流石に敵うはずないだろう。

ましてや彼女は女性だ、ルイーガの力には到底及ばないと思った。


思ってしまったのが悪かった。

僕とディオネさんの目が合った時、彼女の瞳は一瞬で鋭くなった。


それは瞬間だった。

セルドを挟んだディオネさんが一瞬で消え、最後尾のルイーガの目の前に姿を現す。

俯いて歩いていたルイーガが顔を上げるのと、僕達がディオネさんの姿を捉えたのは同時だった。


獣腕を業火が包み、ディオネさんの拳がルイーガの顎を突き上げた。

浮いたルイーガの体は後方へ飛んでいき、ひび割れた大地へ背中から落ちていった。


「ってぇ・・・いきなり何しやがるてめぇっ!!」


身を起こしていきり立つルイーガを見下ろしたディオネが笑う。


「あの2人が嘘臭いって匂いをプンプンさせてたから、見せてやろうと思ってさ。」


ディオネさんの親指が指しているのは僕とセルドだった。

お互いに身を寄せ合って首と前に出した両手をぶんぶんと振る。

ルイーガは顎をさすりながらこちらを睨みつけていた。


素早いながらも、ルイーガを吹っ飛ばせる程の力。

マカイロドゥス族とはこんなにも強い種族なんだろうか・・・まるで戦闘民族だ。


再度先頭に立ったディオネさんに付いていってから、数十分が経った。

景色は全く変わらず、橙色の岩山と渇いた大地、そして真っ青な空がずっと広がっている。

その2色の中、鮮やかな緑色の地面が前方で目に入った。


ルイーガとケンタロスが横に並んだ位の広さ。

その小さな草原には水も無かったけれど、一際目立つ1本の杖が中央に突き刺さっていた。


先端で水色に輝く大きな丸い球を、三日月形の金属で固定してある。

その横で膝を抱えて座っているイーゼが僕達を睨みつけていた。


「・・・ディオネがどうしてもって言うからしょうがなく来たのよ。

 用が済んだらさっさと帰りなさいよ!」


イーゼは立ち上がりディオネの傍へ寄る。

あからさまに僕達を避けているのが分かった。


「この杖は、あの戦争の時にエルフ族が使ったもんだ。

 死人の記憶がこの中に入ってる。」


ディオネが杖の先端を撫でながら僕達へ顔を向けた。

こんな目立つ所にあったら誰かに引き抜かれてしまいそうだと思ったけど・・・こんな場所に立ち入る人も早々居ないかな。


ルイーガがゆっくりと杖に近付き、大きな球を見つめる。


「・・・俺の記憶もこん中にあるのか?」

「あたしの記憶もあった位だから間違いないだろう。

 早く触って全てを思い出しな。」


長い耳毛を人差し指で絡めながら言い放ったディオネさんの言葉に黙って頷き、ルイーガは水色に輝く球に右手をそっと触れた。

セルナです、こちらではお久しぶりですね!

アルカボルドの図書室は膨大な本の数で、難しい古文書とか、魔法の詠唱方法の本とか種類も数え切れない程あるんですよ。

アージさんはこういうの苦手みたいで、私によく話しかけてきます・・・ふふ、退屈なんですね。

リークスさんは必死にテロスマヒ戦争について調べてますけど、記載された本が空狐様のあの1冊しか見つけられなくて難航してるみたいです。


・・・え、テロスマヒ戦争について詳しく聞く為に空狐様の所へ行く・・・?

ア、アージさんまで目を輝かせて・・・やっと図書室から出られるって・・・う、う嘘でしょう!?

またあそこに行くんですか!?

もうっ、私がここで喋るといつも空狐様の事ばっかりじゃないですかぁ!

あそこには良い思い出が無いから私はここで待ってます・・・いえ、女の子1人ですけど置いて行ってください!

・・・そういう気遣いしないでいいですからぁっ!


次回は何とルイーガさんが話者です!

ルイーガさんの記憶、戻るといいですね!

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