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CRYSTAL ISTORIA  作者: ぽん
愛に生きる者
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クペサニーとケンタロス

ルトナムを発ってから、2日目の夜を迎えた。


初日の夜はコテージを見つけて無事に宿泊する事が出来たけれど、今日は昼間に通り過ぎたコテージ以外には何もなく、街道一直線コースだ。


ルトナムの島は大雑把に言えば、半円の形をしている。

直線とまではいかないが、弦の部分がルトナムとクペサニーを繋ぐ街道になっている。

その為街道はほぼ直線で、時々ゆるいS字道を曲がる程度だった。


日が昇らない内にコテージを出発し、中間地点を示す看板も昼過ぎに通り抜ける。

夜通し歩き続ければ朝にはクペサニーへ到着できる・・・筈だった。


でも、これ程歩き続けた事がなかった僕の足は既に限界を迎えそうな状態だし、ライフはとっくのとうに獣化したルイーガの背に跨っている。

ルイーガの負担になるまいと、小さな意地を張り続けていたけれど・・・ついに足が止まる。


「まぁ頑張ったんじゃねぇか?

 そろそろ乗れや、がははは!!」


ルイーガはライフだけでなく、僕のリュックも背負ってくれている。

魔獣も全く現れなかった訳でもない。

大狼とまではいかないけれど山猫や狼の群れに何度か遭遇したし、その度に活躍したのはルイーガだ。

それなのに・・・今の今まで、今も、息ひとつ切らさず歩いている。


鉛のついたような足を引き摺り、ライフの手も借りて彼へ跨った。


初めて乗ったルイーガの背中はゴワゴワしていて、背筋の硬さが感じられる。

体を前に倒して、ルイーガの鬣へ顔を埋めてみる・・・獣臭いけれど、とても温かい。

ルイーガが歩く振動や揺れの心地良さは、疲弊していた僕をあっという間に夢の世界へ誘った。


・・・目を覚ました時、辺りはまだ暗かった。


意識がなくなる前と同じ格好で僕はルイーガに乗っていたけれど・・・違った事は、腰のあたりにも温もりを感じた事。

微かに寝息も聞こえる。


「おう、起きたか。」

「ごめん、寝ちゃったみたいだ。」

「そんなに経ってねぇよ・・・お、村が見えてきたぜ。」


ライフを起こさないようになるべく首だけ伸ばして前方を覗く。

木々が少なくなったその先、街壁に灯りが灯っているのが見えた。

鉄製の街門の両端にもたいまつが暗闇の中に光っている。


そこへ辿り着くと、街壁の上から警備兵がこちらを覗き込んだ。

僕達が魔獣ではないと分かるとすぐに門を開けてくれる。


鉄格子が上へ軋みながら開いていく・・・。


クペサニーの街だ。

軒並ぶ家や店が彼方まで続いていて、パスルタチアやルトナムよりも遥かに規模が大きい。

夜も更けている為か、人気はほぼ無いけれど。


警備兵の人に宿屋までの行き方を教えてもらう。

驚く事になんと宿屋は5箇所あるみたいだ。


懐もまだまだ温かいので、とりあえずここから一番近い宿に泊まる事にした。

夜分にも関わらず、幸いその宿の部屋には空きがありすんなり入ることが出来た。


ライフはルイーガが人化する前に僕に起こされ機嫌を損ねたものの、部屋に入るなりベッドに倒れこんですぐに寝てしまった。

・・・疲れてたんだろうな、ライフも魔獣とたくさん戦ったし。


ルイーガもベッドの隣の床に転がった後、すぐにいびきをかき始める。

僕もシャワーを浴びた後、パンを少しつまんでルイーガの隣で床に就いた。


目覚めたのは昼前で、ライフとルイーガが湯浴みを終えてからまた3人で昼食を摂った。

宿屋が用意してくれたもので、海の幸がたっぷり使われたシーフードサラダやスパゲティなど、食べ応え満点だった。


もう1泊延長を入れて、ライフとルイーガはふたり、観光へ赴いた。

一方の僕は、船の行き先を確認しようと港へ足を運ぶことにした。


宿屋から賑わう商店街へ行くと、人の多さに驚く。

人気の店にずらりと並ぶ長蛇の列、待ち合わせでごった返している広場・・・人混みに慣れていないから、戸惑いつつも足を踏み出し、奥の港へと急いだ。


当たり前だけど、港にも多くの人が行き交っていた。

商店街よりも敷地が狭いので、その分人の密度が濃く感じる。

人混みの僅かな隙間を縫いながら、一隻ずつ船の行き先を確認するしかないみたいだ。


端から順に船の停留所の看板を確認する。

聞いたことのない地名もあったけれど、大体は予想していた通りにアルカボルドやイータルコルムに出ていた。


・・・それにしても、船まで大きい・・・。

乗客を何百人と収容できそうな貨客船が、人の群れの中からもよく見える。


見上げながら歩いていたせいで前方に居た人に気付かずぶつかってしまい、地面に尻餅をついてしまった。


「ご、ごめんなさ・・・い・・・?」


相手の顔を見上げたつもりだったのに、そこにあったものは男の胸だった。

更に上に目線を上げて、やっとぶつかった男の顔を捉える。


背が高い・・・というか、下半身が馬の体をしていて、とても大きく感じた。

馬体と同じブロンドの長髪は肩より長めで、少しくせ毛だけれど綺麗に手入れされている。

緑色の瞳、その瞳孔は横に伸びたものだった。


・・・胸板と腹筋がとても鍛えられてる・・・ルイーガと比べたら可愛いものに見えてしまうけど。

僕を見下ろしているその人獣族の男は片手に大きな麻袋を担いでいて、逆の手を僕に差し出してきた。


「大丈夫か?」

「・・・すみません、ありがとうございます。」


彼の手を握って立ち上がる。

何か違和感を感じたのは・・・彼が手を離さなかったから。

不思議に思い彼を見ると、彼もまた僕を見つめていた。


「名前は何て言うんだ?」

「・・・えっと・・・ラスタンです、ラスタン・ドルダ。」

「良い名前だな。」


男は目を細めて僕に微笑む・・・何となく気味が悪いのは僕の気のせいだろうか。


「もし良ければ、一緒に観光巡りに付き合ってくれないか?」

「・・・えっと。」

「ケンタロスだ。

 1人でこの街に来たんだが、右も左も分からない。」

「僕も昨日の夜着いたばっかりで、全然分からないんですけど・・・。」

「そうなのか、旅でもしてるのか?」


何故か僕の肩に手を置かれて、押されるがまま足が動いてしまう。

でも僕はその手を振りほどく勇気もなく、戸惑いながら話に流されていく。


「仲間の観光巡りに付き合ってる最中で・・・。」

「ほう・・・その仲間はどこにいるんだ?」

「い、今は・・・別行動、してます。」

「そうか。」


いつの間にか広場に戻ってきていた。

そのまま広場を通り抜け、人が少ない通りへと誘導されてしまう・・・。


心拍が早くなっていくのを感じた。


・・・も、もしかして・・・人身売買かもしれない・・・!

僕の肩から離れない彼の手は、頃合を狙って僕を気絶させるつもりなのかもしれないっ・・・!


ケンタロスと名乗った男から咄嗟に離れた。

僕の行動を、瞬きをしながら呆けて眺めている彼から目を離さずに、僕は剣の柄を強く握りしめた。

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