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CRYSTAL ISTORIA  作者: ぽん
愛に生きる者
20/190

天馬と海獣と雷と

「ケンタロス!」


後を追って手すりから身を乗り出し、海を左右に見渡す。

海の中に入ってしまったのか、もう姿が見えない・・・!


獲物を今かと待ち侘びる魔獣の群れが跋扈しているのに、これじゃ投身と変わらないじゃない!

失意のまま海を見つめていた僕の右にルイーガが並ぶ。


「おぉおぉ、とうとう天馬さんになっちまったか・・・どわははは!!!」

「ル、ルイーガッ! そんな事言うなんて・・・。」


ルイーガの心無い言い様に頭を向けると同時に、彼の手が僕の頭を鷲掴んだ。


「よく見ろや、見るのはそっちじゃねぇよ・・・こっちだ。」


同時に頭を左上へと持ち上げられた。

僕の視界は海面ではなく、灰色の雲が広がる空へと切り替わる。


幻でも天に昇っていくケンタロスを見るのは心苦しい。

彼は今天馬になって、馬体の背から生えた翼を羽ばたかせて・・・。


「・・・あれ?」


両目を強く擦って、もう1度同じを景色を見直す。

ぼやけた視界だったけど、ピントが合わさって鮮明にケンタロスの姿を捉えた。


空中でいつの間にか生えた翼を上下に扇ぎながら、さっきの僕と同じように海面の奥をキョロキョロ見渡している。


「な、なんだ、生きてたんだ・・・。」


安堵の溜息をつき、ケンタロスを見守る。

彼が探しているのは親玉だろうけど、一向に海中から気配を見せない。

また船底から船体を転がそうとしているのだろうか。


勇敢な船員達が数人、シャチの魔獣へボウガンの矢を射っている。

そんな彼らの足元には、放棄され散乱しているボウガンと矢が散らばっていて。


・・・逃げ出した船員達が置いていったものだ。

僕も手伝えるかもしれない、ボウガンなら・・・!

咄嗟に拾って、彼らの見様見真似で構えてみる。


剣意外の武器なんて、使うのは初めて。

だから当たり前だけれど・・・僕の射る矢は魔獣を素通りしてまっすぐ海へ飛んでいったり、弦とうまく噛み合わず円を描いて落ちていってしまう。


「うぅ、上手に出来ない・・・!」

「がははは!!! へったくそだなお前さんよ!」


ルイーガがおもむろにデッキに落ちている矢を拾い、そのまま手すりからシャチへ勢い良く投げる。

豪快過ぎでしょ・・・!


けれど投げた矢は見事にシャチの背に刺さり、もがき暴れたシャチは暫くしてひっくり返って動かなくなった。


「う、嘘っ・・・!

 ルイーガ凄いね・・・!!」

「どわははは!!」


海面に浮かぶシャチの死体はさっきよりも確実に、着実に増えていった。

動いているシャチの方が少ない位だ。

怯えて逃げ出した船員達も、少しずつラウンジの中から姿を現し、ボウガンを拾って戦闘へ戻ってきてくれた。


ケンタロスへ手を振ると、向こうも斧を振ってこちらへ飛んできた。

油断できないのか、辺りに注意を払っている。


「逃げたのか?」

「いんや、まだ下にいるぜ・・・手下が殺されてカッカしてるから気をつけろよ。」


一同が海面を見つめる。

波は穏やかになり、既に魔獣達は1匹も動いてはいなかった。

暫くして、静まり返った船内の床がまた静かに揺れ動き始める。


「・・・船の頭から来るぜ!!」


ルイーガが誰よりも早く勘付き、船員達にも聞こえるように叫んだ。

船員達はそれを聞いて手すりにしっかりと掴まる。

ケンタロスも翼を大きく広げて羽ばたき、船首へと素早く飛んでいく。


途端に船首が上方へ突き上げられ、船外へ投げ出されそうになる。

垂直までとはいかないが、かなりの角度である事は確かだった。


皆必死で手すりにしがみつく。

ルイーガが教えてくれなかったら、僕と船員達は今頃海の中だった・・・。


船体が振り子のように前へ後ろへと揺れる。

僕達からは見えないけど、ケンタロスはうまく親玉に攻撃できただろうか。


船への攻撃はこれが最後だった。

揺れは小さくなっていき、立ち上がれるまでになった。


でも・・・。

手すりに両手でしがみついていたから、僕達が持っていたボウガンは全て海に落下してしまった。

・・・もう、船からは傍観するしかない。


ルイーガと船首へ移動し、ケンタロスを探す。

彼の姿を確認できた途端、彼目掛けて海中から親玉が飛び掛ってきた。


図体の割りに俊敏だが、空中を自由に移動できるケンタロスには及ばずに避けられる。

そして体を無防備に晒した親玉を見逃さず、ケンタロスの両手斧が親玉の胴体を何回も斬り付けた。


甲高い鳴き声を出して、巨大な魔獣は海の中へバランスを崩しながら落ちていく。

落ちた衝撃で波が高くなり、船を大きな揺れが襲う。


どこからまた飛び掛ってこられてもいいように、ケンタロスも海原から視線を外さない。


戦況は明らかに有利だったし、あの親玉をケンタロスが倒してくれるのも時間の問題だと、デッキに立って見守っている皆がそう思っていた。

けれど・・・彼を背後から襲ってきたのは親玉ではなく、それが海中から撃ってきた、先ほどの強力な水鉄砲だった。


一瞬でケンタロスの体を直撃し、ケンタロスの動きが止まる。

それを見越したかのように親玉シャチが彼の真下から口を開けて襲い掛かった。


ギリギリ避けたかに思えたたけれど、翼の片方を噛み付かれていた・・・!

ケンタロスは翼を咥えられたまま、親玉と一緒に海の中へと消えてしまう。


「ケ、ケンタロス!!」


咄嗟に名前を叫んで手すりから身を乗り出した。

返事は当然なく・・・海もまた静かになり、船内も粛然としていた。


ルイーガも何も言わずに親玉が消えた海面を睨んでいる。

ケンタロスが吐いたと思われる息が泡となってそこへ浮かび、消えていく。


泡の数はどんどん少なくなっていく・・・どうしよう、このままじゃ・・・。

このままじゃ、ケンタロスがっ・・・!!


その時、景色が一瞬、白で埋まった。

・・・光?


ふと空を見上げると、黒に近い灰色の厚い雲が上空を覆っていた。

いつの間にこんなに暗くなっていたんだろうか・・・。


さっきの光は・・・もしかして、雷?

確かにいつ落ちてきてもおかしくなさそうな気配だけど。


頬に静電気が走ったような感覚があった。

その直後に僕が見たのは、雲から一直線に伸びた光のような、白い柱。


大樹ような柱が、眼下の海原・・・ケンタロスが沈んでいった場所へ突き刺さっている。

辺りは稲光に包まれ、白と黒の2色しか存在しなかった。


次の瞬間、鼓膜が破れるなんてものじゃない、次元を超越したような雷鳴が轟いた。

耳を塞いでも音の大きさは変わらなかった位の、とても激しい雷鳴・・・船にも衝撃がビリビリと伝わってくる。


数秒の出来事だった。

大きな雷の柱は消えて、ただ波だけが荒々しくうねっている。

あんなに覆っていた雲も・・・風に吹かれたように散っていく。


「・・・今の雷、何だったの・・・?」

「さぁな・・・天気が気まぐれに味方してくれたのかもしれねぇな。」


大笑いするルイーガと一緒に、海面を暫く眺めていた。


・・・海中から大きな物体が浮き上がってくる。

茶色く見えた巨大なそれが完全に海に浮かんだ時に、親玉のシャチだと分かった。


あの巨大な雷の直撃を受けたんだろう、ほとんど丸焦げになっている。

すぐ後ろで見ていた船員達から歓声が上がった。


シャチの親玉は誰がどう見ても死んだ。

でも・・・僕はそんな事、どうだって良かった。


海へ引き摺り込んだ親玉が浮かんできたのだから、きっと彼も上がってくるはず。

そう思った通り、すぐに小さな白い影が海中から姿を現した。


頭が勢い良く海から飛び出して、息を吐くと同時に思い切り吸い込む。

しんどそうに目を瞑って、肩を上下に動かしていた。


「ケンタロス!」


何回この言葉を叫んだだろうか。

今度はちゃんと返事が返ってきた。


「大丈夫だ!」


斧を握った手をこちらへ振り、疲れたように笑った。

早く船に上げてあげなきゃ・・・!!


救助は難航だった。

羽も海水を含んで重くなり飛ぶ事が出来なかったし、救助用の浮き輪を何個投げても意味を成さなかった。

下半身通りというか・・・彼の体重は相当な重量だったのだ。


最後の手段として救命ボートを用意してもらった。

ケンタロスが乗ってもギリギリ沈まないものだったので助かった。

腹に、腰にとロープを巻きつけてもらい、それを船員と僕、そしてルイーガの力も借りてようやく船に引き上げることが出来た。


意識はまだあったものの、救助に時間がかかってしまってケンタロスの体はとても冷たくなっていた。

すぐさま救護班に支えられ、彼の姿はラウンジの中へと消えていった。

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