戦利品
何かが僕の腹を思い切り叩いた痛みと衝撃で目が覚めた。
ルイーガとたわいのない会話をしている内に寝てしまったみたいだ。
腹に乗っかったルイーガの右足を布団に下ろして、頭を掻く。
夕べの戦いでかいた汗と寝汗で頭が蒸し蒸しする。
とりあえずシャワーを浴びよう。
シャワー室の手前にある窓の外はまだ薄暗いけれど、すぐに日が昇るだろう。
扉を閉めて、一面水色のタイルを見渡しながら服を脱ぐ。
狭い脱衣場で衣類を置くカゴもない。
僕は脱いだ服の上に持ってきたバスタオルを乗せて、風呂場へいき、シャワーを出した。
最初は冷たかった水も次第に温かくなって、それを髪に浴びせて頭を洗う。
茶色い僕の髪をシャンプーで泡立て、しっかりと洗った後シャワーで流す。
体を洗う道具がないので、石鹸を手にとって体中を洗う。
腕を洗いながらライフに治してもらった箇所をまじまじと見る。
そこには傷跡一つない。
短時間で傷を癒せるのは魔力が高い証拠だ。
短剣の扱いもなかなかの腕前だし、綺麗だし・・・エルフ族というのは皆こんなに長けている人種なのだろうか。
あとはあの尊大な性格さえなければ女神なのに。
彼女の事を考えるのをやめて、全身の泡を落とした。
汗臭かった僕の体から、石鹸の良い匂いが漂う。
衣服を着てシャワー室から出ると、ルイーガが散らかった洗面所で鏡を見ながらヒゲを剃っていた。
「おはよう。」
「おう。」
昨日の髪よりもさらにこんがらがった長い髪がクリンクリン飛び出している。
思わず噴き出してしまった。
「癖毛がひどくてよぉ、いつも朝はこんなんだ。」
「手入れはしないの?」
「めんどくせぇからな。それに、時間が経てばまぁマシになるしな。」
僕達の会話で起きたライフが身を起こす。
「おはよう。」
返事はない。
ライフはそのまま台所へ行き、口を漱いで顔を洗う。
ルイーガとは正反対のストレートな金髪が綺麗に流れている。
玄関のドアをノックする音が聞こえて、昨日の舵をとっていたおじさんが現れた。
「おはよう、昨日はありがとう。」
「おはようございます。」
おじさんは白いセーラー服の胸ポケットから封筒を取り出して僕に渡した。
「遅くなったが謝礼金だ。」
中を見ると札束が10枚入っていた。
実際手元に入ると物凄い安心感が僕を包み込む。
もう仕事に行く時間だから、とおじさんはドアを閉めて行ってしまった。
寮を出る時はそのまま鍵も閉めないでいいと言ってくれた。
早速朝飯を食いに行こうと張り切るルイーガ。
身支度を整えて僕たちは早々に寮を出た。
太陽が昇ってきた。辺りは随分明るくなったが潮風がやや強く吹いていて肌寒い。
酒場へ行くと閉店中だったが、2つ隣にある喫茶店で朝食を摂る事が出来た。
同じメニューの目玉焼きにサラダを頬張りながら、これからの旅路について話し合う。
まずはクペサニー村へ行き、船の行き先がどこに繋がっているか見てから決めようという話になった。
地図を広げておよそ検討をつける。
クペサニーと海を挟んだすぐ右隣はアルカボルド大陸のサンドラという街がある。
とても大きな街で、僕が住んでいたミルディブの島と同じ位の広さはあるだろう。
小さい頃、家族全員でよく旅行に行った覚えがある。
その時はアルカボルド城が手配した立派な船で、父さんが連れて行ってくれた。
何日かけても回りきれないほどの店がズラリと並んでいて、毎年行っても新鮮な街だった。
クペサニーから右下、アルカボルド大陸から左下にもサンドラよりかは少し大きめの島があった。
名前は確かイゴードと言ったはずだ。
どういう島なのかは行ったことがないので分からない。
イゴードから左下にある、特徴的な三角形の形をした大き目の島、これはイータルコルム大陸だ。
ここもまだ行った事はないけれど活火山がいくつもあり、そこから採れる鉱石で作る武器は天下一品だと父さんがよく言っていたのを覚えている。
個人的には是非とも行きたいが、武具を買うにはもっとたくさんの金が必要だろう。
候補はこの3つの島。
アルカボルド城に行って、父さんが勤めていた龍騎士団の人達に話を聞けば何か掴めるかも知れないと僕は勝手に思っている。
だからこそサンドラへ向かいたいのだけれど、お嬢様の機嫌がそれでは優れないらしい。
僕の旅はそこで終わる可能性が高いから、それならば各々の島を渡って色々と景色や情緒を楽しみたいと言うのだ。
ルイーガは何も言わなかったが、彼も自分の記憶を探さなければならないし、僕もそれに協力するつもりだ。
非常に悩んだ結果、ライフの案を通す事にした。
アルカボルドは逃げないし、僕も他の島々を見て回る良い機会だ。
ルイーガの記憶の手がかりもあるかもしれない。
貰った報酬は勝手に任命された財布係の僕が握る事となった。
ルトナムを発つ前に、武具屋と食料を買い込んでおこう。
ライフに5000ガリッドを渡し、適当に食料を買ってくるように頼んだ。
僕とルイーガで武具屋へと足を運ぶ。
昨夜はよく見えなかったけれど、ちゃんと街案内の看板が至る所にあって、僕らは迷わずに武具屋へ辿りつく事が出来た。
パスルタチアよりも大きくて、路地に出し売りされている槍や弓なども丁寧に柄や取っ手まで磨いてある。
開いている扉を通り抜けると、中でも多くの武具が僕達を取り囲んだ。
シミターや斧、サーベルなどがぱっと見多く、きっと船員さん達御用達の武具屋なのだろう。
「あんた達かい、狼を倒したのは。」
僕達に気付いた女の人が僕達へと歩み寄る。
聞けば、昨夜の船員さん達の1人の嫁さんらしい。
赤黒い肌をして、髪は短いが赤と白のボーダーバンダナを巻いている。
タンクトップに短パンという、港村ならではという服装だ。
「ちょっと奥へおいでよ、昨日の狼の素材があるからさ。」
そう言われて通された奥間は、鍛冶処になっていた。
中央にはかまどがあって、中ではオレンジ色の炎が静かに光を放っている。
何に使うのか分からない木の板やシャベルなどが四方に散らばっていた。
隅に置いてある裁断に使うテーブルだろうか、その上に大きな銀色の毛皮、そしてその上には白い塊とまだらの黒い塊があった。
簡易イスに座らされ、簡単な説明を受けた。
白と黒の塊は大狼と狼達から削ぎ取った牙と爪を、それぞれ全部加工してくっつけたそうだ。
それらを更にこれから加工して、僕達にプレゼントしてくれるというのだ。
そこまでして貰う義理はないと断ってみたものの、この人の旦那さん、つまりは船員さんの仲間がこいつに殺されてしまったらしい。
体は大きいし取り巻きの狼達も多く、船員達で討伐に出かけた事もあったが結果は散々たるものだった。
友の敵も討てない、船員さんはえらく落ち込んでいた矢先、僕達が討伐してくれたので大変助かったという話だ。
そこまで言われれば、無下に断る事も出来なくなってしまった。
素材は引き伸ばして型を作るだけだから時間はかからないと言われた。
僕は鞘から剣を出し、出来ればこれと同じ形でとお願いした。
剣には拭き取れなかった血が固まってこびりついている。
お姉さんの手に渡ると、嘆声があがる。
「血がそのまんまなのもだけど、これは剣身も酷いわ。」
良く手入れしていないのが原因だそうで、多分パスルタチアの武具屋のおじさんだろう。
牙の塊を同じ型にして、そのままこの剣身と取り替えてくれるそうだ。
何から何まで有難い。
爪の塊も加工して、ルイーガのナックルを作ってくれる事になった。
彼の手の平、手首周りの長さを計って、後は適当に作るらしい。
・・・彼の鉄拳の威力がまた上がると思うと恐ろしい。
毛皮は特に用途がないので、そのまま献上した。
冬に羽織れるコートが作れるとお姉さんは喜んでいた。




