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CRYSTAL ISTORIA  作者: ぽん
愛に生きる者
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海上襲撃

船はクペサニーを南下して、イゴードの隣までやってきた。


デッキから見えたその小さな孤島を、ケンタロスと一緒に眺める。

霧がかかって全体が霞んでいたものの、植物が鬱蒼と生い茂っていて・・・まるでジャングルのようだった。


・・・どんな島なのかな。

いつか行ってみたいな。


イータルコルムは地図で見れば、イゴードの左下にある。

玉ねぎのような三角形をしていて、大きさはルトナムの島の倍はある。

何の定義で分かれていたかは忘れたけれど、これだけの大きさがあれば島でなく大陸と呼んでもおかしくない広さ。


クフトーの街へは、大陸の頭から右下に沿って海を渡っていく。

イゴードを通った時点ではまだ半分もきていないものの、イータルコルムの目玉である火山を横目に航海出来る。

何もかもが新鮮だったから決して退屈はしなかった。


「何でぇ、まだ見てんのか?」


たらふくビールを呑んできたのか、腹がパンパンになったルイーガがやってきた。

僕の隣で腕を手すりへ置いて、同じように景色を眺める。

ここからでもはっきりと見える火山に感嘆して、山登りでもするかと冗談めかして笑ったりした。


「んで・・・何でお前さんはさっきから俺にそんな目ぇしてんだ。」


ルイーガは後ろを振り返ると、その言葉がケンタロスに向けられた言葉だと気付いて僕もそちらを見る。

予感はしていたけれど、眉間にしわを寄せて険しい目をして、僕達の後ろで腕を組みルイーガを睨みつけている。


「酒と獣臭さが強烈でな、ついついこんな顔になる。」

「あぁ、すまねぇな・・・草しか食わねぇ奴はさぞかしいい匂いがするんだろうなぁ。」


挑発に乗ったルイーガが鼻の穴を大きく開いて、わざとらしく匂いを嗅ぐ素振りを見せつけると、更にケンタロスの表情が険しくなる。


「下劣な野郎だ、一緒にいると反吐が出るわ。」

「おぉおぉ、言ってくれるじゃねーか馬の分際でよぉ・・・コンビーフにされてぇか。」

「ちょっともう、やめてよふたり・・・ぅわっ!」


目の前で2人が火花を散らした時、船体が右に大きく傾いた。


突然の事で海に放り出されそうになったが、何とか手すりに掴まって事なきを得た。

周りで悲鳴が上がり、パニックになった船客達がバタバタと走り回る。

揺れは次第に収まって船体も元に戻っていた。


「魔物です、船内に避難してください!」


船員の声だろうか・・・大きくはっきりとした口調で聞こえた。

その声に、乗客が我先へと船の中へ急ぐ。

後ろから走ってきた人と肩がぶつかり、よろけてしまった僕をしっかりとケンタロスが支えてくれた。


ラウンジへ続く入り口は人で溢れ返っていた。

周りで黒いタキシードを着た船員達が誘導しているが、混乱した人達の目には見えていないようだ。

すっかり出遅れてしまい、僕達は人が居なくなったデッキに取り残されていた。


ルイーガが反対側のデッキへとのしのし歩いていく。

船を押した魔獣でも見に行こうとしてるのだろうか。

このままラウンジの入り口が空くまで突っ立っているのもなんだし、僕もルイーガの後を追う。


いつまた大きい揺れがきてもいいように、手すりに手をかけながら付いて行く。

蹄の音も聞こえるから、ケンタロスも後ろから付いてきているようだ。


船首を曲がって反対側へ行くと、既に大勢の船員達がボウガンを持って応戦していた。

邪魔にならないように・・・距離を置いて下を覗いてみる。


シャチに似た魔獣が群れをなして船の周りを泳いでいる、といえば優雅に聞こえるけれど、1体1体が大きい・・・この前戦った大狼と同じ位。


頭の上に背びれのようなものが1つ、更にその後方にもう1つ・・・あとは水中でぼやけていてよく分からない。

確かに大きさはあるけれど、この巨大な船を動かす程の力は持っていないように思える。


「隠れてやがるな・・・でけぇのがよ。」


ルイーガがじっと睨んでいるのは・・・海の底。

僕も彼と同じ場所へ目を凝らしてみるけど、それらしき物は何も見えない。


ガクンと縦に船が揺れて、ゆっくりと傾いた。

揺れに耐えられなかった船員達が斜面になったデッキを転がっていく。


船底から攻撃しているのが、きっと親玉だ・・・!

けど、水面に姿を現さなきゃどうする事も出来ない。

この船は軍艦でも狩猟船でもない、普通の貨客船なのだから。


揺れが収まり、転がっていった船員達も所定の位置へ戻ってきた。

海面にはボウガンの矢が命中して仰向けになり動かなくなったシャチがちらほら見えるけれど、まだ多くのシャチが海の中を縫うように泳ぎ回っていた。

・・・矢が刺さった箇所から流れた血で、船周辺の海は赤く染まっている。


突然、海面を泳いでいたシャチ達の背びれが消えた。

応戦していた船員達も構えていたボウガンを一旦下ろす。


海が静まり返り、船の上でも沈黙が流れる。


「・・・来るぜ!!」


何かに勘付いたルイーガが手すりから離れて後ずさった。

それを見ていた僕の腕を掴んで、ケンタロスも同じ位置まで距離を取る。


ルイーガの言った通り、すぐさま足元を振動が襲う。

微弱だったものが・・・地震のようにだんだんと大きくなっていく・・・!

ケンタロスが僕の腕を掴んでくれていなかったら、今頃床に崩れ落ちていたかもしれない。


船から大分離れた海面が盛り上がっているのが見えた。

それは段々と高くなって、周りの海面がそれに吸い込まれて水位が下がっていく・・・引き潮のように、船自体も引き寄せられていく・・・!


「ど、どうしよう、このままじゃ・・・!」

「焦るなラスタン・・・その前にあれが破裂する方が早い。」


ケンタロスも見据えていた、ゼリーのように大きく盛り上がった海面が・・・次の瞬間に弾けた。


海水の粒がここまで飛び散ってくる。

それを片腕で防ぎつつ、破裂した海面へ目を凝らした。


船よりは小さい・・・けど、3分の1程はある。

エビ剃りに跳ね上がっている親玉は、シャチの魔獣達とは比べ物にならない大きさだった。


腕のような胸ヒレ、そして下腹部からも足の代わりのようにヒレが生えている。

白模様の中の瞳がこちらを睨みつけると、そのまま頭を下げて体を半回転させた。


瞬間、親玉の口から物凄い水圧の海水が吐かれ、船に直撃した。


船員達が固まっていた場所へ的確に当たり、数十人が水圧で吹っ飛ばされてしまった。

即座に上がる悲鳴と絶叫が・・・僕の耳に入ってくる。


「やるじゃねぇかよあのデカブツ。」

「そ、そんな事言ってる場合じゃ・・・!」


親玉は大きな水しぶきを上げて、そのまま海中へ潜っていった。


海に落ちた船員達をシャチが海の底へと引きずり込んでいく。

そんな恐ろしい光景を目の当たりにすれば、戦意喪失してしまうのもしょうがない。

デッキに残された船員達はボウガンを放り投げ、一斉にラウンジへと駆け込んで行ってしまった。


数名の船員と、僕達3人が残された。

船はあの親玉が最初に起こした揺れの時に既に停止している。


・・・きっと見逃してくれる筈、ない。

あいつを倒さなければ、このままでは転覆させられてしまう。


そうすれば船に乗っている人全員が助かる事はない・・・僕の命も同じ。


陸ならルイーガの力も借りてなんとか出来ただろうけど。

ここは海の上だし、しかも船の中から海に隠れた魔獣の親玉を倒すなんて到底出来っこない・・・!

・・・こんな事ならライフを制してアルカボルドへ行けば良かった。


そう思い青ざめている僕の左肩を・・・ケンタロスの手が優しく叩いた。


「そんな顔するな。」

「でも、このままじゃ船が・・・!」


ドスンと大きな麻袋を床に置いて、ケンタロスが袋の口を開きその中に手を入れた。

彼の手に掴まれ出てきたのは・・・何かの柄。


柄の底にはエメラルドのような石突が光っていて、石突と柄を繋ぐ金具の穴からは鎖の輪っかが繋がっている。

紫色の柄から先は革で覆われていたけれど、形から斧だとすぐに分かった。


「良い斧だろう、腕利きの鍛冶師に特注して貰ったものだからな。」


革の鞘が外され、斧頭と刃先が僕の瞳に映る。

・・・そこいらにある、薪割り用の斧じゃない。


柄の先端から左右に刃が付いている、見た事もない斧だった。

柄から刃を繋いでいる斧頭がまるで翼のように見える。


それを一旦床に置くとケンタロスはまた袋を探り、全く同じ斧を取り出した。


「双斧たぁ、馬のくせに洒落た武器じゃねぇか。」


両手を腰に当ててルイーガが笑う。

それを無言でひと睨みしてから鎖を腕に通して柄を握り、両手が斧で塞がるとケンタロスは僕へ向きを変え・・・微笑んだ。


「お前はここで見ていてくれ。」


僕から視線を変えたケンタロスの表情が、あっという間に険しいものへ変わる。

そして突然手すりを飛び越え、彼は海へと落ちていった。

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